協和発酵工業株式会社様のご依頼により、PM向け教育研修を実施いたしました。この案件のご依頼のきっかけや実際の取り組み内容を振り返りながら、情報システム部門のPM教育研修ご担当者に今回の成果や今後の課題について率直なご意見・ご感想をいただきました。(一問一答はご担当者のコメントをもとに編集したものです)
この事例紹介は2006年に取材したものです。
社名、人物の肩書などは取材当時のものです
お客様の課題 | 組織変更に伴いPMが不足し、PM未経験者を育成する必要に迫られた。 |
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当社支援内容 | 当社のPM教育のコースに基づいて体系的な基礎教育を実施させていただきました。 |
解決策 | 社歴10年目、今後プロジェクトを牽引していく人、PMがよくわからない人を対象に研修を実施。 約25名が受講 |
2005年4月、協和発酵は、医療用医薬品事業とアミノ酸を始めとしたバイオケミカル事業を中心とする協和発酵工業株式会社を事業持株会社とし、溶剤・可塑剤・機能化学品等の開発・製造・販売を行う協和発酵ケミカル株式会社、調味料や製菓・製パン資材等の開発・製造・販売を行う協和発酵フーズ株式会社を分社・独立させ、その他関連会社も含む協和発酵グループとなった。
同グループにはいわゆる「情報システム子会社」というものがなく、協和発酵工業株式会社の情報システム部が協和発酵グループ全体のITガバナンスから開発・運用サービスまでを提供している。システム実装の部分は、ITベンダーへ依頼しており、その運用についてもアウトソーシングが進んでいるため、現在、情報システム部門の社員の役割はその上流のシステム企画が中心となっている。
PM研修の必要性が生じたのは、ちょうど会社全体の組織変更によって、コーポレートガバナンスの考え方そのものが試行錯誤の中で変化しつつある時期だったことが背景にある。
その前の一時期、社内で意思決定の分散化がなされた時期があった。それが経営環境の変化等を受け、2005年4月の組織変更によって、よりトータルな意思決定をしていこうという形に変わりつつあった。しかし、当時はまだ変化の途中で、過去の分権化志向が各所に残っているのが現状であり、情報システム部門もグループ各社・各部門で個々に意思決定されたものをサポートするような役割になっていた。グループ全体のITガバナンスを担うというよりは、むしろ受身の状況だったのである。
上記のような協和発酵グループ全体の変化に伴って、今後は情報システム部門がリーダーシップを発揮し、グループ各部門のイノベーションを牽引していく役割を担うことが期待されるようになった。そのため、情報システム部門でも社員の意識を急速に変える必要に迫られた。
特に全社的な組織変更に伴って、徹底したリストラが行われ、経験豊かなマネジメント層がまとめて抜けてしまう結果となった。その分を埋めるべく、若手社員に今まで以上にがんばってもらう必要があった。そして、今までマネジメント層が担っていたPMについての知識やスキルを若手社員が短期間に身につけ共有する必要があった。
そのひとつの方策として2005年秋にPM研修を実施したのである。
アイ・ティ・イノベーションは、長くPM教育に力を入れてこられた会社だとずっと以前から存じていましたし、「研修はこのような考え方で実施します」というメッセージをいただいたとき、「PMとはコミュニケーションです」という内容のお話があり、そのあたりが当社の思いと一致したということがありました。
もちろん、PM研修を実施しようと考えた段階で、何社かお話をお聞きして比較したのですが、アイ・ティ・イノベーションのものが最もよいカリキュラムなのではないかと考えました。要するにカリキュラムの内容とメッセージが決め手になったということです。
組織変更の際にマネジメント層がいなくなってしまったという経緯により、PMを意識できていない若手メンバーに「そもそもPMとは何なのか」ということを早く、認識させる必要があったので若手へのPM基礎教育が今回の研修の第一の目的でした。ですから、受講者もベテランではなくて、社歴としては10年目くらい、今後プロジェクトを牽引してもらわなければならない人たちで、かつPMというものがよくわかっていない人たちをターゲットにしました。
開発やインフラ導入などプロジェクト的要素の求められる人たちを優先的に選びましたが、参加できる人は、できるだけ参加してほしいという方針を採ったため、一回の研修で約25人が受講することになりました。
