個人と組織の自律性を高めるということは、容易ではない。
私は、Leanカンファレンスでの講演の後で、さらに基本的なことに気づいた。
組織活動を担っているのは、仕事を担う個人でありチームであることは自明である。もっと人に関わる土台となる抜本的な改革が必要なのだ。
「自律」と「自立」の二つの言葉があり、それぞれ異なる意味を持つ。
自律とは、価値観や信条の独り立ちのことである。これができないことを「他律」といい「他からの命令、強制によって行動すること」である。一方で自立は、環境や他者に対し能力や経済力が独り立ちすることを示す。依存は、「誰かに頼って存在、生活すること」を意味する。
つまり、自律した人材とは「物事を自らの価値観や考えに沿って判断できる人材」であり、そのうえで「物事を自力でやりきる人材」であることを言う。
自律することにより、以下のような特徴のある人材になる。
・自ら決断や判断ができる
・周りに影響されず流されない
・責任感がある
自律が自立の前提条件になることがわかるだろう。自律無しで自立を継続することはできない。
◆自ら決断や判断ができる
自律した人材は、自分の価値観や自分の考えに則って物事の良し悪しを考えることができる。
そのため、何かの決断や判断が求められる時にも、自分で考えて「何をすべきか」の答えを出すことができる。
自律性が高い人材は、自律性が低い人材と比べて、決断や判断ができる点が、まったく異なる。
◆周りに影響されず流されない
自律した人材は、物事にかかわる価値観や信条がはっきりしていて、集団で何かを決めるときには、自分なりの意見を持ち発信できる。
置かれた場の流れや雰囲気に流されることなく、自分の考えに納得できる答えを出すために、どのようなメンバーとも意見を交換することができる。
世の中の組織には、事象や物事に流される人が多くみられるが、自律性の欠如が主な原因である。
◆責任感がある
自律した人材は、自分で考えて取るべき行動を決め、自分が取った行動や行動の結果と遭遇した状況に対して、「自分が選択した」という認識がある。
たとえ身の回りで不利益が生じたとしても、その不利益を自分の選択の結果として受け止め、「次に何をするべきか」「どうすれば状況を好転させられるか」を積極的に考えることができる。単純に責任感を持つようにと指導したとしても、簡単には身につくものではない。
組織で自律した人材を育成するには、下記の5つのポイントが大切になる。
① 組織の理念と社員の志をつなぐ ⇒ 理念の共有が、自律の基礎になる
② 社員の行動指針を定める ⇒ 同じ行動指針を繰り返し確認することがチーム創りにつながる
③ 責任のある仕事を任せる ⇒ 任せることが先にあり、その後、責任感を持てるようになる
④ コミュニケーションや情報が得られる環境づくり ⇒ 目的より環境創りが大切
⑤ 心理的安全性の確保 ⇒ 自律を確立する土台になる
このポイントが整ったうえで、以下のステップを進めることが可能になる。
新人が組織に参加した時点から上記の考えを社員と共有するとともに定期的に確認する場を創っていくことが重要である。
新人に重要であることはもちろん大切であるが、ベテラン社員へ「理念」や「行動指針」、「会社としてその時期に重要なこと」を啓蒙することも組織の発展に必要である。
そのうえで、現実の仕事を通して、
・プロジェクトの現場の個人の自律性を高めること
・次に自立したチームビルディングを実現すること
・さらには、自律したチームによる業務直結型のマネジメントを実現すること
この3つのステップを組織全体で取り組み、実際の仕事に適用し続ける。これこそが、経営者やリーダーが取り組むべき仕事である。
その結果、以下の変化を期待できる。
・個人の意識改革が始まり
・改革に適した環境の整備を行い
・自律感覚が個人からチームへ伝播し
・できるチームの連鎖と継続的活動へ繋がり
・連続的な改善の繰り返しから大きな改革へと発展する
最後に、私はLeanカンファレンスで以下の点を強調したが、
① 方法論・プロセス適用による再現性の確保
② 超上流・上流重視の施策(先憂後楽)
③ 個人とチームの自律的マネジメントの実現(IT人材の抜本的改革)
やはり、この3点で最も重要なのは、③の自律的マネジメントの実現である。
今回のテーマで強調したいのは、③を実現するためには「様々な努力を必要とする」ということである。
このことを私は、自社のITビジネス経営に適用していくつもりである。