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今回は品質の話から少し離れ、プロジェクト運営には欠かすことができない議事録がテーマです。「議事録」をネットで検索してみると、たくさんの記事がヒットします。初心者向けの議事録作成テクニックだけでなく、能動的にプロジェクト運営の円滑化を目的とした、いわば「攻めの議事録」に関する記事もあります。
たかが議事録、されど議事録。これまで20年以上にわたって作成や添削を繰り返してきた、私の議事録についての考え方を少しご紹介します。
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当ブログの 【第6回】クラシックコンサート・プロジェクト では、「ベートーベンやモーツアルトの作曲した音楽の意図について、単なる記号の集まりである楽譜から深読みして、真の音楽をオーケストラに演奏させる」というクラシック音楽の演奏は、「再現芸術」と言われることをご紹介しました。実は、私が議事録に対して感じているイメージも、この「再現芸術」なのです。
議事録は、何らかのテーマについて何人かの関係者が集まって話し合った内容やその結果を文書として記録するものです。会議の記録として書かれた議事録は、参加したメンバーが後で読んで実際の会議で話しあわれたことを確認したり、参加しなかったメンバーが読んで会議で話しあわれたことを把握するために使われます。
クラシック音楽は、作曲家が思い描く「真の音楽」を楽譜に記録し、楽譜をもとに音楽を(数百年後に)演奏するという構図です。一方の議事録は、「実際の会議の内容」を議事録に記録し、議事録をもとに(数日後に)会議の内容を把握するという、同じような構図になります。
ただ、クラシック音楽の場合は楽譜をもとに演奏する際に指揮者の主観が入り込みやすいのに対し、議事録の場合は議事録を書く際に記録者の主観が入り込みやすくなるという違いがあります。記録者の経験が浅く、議事録の質があまり良くない場合などは、議事録の記録者よりも添削する人の主観が入りこむことになりますが、いずれにせよ議事録を完成させる人の主観が入り込みやすいという特徴があるのです。
主観が入り込みやすいということは、クラシック音楽の演奏を支配(コントロール)しているのは指揮者ということであり、会議の内容や結果について支配(コントロール)しているのは議事録の記録者(または添削者)であると考えられます。ひとたび公式な記録として文書化された議事録は、その内容や使い方によっては、プロジェクトの方向性を大きく左右する武器として使われる可能性もあるのです。
よく議事録を誰が書くか、ステークフォルダー間で押し付け合うことがあります。会議の数が多いと議事録作成工数も大きくなるため、できれば相手側に書いてほしいと思う気持ちはわかります。しかし、私は開発ベンダー側にいたときから、できるだけ議事録を自分たちで書く方が有利だと考えています。
たとえば、システムの仕様を決定する会議において、決定内容と決定理由をしっかりと議事録に書いておけば、後で仕様が変わったときに発注側起因の仕様変更だということが、だれが見ても明確になるからです。議事録があいまいだと、「言った言わない」の水掛け論になりがちで、責任の所在が不明確になるだけでなく、無用なコンフリクトによる時間のロスや信頼関係に亀裂が生じる原因にもなりかねません。
たまに議事録の記録者を「ギジラー」といって、単なる作業者的に扱うことを見かけますが、実は議事録の記録者はクラシック音楽における指揮者と同じくらい重要な役割を担っていると考えるべきなのです!
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ここで私の議事録に関する体験談をいくつかご紹介します。
1.事前予告無しに、なぐり書きの議事メモが配布された!
入社2年目ぐらいのことです。大規模プロジェクトの立ち上げに際し、主要メンバーを集めた「キックオフ合宿」に参加しました。まだ経験も少なかった私は、とにかく皆さんの発言をメモするのに必死です。合宿初日の夕刻になって、突然、会議の主催者がその日の振り返りを行うと言い出し、私のメモをコピーして全員に配布したのです!