当社の目指すところは、少数精鋭の情報システム部で当社全体のITのレベルを上げていくことです。理想としてはPMも出来、上流のモデリングもアーキテクトもできるというマルチな人材を作っていかなければなりません。PMは、あくまでその一側面かと思います。もちろんPMは、ベンダーさんやユーザーさんとコラボレーションしていく上で非常に重要ですが、合わせて分析やファシリテートの能力もどんどん上げていく必要がありますから、今年はその部分の研修に特化して行っています。
PM教育についてもこれで十分というわけではなく、とりあえず初級講座が終わったところと考えています。今後、全員とは限りませんが、もっと社内的にも大きいプロジェクト、例えば、ある基幹系の再構築プロジェクトが担えるようなスペシャルなPMも育成していく必要があるでしょう。それには、応用問題というか個別のケーススタディーというか、その人用の特別のメニューが必要ではないかと思っています。例えば、他社さんと一緒に勉強会のような場を作ってケーススタディーをやっていくなど、よりPMとしての実力が深められるものができないか模索中です。日常の業務もある中で、参加できるような研修の場が作れればよいと思います。
アンケート結果を見ると、非常に刺激を受けたようです。「研修を受けて、もやもやとしていた頭がすっきりした」とか「やる気が出てきた」という回答が多く見られました。今までそのような研修がなかったので、体系だった教育に飢えていたところもあるのかもしれません。
担当者としては、ツール教育でもないし、当社としても今までにやったことがない研修だったのにもかかわらず、受講者が予想以上にきちんと受け止めて前向きに捉えてくれたので実施した甲斐がありました。
講師の先生方の具体的な話の中に、受講者一人ひとりの胸を突く、共感できる部分があったのではないかと思います。それまでの自分が置かれた状況によって、講師のメッセージが違和感なく入ってきて、「ああ、そうだな」と思った部分も受講者ごとに異なっていたのでしょう。それが、その後の受講者それぞれの行動、いわば応用問題に効いているのだと思います。
この事例紹介をきっかけに受講者にヒアリングを行いました。やはり受講者の研修内容の受け止め方、その後の仕事への活かし方はそれぞれが違うようです。
一番多いのは、「研修後に特にコミュニケーションを心がけている」という受講者の回答でした。具体的には、「問題をいかに早く言ってもらうか気をつけている」、「従来から会議のやり方に不満があったので、目的をきちんと整理してみんなが意見を出せるように雰囲気作りに努めている」、「メンバーのモチベーションを高めるための努力をしている」などの意見が出ました。
もちろん個々の立場の違いもあるからこそ研修内容の捉え方や活かし方が異なるのでしょうが、そこをみんなで共有していくともっと面白いのではないかと思います。
一方、全体に共通しているのは「WBSとはなにか、PMとは何か、それまでぼんやりとしか理解できていなかったのがはっきりわかった」ということが挙げられます。また、「今まで管理職やプロジェクトマネジャがどんなことで苦労していたかわかった」、「自分がプロジェクトの中でどのような役割を担えばよいのかが非常によく整理できた」、「責任が明確になって自分の役割がわかったと」いう意見も出ています。研修を実施してから一年くらい経ちますが、時々「PM研修ではこういうふうに言っていましたよね」という言葉も聞きますし、それなりに自分自身で咀嚼して仕事に活かしているようです。
このような教育は、少しずつしか効果が現れないものですが、一人ひとりが意識して少しでも前向きに捉えていくことが組織力向上につながるのだと、時間が経ってからヒアリングしてみて改めて感じました。
ひとつ気になったのは、「せっかく研修をしたのにそれを活かす場がないのではないか」という意見が出たことです。研修と合わせて、経験が生かせる適当なプロジェクトを提供してくことを考えていかなければならないとは思っています。ただ、当社は社内のシステムを担当している部署なので外にマーケットを求めるわけには行きません。社内でどのように場を提供していくのかが大きな課題だと思います。
当社では、それまでPM教育を行っていなかったので、アイ・ティ・イノベーションには、まずベースとなる体系的な基礎教育をお願いしました。それに加えて、研修の講師の方々には、「アイ・ティ・イノベーションの持っているメッセージが当社の考えと近い部分があるので、そこをきちんと伝えていただきたい」とお願いしました。また、本来は3日間の研修プログラムでしたが、これだけの人数が一気に仕事を抜けるのは2日間が限度だったため、無理やり2日間に詰めてもらいました。
まず「PMとは何か」という座学があって、その後にワークショップがあるのですが、どうしてもワークショップの部分がかけ足になってしまったようです。直後に受講者に行ったアンケートでは「スケジュールが厳しかった」「もっとゆっくりやりたかった」という意見が多くなってしまいましたが、諸般の事情を考えるとこの部分は仕方がなかったかと思います。