今回のブログでは久しぶりに、今では当たり前となった感が強いクラウドコンピューティングについて言及してみたい。そして話の主題は、今後クラウド環境に移行しようとされる企業にとって、ぜひともクリアーしておきたい“データ統合”の課題に焦点を充ててみたい。お断りしておくと、ここで取り扱うクラウドはITを生業としていない一般ユーザ企業に大きなコストメリットをもたらすクラウドであり、その対象は業務サービスを数か月という速さで構築することを目的としたSaaSを代表とするパブリッククラウドである。
話は若干それるが、今からかれこれ7年程前の2008年頃、クラウドの技術的方向性がほぼ確立し、世間は“所有から利用へ“と新しいSaaSの登場を待ち望んでいた。当時の私は、前職のM&A対応でヨーロッパの子会社を訪問し、業務アプリの7割がSaaSだったのに驚いたものだ。その後、日本でも中小企業向けのSaaSメニューは増えたものの、大企業におけるパブリッククラウドの利用はメールシステムを除き、大きく進展したとは言い難い。その替わりに、誰が言いだしたかは定かでないが”プライベートクラウド“という概念が登場し、従来のハウジングの延長線上にある“なんちゃってクラウド“まで広がり、我が国ではかなりメジャーになった。結果は更なるベンダーロックインへと向かい、画期的なコストダウンはみられずじまいに。。。
話を本題に戻そう。上記の“プライベートクラウド移行“に向かわざるを得なかった理由は、次のようなところか。①日本における大企業の基幹系システムは非常に手の込んだ複雑なものであった。②巨大な密結合システムの一部をSaaSサービスへ切り出すことが不可能であった。③セキュリティに過敏になりプライベートクラウドに対する漠然とした不安があった。さてこれらの理由の根っこには何があるのだろうか。①と②はまさしく企業システムのアーキテクチャ(構造)に起因する。その中でもデータベースの配置と連携に関する構造がポイントとなる。③については、慎重な国民性に起因するところが多分にあると思われるが、新技術の課題はさらなる新技術をもってしてカバーするしかない。本ブログでは①②についての打開策について考えてみたい。
①の対応については、企業独自のオリジナリティー(=強み)を支援するアプリケーションとそうでないものを区別して、まずは後者からSaaS利用に踏み出すことを考えたい。その上で前者についても手組み&クラウドというPaaSにチャレンジするのがよい。次に②の対応であるが、図1「データ統合環境下のクラウド利用」を見ていただきたい。汎用的なクラウドサービスをサイロ化させずにオンプレミスと連携して活用する為には、そのサービスと接続するI/Fデータ群の統一がどうしても必要となる。オンプレミスに散在した業務アプリケーションの統合の後にクラウドへ移行するのならこのI/Fは必然的に一本化されるが、アプリケーションの統合には時間を要する。よって、まずは統一したI/FデータのDB統合を先行し、これに複数のオンプレミス業務アプリを(コード変換も含めて)繋ぎこむという“疎結合アーキテクチャ”にしておけば、早い段階でクラウドサービスが利用可能になる。そして同時に各業務アプリケーションも、同時あるいは順次に(統一も含めて)再構築が可能となる。ここでのI/Fの1つは各種の主要マスタエンティティで、もう1つは主要トランザクションエンティティである。
さらにもう1つの図2「カオス状態のままでのクラウド利用」を見ていただきたい。図1と対照的に、こちらはI/Fの統一はせずに、スパゲッティ状態のままで、その一部がクラウド環境にまたがっている。既存の複雑巨大な企業システムをなすがままにクラウド化したに過ぎないことが見て取れる。まさにこれこそが、プライベートクラウド一色型の末路である。データアーキテクチャの標準化によって汎用サービスを積極的に活用して行こうとする図1に比べて、さらなるブラックBOX化の助長が懸念される図2では、汎用市販サービスの利用からはどんどん遠のいてゆく。どちらが今後の企業システムにとって将来性があるかは明白である。但し、図1のアーキテクチャに持って行くには、統合DB-Hubを作成するという少しばかりの回り道をすることになる。しかしこの一手は後々、企業システムに大きなリターンをもたらすことになる。
ITアーキテクチャの変換地点において、足元の整備(ここではデータ環境の見える化や統合)を行っておく事は極めて重要である。カオスと化したモンスターをインメモリー化などの力技(ちからわざ)で、一見何も問題がないかの如く延命することは、必ずどこかで破綻をきたすであろう。いずれコントロール不能なソフトウエアの為に、とてつもない代償を払うことが危惧される。クラウドに移行して行こうとする今が、データ環境を整備するチャンスである。ユーザ企業は、ERPの導入時と同様、またしても見える化のチャンスを失わないようにしたい。そしてそれはITを生業とする側のベンダー主導では難しい。