そんな話は聞いていなかったので、自分が読める程度の汚い字で書いたメモが配られることで、たいへん恥ずかしい思いをした記憶が残っています。
2.途中参加のプロジェクトでの議事録アピール
先ほどのエピソードから数年後、これも大規模で、うまくいっていないプロジェクトに、途中参画することになりました。少しは経験を積んできたとはいえ、まだまだ5年目くらいだったため、途中参加の私をうとましく感じているように思えるベテランの方たちも見受けられたのです。「こんな若造に何ができるか!」的な感じ。。。
そんな中、早く自分の存在感を示したいと考えたていた私は、初めて参加した会議で、だれも議事録をとっていない様子を察し、会議中に決定事項や決定理由などを手書きで議事録のフォーマットに記録していき、会議終了時にそれをコピーして全員に配布、議事内容の確認を行ったのです。
そんなパフォーマンスを快く思わない方もいたと思いますが、プロジェクトがうまくいっていないと感じていたリーダークラスの方の中には、このように意志決定をしっかりと、スピーディに行っていくことの大切さを再認識し、途中参加の若造を少しは認めてくれた方もいたはずです。一つ目のエピソードへのリベンジって感じですかね。。。
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アイ・ティ・イノベーションに入社してからは、主にPMOの一員としてプロジェクト運営をご支援することが多いので、PMOの役割として議事録の作成を担うこともあります。お客様によっては、コンサルタントに議事録を書かせるのは無駄遣いということで、もっとクリエイティブな作業をしてほしいと言われることもあります。
私としては、もともと議事録は大事なものだという考え方を持っており、アウトプット学習としてプロジェクト状況を早く把握するためにも、議事録を書くことはプラスだと考えています。もし議事録作成は無駄なことだと思いながら時間を使っているお客様がいたとしたら、私が代わりに議事録を作成することで、お客様の作業時間確保にも貢献することになるので、議事録作成は大切なご支援項目のひとつだと考えています。
このようなPMO支援として議事録作成する際に、心がけていることをいくつかご紹介します。
1.発言者の意図を汲んだ文章表現とする
「議事録は再現芸術だ!」ということにつながるのですが、発言内容をそっくりそのまま記録しても、発言者の意図が伝わらない場合があります。生きた会議の中では、発言者は何度も別の表現で言い直したり、身振り手振りや表情を使ったり、いろいろな方法で自分が本当に言いたいことを伝えようとするので、ボイスレコーダーで記録した通りに発言内容を議事録に転記しても、必ずしも発言者の言いたかったことが表現できているとは限らないのです。
事前に把握していたさまざまなプロジェクト状況や会議の中での発言のタイミングやトーンなどから、発言者が本当に言いたかったことを深読みして、議事録を書くようにするのです。なので、私の書く議事録は、結構発言内容とは違った表現をさせていただくことも多いと思います。
ただ、発言者の意図を読み違えていたり、あまり発言内容とかけ離れた表現にしてしまうと逆効果になるので、これを実践しようという方は、少し慎重になってください。
2.会議の中であいまいになったことも、あえて明確に結論づけて書く
たとえば、会議の中で宿題事項が浮かびあがっものの、だれがいつまでに何をするかが少しあいまいなまま流されてしまうこともよくありますよね。そういったときに、会議に忠実にあいまいな状態を議事録に書いてしまうと、だれもアクションを起こしてくれない可能性があります。
そんな雰囲気を感じた際には、事前に把握していたプロジェクト状況や会議の状況などを踏まえて、あえてこの人がこんなアクションをすべきだと議事録に明記して回覧してしまうのです。それを見たアクションの担当者は、その宿題を別の人がアクションすべきだと反応してもらうことで、自ずと責任の所在が明確になっていくのです。
ちなみに議事録はメールに添付して配布することが多いと思いますが、会議の参加者は内容を把握しているから添付ファイルを開くまでもないと思っている人もいるかもしれません。
そこで、私は会議での宿題事項や決定事項を担当者の名前もそえて、議事録を展開するメールの本文に記載するようにしています。メール本文に自分の名前が書かれていたら、無視するわけにはいかないはずです。会議の場で自分がやると明言した記憶が無い宿題事項の担当になっていたら、その議事録がどう書かれているか気にならざるをえないので、議事録を確認する可能性も高くなるはずです。
もちろん、やりすぎに注意してくださいね!
3.課題一覧に関する議事には、課題を示すキーワードを併記する
課題解決会議などでは、プロジェクトの課題一覧表をもとに、ひとつひとつ状況の確認や対策の協議を行っていくことがあると思います。そのような会議の議事録では、たとえば以下に示すような感じで、一覧のNoに対して話し合われた内容を記載するだけの議事録を良く見かけます。
< 課題検討会議の議事録例(Before) >
・課題No1⇒継続検討
・課題No2⇒××の対応を実施する
・課題No3⇒クローズ
これでは、議事録だけでなく、課題一覧も合わせて参照しないと内容が把握できず、議事録として意味をなさないことになってしまいます。
このような議事録を書く場合、私は課題Noだけでなく、その課題内容が連想できるようなキーワードを併記するようにしています。そのキーワードと議事内容をセットで読むことで、どの課題に対する議事なのかは連想しやすくなるはずです。
< 課題検討会議の議事録例(After) >
・課題No1⇒AAAの件。継続検討
・課題No2⇒BBBの件。××の対応を実施する
・課題No3⇒CCCの件。クローズ
(AAA、BBB、CCCは、課題の内容を示すキーワード)
これもキーワードのあげ方によっては類似課題と混同させてしまうこともあるかもしれないし、逆に課題の内容を示すキーワードを長めに書くと、議事録の作成効率が落ちたり、文字数が多くなりすぎて読む気が起きない議事録になってしまう可能性もあるので、どの程度が妥当かをよく考えながら適用してください。
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今回は議事録に関する私の考え方を紹介してきましたが、まあどれも当たり前と言えば当たり前のことですよね。それに今回ご紹介したことを実践しても、劇的にプロジェクト状況を動かすことにはつながらないかもしれません。
ただ、単なる作業と思って義務的に議事録を書くのではなく、少しでも意図をもって書き続けることで、少しずつでもプロジェクトを動かすことにつながるはずです。それに議事録の記録者にとって、プロジェクトを見る目が研ぎ澄まされていく効果も期待できるので、長い目でみたときに必ずプラスになるはずです。
「意図をもった議事録作成を続けることで、プロジェクトを見る目が研ぎ澄まされるぞ!」
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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