ANAシステムズ株式会社(ASY)様は、今までシステム開発の要件定義段階から担当していた役割を企画段階から担当する変革に取り組まれています。
その中でITIはASY様のご依頼をいただき、企画工程人財育成の支援をさせていただきました。
従来型のエンジニアの育成と違って、クライアントに対する積極的な提案能力が求められる企画工程人財の育成には時間とコストがかかります。また、対象者のエアライン業務への興味の度合いが育成の成否に大きく影響を及ぼします。
このインタビューでは、ITIの企画工程人財育成研修を導入された高塚様に実体験を交えながら忌憚のないご意見をいただきます。
本事例紹介は、2015年9月に取材したものです。社名、人物の肩書などは取材当時のものです。
最初に、企画工程人財育成プログラムを設計するに当たって、ANAシステムズ株式会社(ASY)様がどのような課題に直面していたのかを教えてください。
ANAシステムズ株式会社(ASY)は2013年に全日空システム企画とANAコミュニケーションズが合併して設立されました。インフラからアプリケーションまでANAのエアラインビジネスをITの力を使って支えています。 これまでのASYでは決められた業務をシステム化することが中心で、積極的にIT企画を提案していくことまでは求められてきませんでした。しかし、これまで受注した案件も後数年すると一段落します。また、顧客のニーズは今まで以上にハイレベルなものになっていくでしょう。
顧客のニーズにスピーディに対応していくためには、受け身の体制では難しいですね。
高まるニーズに応え続けていくためには、時代を一歩先行く新しい案件を自ら作り出していかなければなりません。例えば、最近空港で自動手荷物預け機をご利用になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。ANA BAGGAGE DROPと呼ばれるこのシステムもANAが業務企画を実施し、ASYがIT企画と導入に携わったものです。
これからますます高度化・多様化するエアラインビジネスを見据えたとき、ASYの人財ポートフォリオに大きな改革が必要なことは明確でした。特に、企画工程人財は目に見えて不足しており、計画的な育成が必要不可欠であると考えるに至りました。
企画工程人財の育成を支援するコンサルティング会社はほかにもありますが、ITIの研修のどのような点を評価されたのでしょうか。
さまざまなコンサルティング会社を検討する中で、ITIの提案は他にはない魅力を持っていました。多くの企画工程人財育成プログラムは資格(BABOK:CBAP/CCBA)を取ることが主眼となっており、必ずしもASYの業務にマッチするものではありませんでした。ASYの業務に合わせた実践的なプログラムを提案してくれたのはITIだけだったのです。コンサルティング会社を選定するに当たっては、ASYの中期人財育成計画との整合性も大きなウエイトを占めていたのですが、ITIが定義している教育コース体系図が当社の計画にぴったりマッチしていました。
ビジネスアナリスト、ITアーキテクト、開発担当者、プロジェクトマネージャ、運用担当者、営業担当者などのロールが当社のイメージとほぼ同じ形で体系化されており、それぞれの役割に対して具体的な教育プログラムが用意されていたので、とても安心感・納得感がありました。また我々の課題を親身になって捉えてくださったことも大きかったです。
ほかに何か判断材料になったことはありましたか?
実は最後の決め手になったのは、講師の方との相性です。ASYを担当してくださった横尾先生は大の飛行機好きで、打ち合わせの段階からとても話が弾むのです。ときには飛行機を愛するがゆえの脱線もありましたが、熱のこもった横尾先生の講習は実際に非常に満足度の高いものでした。
実際にITIの研修を受けて、どのような印象をお持ちになりましたか?
