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スケールフリーなデータアーキテクチャ ~データHUBの発展過程~


昨今、クラウドファースト、アジャイル、データ中心、IT/AI民主化などをキーワードに、企業情報システムが備えるべきキーテクノロジーが提案されています。IPAからはDX実践手引書 ITシステム構築編が公開されていますし、現代的なデータ基盤の考え方であるModern Data Stackもあげられるでしょう。特にDX実践手引書は、ITシステムに求められる要素として「データ活用」「スピード・アジリティ」「全社最適」を掲げ、それを支える基盤技術を取り上げています。一方でその内容は基盤技術に焦点をあてており、そのうえで動く企業情報システムのあり方はやはり各自各様に考える必要がありそうです。

では、次世代の企業情報システムとはどうあるべきなのでしょうか?さまざまな考えがあるでしょうが、変化の早い(そして予測ができない)時代では、ビジネス変化に柔軟に(適正な費用、期間で!)対応できることが、これまで以上に重要になってきます。それを具現化する企業情報システムアーキテクチャを手に入れることが企業競争力に直結するでしょう。それはどのようなアーキテクチャでしょうか?今回はこのテーマを掘り下げていきます。そのヒントは複雑系ネットワーク理論にありそうです。

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<スケールフリーネットワーク>
現実の世界には様々なネットワークが存在します。インターネットは、世界中のコンピュータやデバイスが相互に接続された巨大ネットワークです。FacebookやLinkedInのようなソーシャルメディアプラットフォームは、人々の間の友人関係やフォロー関係を表すネットワークです。そして、企業情報システムもネットワークの一つです。そのなかには、永年のつぎはぎの開発を重ねた結果、非常に複雑で人の手に負えなくなっているものがあります。

左図をごらんください。このようなシステムは「巨大な泥団子(Big Ball of Mud)」と表現されます。それは非常に混沌とした、構造が不明瞭で、理解しにくいシステムを指します。このようなシステムは障害が多く予測不可能であるだけでなく、ビジネス変化に柔軟に対応できません。あなたの関わる情報システムがもしこのような状況だとしたら、一刻も早く転換することをお勧めします。では、どのような形へ転換すれば良いのでしょうか?

昨今の複雑系ネットワーク理論では、さまざまな要素やノードが相互に結びついて複雑なパターンを形成するシステムを研究されています。ランダムネットワークとスケールフリーネットワークは、この理論の中で特に重要な2つの概念です。
ランダムネットワークとは、ノード(点)間のリンク(線)が無作為に接続されているネットワークです。スケールフリーネットワークとは、一部のノードが非常に多くのリンクを持ち、多くのノードは少数のリンクしか持たない構造です。世の中には、さまざまなスケールフリーネットワークがあります。例えば、インターネットではコンピュータの導入と普及に伴って、ネットワークの頂点数(インターネットに接続するコンピュータの台数)は現在でも増え続けています。また、それとともに枝(コンピュータ同士をつなぐケーブルや無線の接続)も増えています。このようなネットワークは、成長するネットワークとも呼ばれます。鍵はハブとなるノードの存在です

スケールフリーネットワークは重要な性質をいくつか持っています。その1つとして、偶発的な変化に対しては非常に強いことが挙げられます。ランダムなネットワークはノードの一部が壊れると、ネットワーク全体に影響が及びます。一方でスケールフリーネットワークでは、一部が使えなくなっても全体は成長し続けることができます。そして、ノード数に変化があってもネットワーク全体の形に影響はありません。もちろん、ハブを標的にした攻撃に脆弱という弱点はありますが、あらゆるアーキテクチャにトレードオフはあります。むしろ、この進化的かつスケーラブルであるという点こそが、DX時代の情報システムが備えるべきアーキテクチャ特性といえるでしょう

<データHUBとは>
ここからは、スケールフリーなデータアーキテクチャの核心とも言える「データHUB」に焦点を当て、その重要性や有用性について深掘りしていきます。データHUBのコンセプト自体は新しいものではないものの、これまで十分に理解されてこなかったように思います。基本コンセプトを紹介しながら、私の考えを交え、データHUBがいかにして企業のデータ管理に革命をもたらすかを考察します。まず、皆さんご存知のDMBOKではデータHUBの特徴を次のように説明しています。

・複数のアプリケーションシステムから必要とされるデータを統合し、一貫したデータビューを提供する
・ハブ&スポークモデルにより共有データをデータハブに統合し、多くのシステムがそれを利用できるようにする
・新しいシステムを追加する場合は、データハブへのインターフェースを構築するだけですむ
・大量のシステムポートフォリオを管理するには、このハブ&スポークモデルが不可欠となる

