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前回はプロジェクト目標に「マイナスの影響を与えるリスク」=「脅威」と「プラスの影響を与えるリスク」=「好機」の両方にバランス良く取り組むことの重要性について考察しました。しかし、現実のプロジェクトにおいて、「好機」について書かれているリスク一覧表を見たことがありません。いったいプロジェクトにはどのような「好機」があり、どのように取り組むべきなのでしょうか?
今回はプロジェクト目標に「プラスの影響を与えるリスク」=「好機」の具体例について考えてみます。
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システム開発プロジェクトにおける「好機」の具体例を見る前に、まずは甲子園への道・プロジェクトにおける「好機」の例を考えてみましょう。プロジェクト目標は地方予選に優勝して、甲子園に出場することです。想像をふくらませるために、もう少しシチュエーションを補足してみます。
このチームは近年力をつけてきており、春の甲子園大会につながる秋季地方大会でベスト8以上進出は確実と思われていました。しかし、なんと結果は2回戦敗退。夏の甲子園大会出場に向けて、なんとか巻き返しを図りたいとチーム関係者全員が考えています。
さあ、夏の地方大会に優勝して甲子園に出場するために、どのような事象が「プラスの影響」を与えるでしょうか?思いつくままに「好機」の具体例をあげてみます。
A.エースピッチャーがこの冬に急成長して、150Kの速球を投げられるようになる
B.パスボールの多かった捕手が、ボールをそらさない技術を身に着けられる
C.主力打者が筋力アップに成功し、打球の飛距離を20メートル以上のばす
D.スーパー1年生が頭角をあらわし、上級生も刺激されてチーム力がアップする
E.甲子園出場経験豊富なカリスマ監督が採用され、チーム力が劇的にアップする
そうですねえ。これらの事象は確かにまだ発生していないので「プラスの影響を与えるリスク」=「好機」と言えるでしょう。そして、これらの「好機」がすべて実現(顕在化)したとすると、攻守とも戦力が格段にアップし、マネジメント力もアップするので、甲子園への道・プロジェクトの成功確率もぐっと上がるように思えます。
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同じようにシステム開発における「好機」の具体例を考えてみましょう。プロジェクト目標は、予算内で予定通りカットオーバーを迎えることです。こちらも想像をふくらませるためにもう少しシチュエーションを補足します。
このシステム開発組織では自社の標準生産性に基づいた見積りを実施しているが、いつもスケジュール遅延を起こしており、そのリカバリのために残業・休出が常態化し、ひどいときには計画外のリソース追加を行っています。そのため、概ね納期遅延は免れていますが、いつもコスト超過に陥っています。新たなシステム開発プロジェクトを立ち上げることになり、今度こそはコスト超過を起こさないようにしたいとプロジェクトの関係者全員が考えています。
さあ、予算内で予定通りカットオーバーを迎えるために、どのような事象が「プラスの影響」を与えるでしょうか?思いつくままに「好機」の具体例をあげてみます。
A.見積り時の想定よりも機能共通化が可能となり、開発量が削減される
B.過去プロジェクトの成果物が大幅に流用可能となり、生産性が向上する
C.新しい開発支援ツールの適用推進プロジェクトに指定され、ツール開発部門からの全面的な技術的・人的支援が得られることになる
D.今年採用された新人が超優秀で、標準生産性の3倍のパフォーマンスを発揮する
E.カリスマPMの参画が決定し、プロジェクト推進力が劇的にアップする
そうですね。これらの事象は確かにまだ発生していないので「プラスの影響を与えるリスク」=「好機」と言えるでしょう。そして、これらの「好機」がすべて顕在化したとすると、生産性も格段にアップし、マネジメント力もアップするので、今回の新規システム開発プロジェクトの成功確率も上がるように思えます。
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どうでしょう?ここにあげたような「好機」について、似たようなことをどのプロジェクトでも検討しているのではないでしょうか?逆に言うとプロジェクト目標である「スコープ」「スケジュール」「コスト」「品質」などに「プラスの影響」を与える事象、少し言い方を変えれば、作業量削減、生産性向上、原価低減、品質向上などのプロジェクト推進施策について、検討していないプロジェクトなどないはずです。(※1)
その検討結果はプロジェクト計画書のプロジェクト方針などに記載され、具体的なタスクがマスタースケジュールや詳細WBSなどの計画に展開されているはずです。
つまり、プロジェクト目標に対して、それを達成するためのさまざまな施策案を洗い出し(リスク識別)、施策案の実現性や効果を評価し(リスク分析)、優先順位を決めて施策を具体化して計画に落とし込む(リスク対応計画)ということが、「プラスの影響を与えるリスク」への取り組みと言えます。
「プロジェクト目標達成に向けたプロジェクト推進施策は、プラスの影響を与えるリスクへの対応計画だ!」
さらに、プロジェクト実行段階においては、プロジェクト計画に盛り込んだ施策がどれくらい功を奏しているかなどを定期的に確認し(モニタリング)、必要に応じて追加の施策や別の施策への切り替えなどを行う(アクション)ことになります。そして、プロジェクト実行段階でも新たなプロジェクト推進施策の洗い出し(リスク再識別)を継続して行っていくことで、「好機」へのしっかりした対応ができていると言えるのではないでしょうか。
これらの「好機」たちは、必ずしもリスク一覧にあげた「脅威」たちと同列でリストアップしなくても良いと思います。リスク一覧とは別に、プロジェクト推進施策一覧のようなものを作成して、その状況をしっかりとモニタリングしていくという取り組みも大切だと思いませんか?(※2)
スポーツの世界では「攻撃は最大の防御なり」と言われますよね。投手力・守備力を強化して失点を減らす野球を目指すのが「脅威」への対応だとすると、打撃力・走塁力を強化して得点力を増やすのが「好機」への対応と考えられます。
システム開発のプロジェクトも開発する組織やプロジェクトの特性に応じて、負けない野球を目指すのか、勝ちに行く野球を目指すのか、プロジェクト・リスクにどのように取り組んで行くのかがPMの采配(マネジメント)の見せ所ではないでしょうか。
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 「脅威」に対するマネジメントがしっかりできていないプロジェクトと同様、「好機」に対するマネジメントがしっかりできていないプロジェクトは失敗する可能性が高いでしょう。また、日本の製造業でもてはやされた「QCサークル活動」「カイゼン活動」などによる品質向上や生産性向上のための活動も、積極的に「好機」を活用するための取り組みであると言えるでしょう。
・「品質管理」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』2013年4月5日 (金) 10:23 UTC
http://ja.wikipedia.org/wiki/品質管理
※2 多くのプロジェクトでは、周辺からのコストダウン要請に応じて「好機」への対応策による予想効果を見積りに織り込んでいることと思います。見積りに織り込んだ対応策の効果を出すことができないと、すぐにコストに跳ね返ります。「好機」が「脅威」に変身してしまうのです。従って、その対応策を具体化して計画に盛り込み、実行段階でその効果をしっかりとモニタリングしていく必要があります。
また、「好機」への対応策による効果はコストダウンにつながるので、見積りに織り込みやすいのですが、「脅威」への対応策(リスク予防策)にかかるコストやリスク顕在化に備えたバッファはコストアップにつながるので、見積りに織り込みづらいのです。つまり、見積りに「脅威」と「好機」による影響コストの両方をバランス良く織り込めるかどうかが、プロジェクトの成否を大きく左右すると言えるでしょう。