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業務アプリの伸びしろ(購買システム)


今回から数回連載で業務アプリケーション毎の“伸びしろ”について語ってみたい。この背景にはバックナンバー2016.12.4に書いたSoEとSoRの過度な識別へのアンチテーゼがある。エンタープライズにおけるLOB毎の基幹アプリが、もう進歩がないかの如く考えるのではなく、ITの進化によりその形が変化し、結果、システムのスコープが広がると考える方が自然だからである。なお、今回から数回に渡る”伸びしろ”シリーズでは、業務アプリの機能やスコープを表現するのに適していると思われる”ユースケース図”を主として用いることにする。

購買のびしろ

今回はその第一回として、購買システムを取り上げてみたい。購買するアイテムには、メーカーにおける原材料、部品、卸・商社における仕入商品などのビジネスに直結するもの(直接材)、設備や消耗品、サービス等のビジネスに間接的に関わるもの(間接材)に大別される。またそれらの調達方式は、同じアイテムを繰返し発注する方式(繰返し発注)と、必要な時に必要なものを発注する方式(都度発注)に分けられる。(図1)

調達業務の出発点は見積取得&発注である。直接材については既にレガシーシステムにおいて何らかの自動発注処理が行われているだろう。ここでの改善点としては、直接材の価格決定プロセスの自動化が挙げられる。発注は繰返し型であるが、一般に価格は年n回の改訂時に個別に行われる。この価格決定プロセスに都度発注型の入札システムを活用することが可能である。システム化によりサプライヤーとのコミュニケーションロスの最小化が可能である。リバースオークションによる価格引下げにもトライしてみたい。

新購買システム・ユースケース図一方の間接材はどうであろうか。レガシーシステムでは大型の設備、修繕、サービス等の都度購買品は既に何らかのシステム化がなされているだろう。しかし、繰り返し発注型の細かなアイテムは、未だに現場から購買担当者を経てサプライヤーへTEL・FAX、Web画面入力による人手を介したものも多いのではなかろうか。

ここでの改善点は、これらの間接材発注の自動化である。消耗品の保管庫にセンサーをつければその残が分かり予め設定された発注点を割った時点でサプライヤーに注文が飛ぶ仕掛けが可能だ。すなわちIoTの活用である。これを逆手にとれば、消耗品を提供するサプライヤーはセンサーが付いた消耗品の棚を開発し、それをカスタマーに設置するというビジネスモデルが考えられる。仮に本業が消耗品を扱っていれば、たちまちこの事を自社のビジネスモデルに活かすことも夢ではない。以上がフロント部分に位置する発注業務の、すぐにでも思いつく”伸びしろ”である。

次にバックオフィス業務はどうであろうか。購買業務の後半に位置するバックオフィスの業務は、入荷検収、買掛計上、支払と言ったルーチンワークと、多くの引合いや購買実績から得た情報を元にした”購買分析”である。ここでの改善の余地は、検収業務の効率化や、様々な実績データを分析し、明日の購買に活用できる戦略購買の実現である。検収業務の効率化の為には、サプライヤーからの各種試験値のデジタル提供を促し、これをもとに品質チェックを迅速化する事が考えられる。ここでも裏を返せば顧客の望むデータをデジタル提供できればWinWinになりビジネス上のアドバンテージとなる。また、保管庫のセンサーを経由した入庫検収の半自動化なども考えられる。戦略購買の実現については、購買実績のみならず入札時のあらゆる情報(勿論、入札規約に基づいた)をPoolしたピッグデータを元にAI技術を駆使した分析が可能となる。

再びユースケース図を俯瞰していただきたい。ピンク色の背景色をつけた個所が、新設若しくは増強してゆくユースケースと思っていただきたい。どうであろうか、改善の余地はもうないと思われていたレガシー業務でも、伸びしろは沢山あるのだ。読者の参考になれば幸いである。「技術的には可能でもユーザ組織や人間系のハードルが高くて。。。」と仰る読者の方々も多いと思われる。どんなイノベーションにも多かれ少なかれ、”ユーザー説得”という乗り越えなければ ならないハードルは伴うもの。次回は、他の業務アプリの伸びしろについて語ってみたい。
 


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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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