ITIの研修でとても好感を持ったのが、首尾一貫して企画工程をASYの言葉で説明してくださったことです。ASYのスタンダードの上に企画工程を位置づけてくださり、違和感なく理解することができました。理解できることと腑に落ちることは違うと思うのですが、横尾先生の研修は豊富な実務経験に基づいており腑に落ちるものだったと思います。全体評価も5段階で4以上の項目がほとんどです。
質だけではなく量も満足できるものでした。横尾先生の研修ではWhyを追求したうえで、AsIs-ToBeの分析を徹底的にやります。
通常は3階層くらいまでだと思うのですが、横尾先生の研修ではきっちり5階層まで掘り起こします。この掘り起こしを繰り返し行うことで、IT化の範囲・階層をどう定めたらよいのか皮膚感覚でわかってくるのです。
全体のワークのほかにどのような研修があるのでしょうか。
ITIの研修で、もうひとつ特徴的なのがOne On One(ワン・オン・ワン)の個別指導です。全体のワークで基礎体力を付けた上で、実地で必要となる現場力を身につけていきます。かつてASYのメンバーは引っ込み思案でユーザー折衝に踏み込みきれない場面がありましたが、One On Oneの前後で明確に動きが変わりました。事前集合研修の中で企画工程のプロセスと構造を理解し、One On Oneで実業務サポートを通じて企画工程がどんな役割なのかを肌で体感できたことが大きいと思っています。
企画工程人財の研修は一朝一夕に成果が出るものではありません。研修を導入する上で大変だったことはありますか?
研修のような人を育成するプロジェクトはなかなか結果が出ませんから、経営層にも現場にもしっかりした説明と動機付けが必要です。私はこの研修を導入する上で、ASYの問題を掘り起こし、課題を定義しました。そして将来的な人財ポートフォリオを作成し、将来どのような環境になっていて、どんな人財がどれくらい必要になるかを可視化したのです。結局ITは人でしかありません。ASYの経営者もそのことを理解しています。
ASY様では企画工程人財に独特の呼び名を付けているそうですね。
企画工程で必要とされる人財を定義していく中で生まれた言葉が「ノリのいいSE」です。ビジネスアナリストのような呼び方をしてしまうと、スティーブ・ジョブス凄腕コンサルのような手の届かない人財像をイメージしてしまいますが、ASYではあくまでSEの延長線上で、自分でやりたいことを提案しながら進めていけるエンジニアを想定しています。
もちろん自発性や主体性は人それぞれ適性がありますので、この研修に参加するメンバーは選抜式にしています。エンジニアリングを追求するタイプの人もいるので、そういう人には無理に勧めません。仕様書をレビューして、そのまま素直に受け入れる人と、なぜですかと深掘りする人はタイプが違うのだと考えています。
良いお話ばかりを伺いましたが、何か注意点等ありましたらお教えください。
ITIの研修は本気の研修なので、それに見合う熱意が受ける側にもないと大変かもしれません。特に横尾先生はエアライン業務についてお詳しく、ASYを愛してくださっていました。それから、教育はすぐには成果に結びつきませんので、経営陣にしっかり趣旨を説明して理解を得ておく必要があります。また、現場の管理職にも必要性を理解してもらい、実務研修に協力してもらうことが重要です。
経営層も管理職も人財が経営の基盤であることを知っています。ですから、育成を損ねるとリスクの引き金となることを可視化し、親身になって考えてもらうことが大切です。
ANAは今後も激化する環境変化に適応すべく、サービスの多角化や質の向上を含む業務改革を進めます。ASYはITでANAの経営を支えます。そのためには少しでも先回りした提案企画を行い、ITでリードできるようにならなくてはいけません。これを見据えて人財ポートフォリオを作成し、育成プランを提示することで経営陣の理解を得ました。
これからのASY様はどのような方向に進んでいくのでしょうか。
いわゆる「ノリのいいSE」達は今のところ70名弱を育成してきました。今、エアライン業界は各社付加価値向上を目的として、カスタマーエクスペリエンスという概念が進んでいます。ASYも、今後お客様向けに新しいサービスを提供することになるでしょう。
そのためにも、ASYは”ノリのいい”メンバーを育成し、新しいサービス提案を可能とすべく、ASY付加価値向上に向けて挑戦を続けていきます。