2015年の今、日本の大企業がERPから脱却できない状況は、2005年頃メインフレームから脱却できなかった状況によく似ている。また、1995年頃オフコンからPCサーバに移行できなかった状況にも似ている。さらに10年遡れば、1985年頃COBOLから脱せられない状況に似ている。そして残念ながら、現在でもこれら全てを使っている企業は思いのほか多い。この30年間でこれだけITアーキテクチャが進化したにもかかわらず。。。
理由は明白である。新たなアーキテクチャの出現とともにユーザ企業はITベンダーからこれを調達する。その適用対象はちょうどその時期に企画された新たなアプリケーションということになる。そして、他の既存アプリケーションは古いアーキテクチャのまま放置されるからだ。古いアーキテクチャで作られたシステムの後始末は、ユーザ企業自身以外の誰もやってはくれない。ITベンダーは新しいITを売ってなんぼである。
では古いアーキテクチャを残しておくと何が問題になるのだろうか?バックナンバー“ITアーキテクチャと不易流行“にも記載したように、TA*とAA*(物理DBの配置も含む)はとりわけ進化が速い。TAの新旧混在によるユーザビリティの問題もあるが、AAの新旧混在による相互接続性の問題が大きい。たとえ過渡期は互換性を保証してもいずれは対応不能となる。そして何より新旧アーキテクチャの両方を熟知したエンジニアがいなくなる事が大きな問題である。ベンダー側は新たなアーキテクチャへの人材シフトで旧アーキテクャ人材が枯渇する。ユーザ側は旧アーキテクチャを知り得る人材のリタイアでより深刻な事態となる。挙句の果て、これら全ての問題はITコストに転嫁される。
よってユーザ企業では、中長期のIT投資計画を立てる際に、このアーキテクチャーの転換を十分に考慮しなければならない。近年の巨大化、複雑化したシステム環境においては3~5年先の期間を必要とするからだ。IT投資計画のロードマップではROIの観点からビジネスニーズに基づく投資が最優先となるが、その次に優先されるのがこのアーキテクチャ転換への課題解決である(図1に両者のミックス例を記載)。世の中の先陣をきって新しいアーキテクチャへの転換を図る必要はないが、ほどほど遅れないように追従することが大事である。なぜなら新しいアーキテクチャがもたらすメリットを享受することで、ビジネスのケイパビリティ*向上に、より貢献したいからである。
古いアーキテクチャーの後始末は、情報システム部門の責務である。情報システム部門がない会社では、社内IT資産の管理責任部署の責務である。CIO(又は情報システム部長)は後片付けの実行又は、実行決定をせずに次世代に引き継いではならない。そのためにCIOの任期は最低5年以上は必要である。
※TA・・・Technical Architecture、 ※AA・・・Application Architecture
※ケイパビリティ・・・企業が得意とする組織的な能力のこと。スピード、高品質、効率性など。