「世の中の事実を正しく理解し、行動につなげる」
自信がある人ほど間違った認識・・・
書籍「FACTFULNESS(ファクトフルネス)」(出版社:日経BP社)は、TEDトークで、データに関する伝説のプレゼンテーションを行った、ハンス・ロスリング氏が書いたベストセラーである。本の帯に、「賢い人ほど世界の真実を知らない」とある。ロスリング氏は、医師であり、若い頃、アフリカで医療活動に従事した経験から、データ(事実)の認識の重要性に気付いた。
本書の冒頭で13問のクイズがある(チンパンジーテスト)。世界の変化の常識に関する三択の質問に対して、素で回答すると、世界中の人のなんと90%が、答えが全く分からない、チンパンジーに負ける、という統計上の結果が出ている。チンパンジーは、無作為に三択問題の答えを選ぶと仮定する。33%が、正答率である。知識と経験があるはずの人間が回答すると、平均的にチンパンジー以下の正答率になる。何故、そのようなことが起こるのだろうか?その説明をすると、「思い込み」あるいは「思考の癖」が主な原因になっているようだ。
⇒ 13問のクイズはこちら!みなさん、チャレンジしてみてください!
https://factquiz.chibicode.com/
書籍の表紙裏に、世界保健機構(WHO)の調査結果(寿命と所得の国別のマトリックス)が掲載されている。表の縦軸に寿命、横軸に所得となっており、上に行くほど寿命が長く、下は、寿命が短い。また、表の右へ行くほど、所得が高くなっている。私たちが、一般に感じている所謂、発展途上国と先進国のイメージは、30年以上前のイメージが人々の頭の中に残っていて、一般の人が考える国のポジショニングとは異なっている。寿命が長く、所得が高い国に、アジアや中東の国が意外に多いことが分かる。また、世界の自然災害での死亡者数の動向は、過去100年の間に半分以下に減少し、極限の貧困も減り、人口の増加にも歯止めがかかりつつある。
これらの例は、「事実に基づいて世界を見なさい」というのが、ロスリング氏が繰り返し述べている話である。
本書によれば、世界を正しく見られない10の思い込み思考(本能かもしれない)が、あるという。
たとえば、分断本能「世界は分断されている」、ネガティブ本能「世界はどんどん悪くなっている」、恐怖本能「それほど危険でないことを恐ろしいと考えしまう」、過大視本能「目の前の数字が重要だと考えてしまう」、パターン化本能「ひとつの例が全てに当てはまる」などといったものだ。
本書で言いたいことは、以下のようなものだろう。
・世界はどんどん物騒になり、社会の分断が進み、環境は悪化していると多くの人は思い込んでいる。事実は異なり、統計データを見ると、世界は基本的にどんどん良くなってきている。
・人々が世界を誤って認識している原因は、本能からくる思い込みにある。
・本書で紹介する「ファクトフルネス」を日常に取り入れていくことで、そうした思い込みから脱して、事実に基づく世界の見方ができるようになる。判断力が向上し、物事の動向を見極められるようになる。
私は、さらに事実を冷静に知り、行動につなげることだと思う。行動につなげるということは、思いが信念になり、さらには、実際に世の中を良くするための活動を始めることである。
事実をいかに把握し、その事実に対して判断し、共感のこころを持つことが、車の両輪のように必要なことである。
事実は説得力を持つ。一方、それを他人の心に届け、行動するためには、共感の力が必要である。事実に訴えかけるファクトフルネスと、心に働きかけるマインドフルネスの両方を活かすことで、私たちは次第に、「理想の人間」に近づくことができるようになる。
是非、本屋さんに平積みになっている「ファクトフルネス」を読み、自らの思い込みを確認しよう。
残念なことに、ハンス・ロスリング氏は、本書の執筆中に他界された。本誌が、ハンス氏の遺作になってしまった。重ねて皆さんには、本書を読んでいただきたいと思う。