今回も前回に続いてビジネスとITの関係にフォーカスした話をしたい。EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の設計において、対象領域の“メリハリ”(物事の強弱)をつけることは極めて重要である。なぜならEAの領域は、奥行きはBA、DA、AA、TAと深く、広がりは社内の全業務と広範囲だ。全てを同じ“濃さ“で実施しようとすれば、膨大な時間を要するばかりで、それこそROIを得ることが出来ない。日本におけるEAの失敗事例の原因は幾つかあるが、ビジネスを網羅的かつ精緻に描画することが目的になって完成に時間がかかり過ぎたことがその1つである。これを回避するには、対象領域にメリハリをつけることであり、その拠り所はビジネス目線でのコア/ノンコアの識別である。ここでのコアの定義は、重要度(高)かつオリジナリティ(高)がコアであり、それ以外はノンコアということである。 図1に架空のメーカ企業におけるLOB(Line of Business)毎のコア/ノンコア識別の一例を示す。さしずめこの会社のビジネスの特徴は次のようなものである。「当社の製品は製造工程に特色がありユニークな生産管理を必要とするが、受発注・物流の形態は一般的である。同じく製品特性から営業支援、顧客管理には特色があるが、債権回収は一般的である。人事、会計、購買といった間接部門での仕事も、給与計算、制度会計、調達実務は極めて一般的であるが、人材管理、管理会計、戦略購買は会社独特のものがある。」といった具合である。 これでメリハリはある程度仕分けができたことになるが、次にこの結果を図2のアプリ別実現ソリューションとして変更が多い/少ない、ガバナンス/競争力の2軸からなる4象限にマッピングしてみる。各アプリは、左下の一体成型パッケージ、左上のカスタムパッケージ、右上の手組み、右下の汎用ツールといった4種類の実装ソリューションに分類してみる。
あくまでもこれは一例であるが、大事なことはこのような実装ソリューションを予め社内で決めておくことである。このように、ビジネスの特性に合わせて、こだわる個所とそうでない個所を識別し、ITでの実現ソリューションにメリハリを持たせることで、全領域に渡る長期間で発掘作業的なEA設計を免れることができる。また、4象限マッピングにより、実装ソリューションに統一性をもたらす事ができる。 要領よくやる事と手を抜くことは紙一重であるが、ロジカルかどうかの観点で、明らかに異なる。