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前回は、プロジェクトの初期段階ではまだ決まっていないことが多く、後工程の綿密な計画をたてるために十分な情報が得られないことから、プロジェクト計画書の「段階的詳細化」が必要なことを確認しました。プロジェクトが進むにつれ、計画がより詳細化されるということは、必要なコストも段階的にはっきりしていくことになります。
しかし、一般的にはプロジェクト開始前の「決まっていないことが多い初期段階」でプロジェクト全体に必要なコストを見積ること(いわゆる「初期見積り」)で、プロジェクト予算を確保する必要があります。今回は、この初期見積りについて考えてみたいと思います。
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前回確認したように、システム開発のプロジェクト計画書の段階的詳細化とは本質的に違うところがありますが、「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」も、「計画がより詳細化していく反復プロセス」ということに関しては共通しています。「初期見積り」の特徴を探るために、まずは「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」の予算の算段について考えてみます。
「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」では、滞在期間も滞在場所も宿泊場所も決めずに、京都に旅立ちます。さて、このシチュエーションで、あなたなら手持ちのお金や現地のコンビニ等でおろせるお金がどれくらいあるか、さすがに確認してから出かけますよね。東京近辺に住んでいるという前提で、使えるお金がトータル1万円しか無かったとしたら、そもそも京都にたどりつくことさえ難しいし、旅行に行こうとは思わないはずです。
つまり、前回考察したように「予算が決まっていない」とはいえ、「京都ひとり旅」が成り立つかどうかという、予算の算段は必ずしているはずです。では、どんな感じで、予算の算段をするでしょうか?ふたつの算段案を出して比較してみます。
<予算の算段(案1) 過去の旅行で使ったお金総額からの類推>
前回二人で奈良旅行に行った際は、二泊三日で8万円ぐらい使ったはずだから、今回はひとり旅とはいえ、行き当りばったりでいろいろしたいから最低10万円、ちょっと贅沢しても20万円ぐらいかな。。。
トータル : 約10万円 ~ 約20万円
<予算の算段(案2) お金の使い道ごとにざっくり積み上げ>
トータル : 約17万円 ~ 約30万円 (うーん、なんかずいぶん高い感じ)
(案1)より少し細かく見積もろうとした(案2)の方が、ずいぶん高い予算の算段になってしまいました。まあ、そもそも行き当りばったりの計画なので、これぐらいのブレは仕方ないと言えるかもしれません。でも、これをシステム開発の初期見積りに置き換えて考えてみると。。。
想像しただけでもゾッとします! (ん?いつものことなので、何も感じませんか?)
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「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」と理由は異なりますが、システム開発の場合もプロジェクトの初期段階では未確定事項が多く、初期見積りの結果はその見積りの仕方によっても大きくブレる可能性があります。
この未確定事項(多くの決まっていないこと)は、どの程度あるのか?と考えることが初期見積り段階で、最も大事なことになります。この「プロジェクト初期段階では未確定事項が多い」ということを意識するために、いつも私は図1に示すようなイメージ図を思い浮かべます。プロジェクトマネジメントのご支援をさし上げているお客様にも、同じようなイメージ図を示すことで、「初期見積り」の難しさを訴えさせて頂くこともしばしばあります。
さあ、この図を見てどう感じるでしょう?
A(要件が明確な部分)とB(要件が不明確な部分)までなら、「Bの面積が広すぎるような気もするが、初期段階であればこんなものか」と思われる方が多いのではないでしょうか?
しかし、私がこのイメージ図で最も強調したいポイントは、「C(要件が見えていない部分)の面積が、プロジェクトの初期段階ではこれだけあると覚悟してくださいね!」ということなのです。
あなたがこれまで携わったプロジェクトの初期段階とカットオーバー時点を振り返ってみてください。ほとんどのプロジェクトにおいて、初期段階では想定していなかった「仕様変更・追加」「追加の成果物や報告資料作成」「品質不良等による手戻り」・・・などが多々発生していたはずです。つまり、プロジェクトの初期段階では見えていなかった部分が、少なからずあったという事実を認めざるを得ないはずです。
ということは、逆にプロジェクトの初期段階での見積り「初期見積り」に、C(要件が見えていない部分)もなんらかの形で含めておかないと、常に予算オーバー、または、たとえ予算内におさまったとしてもどこかの作業にしわ寄せが発生することになります。
「プロジェクトの初期見積りには、要件が見えていない部分の見積りも含める必要がある!」
「京都ひとり旅:行き当りばったりの計画」の予算の算段では、(案1)の場合は、前回の奈良旅行の総額から類推していることで(A+B+C)全体に対して類推見積りをしているととらえることができます。
(案2)の場合は、(A+B)の部分に対して、お金の使い道ごとに類推見積り×係数見積りを行っていると見ることができます。しっかりした計画が無い(行き当りばったりの)ために、お金の使い道ごとのそれぞれの予算の算段(類推)が大きくブレることになります。そして、それらをトータルした総額には、それぞれの上ブレ部分が累積されるために、(案1)に比べて(案2)の方が高い算段となってしまったのです。
実際には、手持ちのお金の残高を常ににらみながら、滞在先での行動予定を決めることになるでしょうから、「京都ひとり旅」はなんとか成功するでしょう。しかし、大人数が参加する修学旅行やシステム開発のプロジェクトでは、詳細化できるところはできるだけ早い段階で計画を詳細化しておかないと、見積りのブレが大きいままとなり、過小見積りの状態であることに気づかないうちに、予算を使い果たしてデスマーチへの道に進んでしまうことになるでしょう。(※1)
それでは、次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 デスマーチについて
デスマーチとは、長時間の残業や徹夜・休日出勤の常態化といったプロジェクトメンバーに極端な負荷を強い、通常の勤務状態では成功する可能性がとても低いプロジェクト、およびこれに参加させられている状況を主に指す。
・「デスマーチ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2013年12月2日 (月) 08:00 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/デスマーチ
・エドワード・ヨードン(2006)『デスマーチ~ソフトウエア開発プロジェクトはなぜ混乱するのか』日経BP社