従来から長きにわたって、いわゆるプロセス中心アプローチで情報システムを構築してきた結果、システム間の密結合が生み出されてきました。ピアtoピア型でのシステム間密結合こそが、情報システムの進化(いわゆるシステムリフォーム)を阻害する大きな原因です。この従来型アーキテクャを維持し続けることは、これからますます難しくなっていくでしょう。よく勘違いされるのですが、データHUBを導入するということは単に新しいネットワークノード(システム)を一つ追加するという次元の話ではありません。企業全体のデータアーキテクチャをどう整備し、あるべき姿に転換していくかを考えるということに他なりません。その要(かなめ)として、アプリ中立のデータ基盤(すなわちデータHUB)を構築し、その周辺のシステムの段階的かつ適材適所のシステムリフォームを行っていくことが、データHUBの意義となります

まとめますと、データHUBの役割には大きく3つあると理解してください。

・システム間のデータ連携の整流化のための通信場である
・共有データとして高品質なゴールデンレコードを格納する場である
・ビジネス変化に柔軟に適応する情報システムアーキテクチャの要である

<データHUBの発展過程>
データHUB構築にあたって意識していただきたいことがあります。それは、一気に理想的な完成形を目指す必要はないということです。少しずつ理想形に向かっていけば良いのです。破綻することなく段階的に要素を付け加えていけるのも、スケールフリー性があるからこそです。ここでデータHUBの発展過程を見てみましょう。ここではデータHUBが成長するシナリオを3段階で表現しています。まず左上が、ピアtoピア型でデータ連携されている初期段階の姿になります。そして目指すべき姿は左下のステップ3になるわけです。

ステップ1:ここでまず、初めてデータHUBの設置をします。最初の対象としてはマスターデータとなります。そしてマスター管理の仕組みを確立し最初のステップ1の形を作ります。
ステップ2:ここでマスター以外の共通のトランザクションを対象にします。共通トランザクションの整備とそのデータ流通の整流化、これがステップ2です。
ステップ3:ここで周辺の業務システムこれを適材適所な形で分離して配置するという形を形成します。この段階までくれば、マイクロサービスアーキテクチャへの転換も相当程度に可能となっていることでしょう。実際には全ての企業がこの段階を踏むわけではありませんが、基本的な考え方として参考になると思います。大事なことはそれぞれのステップで成果を上げていくということです。それが次のステップへの推進力となります。しかしこれでとどまりません。次の段階を見てみましょう。

ステップ4:これは単一企業の枠を超えた発展形となります。例として海外のグループ企業との情報共有を取り上げました。階層型のデータHUBによって、グローバル情報を共有する連邦型のガバナンスモデルを志向した形となります。実際にこの姿を目指して取り組みを進めておられる企業もボツボツおられます。弊社中山のブログでも解説していますので、そちらもご参考にしてください。

ステップ5?:さらにその先の発展形はあるのでしょうか。もしかするとグループ企業の枠を超えて産業構造にまで広がっていくのかもしれません。DXレポート2.1では、デジタル産業構造とそこで企業がどうつながっていくべきかが示されました。そこでは、これから産業や企業の構造はますますネットワーク化、分散化、そしてソフトウェア化の方法を目指すべきと述べられています。このデジタル産業を支えるハブという発想がこれから出てくるかもしれません。デジタル産業モデルに関わっておられる方と意見交換できる機会があればと思います。

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データHUB取り組みのポイントを3つあげてみます。
1点目は、データマネジメントの一環として取り組もうということです。当たり前なことをと思われるかもしれませんが、テクノロジー先行で取り組まれている企業はまだ多いように思います。データが主でテクノロジーが従と捉え、組織全体を巻き込んだ長期的な取り組みとしましょう。
2点目は、着想は大きく着手は小さくということです。大きな視野で構想し、実装は小さく始め、変化は俊敏に取り込んでいきましょう。
3点目に、自社の強みを生かしたデータアーキテクチャを目指しましょう。主体はあくまでユーザー企業です。企業の人とシステムの成長、そしてそのワクワク感。これが成功の要諦となります。ぜひ、スケールフリーなデータアーキテクチャに楽しく取り組んでください。

データHUBの導入は、企業の柔軟性と競争力を高めます。本ブログが、データHUBとそのアーキテクチャを理解し、データ活用の次の一歩を踏み出す助けとなれば幸いです。

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こちらの動画でも弊社が提案するアーキテクチャのアプローチについて松井が説明しております。
◆わたしたちのアプローチ
・モデルベース(全体を捉えた青写真)
・データ中心アプローチ
・実践的方法論の活用


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松井淳
1990年よりシステムインテグレータにて、レガシーからオープンに渡る幅広い技術と、企画から運用に至るシステムライフサイクルでの経験を有するオールラウンドアーキテクトとして、数多くの大規模プロジェクトを技術面で主導。 2019年からアイ・ティ・イノベーションにてコンサルティング活動を開始。 Iasa日本支部代表理事、PMI日本支部会員、IIBA日本支部会員、ITコーディネータ協会会員

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