ITアーキテクトとは?の問いに対する答は、「組織の情報戦略に基づき、ITシステム全体のアーキテクチャを設計する人。さまざまな技術・製品から、ビジネス上の要求を満たす最適な組み合わせを選び出すことが求められ、これにはビジネスと情報技術の両方の広範な知識が必要である。」となる。そしてこの職種に最も近いものは、その名の通り、製図や模型を用いて建造物をデザインする“建築士”が最も近いと思われる。
近年、プログラム構造などの下流工程の設計に限定したエンジニアをITアーキテクトと言うケースもあるようだが、柱や壁や屋根の専門技師は建築士とは呼ばないのと同様に、彼らはスペシャリストと定義した方がしっくりする。
以上、ここまでは“ITアーキテクト“についての一般的見解であるが、私個人の感覚としては、さらに「ITアーキテクトは設計するシステムに美しさを追求する」という文面を付け加えたい。ソフトウエアの世界においても、データやプロセスモデルの均整のとれた”容姿“や、機能美に富んだUI(ユーザインターフェース)は極めて重要な要素である。
ここで少し“建築”の歴史を遡ってみると、アーキテクトの発祥は15世紀ルネサンス時代のイタリアと言われる。芸術家的要素を多く含む職種として、古代ギリシャ、ローマ時代のクラフトマン(匠)から分離されたとの事。この後17世紀のイギリスにおいて、サーベイヤ(測量士)の流れを汲む技術的色彩の強い近代アーキテクトが生まれ、元の芸術的要素と技術的要素の両面を備えた現代の建築家に繋がってくるらしい。つまり建築士はアートとサイエンスの両方を備え持っている事になる。
何やら理屈っぽくなったが、要するにITの世界においても、設計するシステムは精巧なだけでなく美しくありたいという事。そして、ここでの“美しさ“は芸術的というよりはむしろ”シンプルでシンメトリー(左右対称)な美しさ“といった方が良い。
私はかねてより、「システムは“作る”のではなく“創る”もの」とプロジェクトメンバーに言ってきた。稼働すれさえすれば良いと思って作るシステムと、世界一の良いシステム(作品)にしたいと思って創るのでは、始めから勝負はついている。ものづくりの世界ではモチベーションがその成果を左右する。“やらされ感”を伴った強制労働状態では決して良いシステムは生まれない。設計するプロセスをいかに楽しめるかである。ITアーキテクトとは実に創造的で楽しい職種でなければならない。