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前回はPMBOK第4版による「プロジェクト・リスク」の定義について、「成果物出来高と時間の二軸によるプロジェクト・モデル」にあてはめて考えてみました。ここまでならわかるのですが、トム・デマルコ氏はさらにリスクを「考えうる結果と、それによる影響をあらわす加重パターン」と再定義しています。その意図するところは何なのでしょうか?どうやら、まだまだリスクについて知っておくべきことがありそうですね。(※1)
今回はもう少し大きな視点で「プロジェクト・リスク」について考えていきます。
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当ブログの「【第11回】超ハイリスク?甲子園への道・プロジェクト!」では、「甲子園への道・プロジェクトは超ハイリスクだ!」という言い方をしました。その意味するところをもう少しかみくだいて言うと、次のようになります。
「甲子園への道・プロジェクトのプロジェクト・ゴールである甲子園出場を達成することは非常に難しい。」
また、この「非常に難しい」ことの根拠として、東東京大会の参加校が139校に対して出場できるのは1校だけであり、「甲子園への道・プロジェクトの成功確率は単純計算で0.72%と非常に小さく、逆にプロジェクトの失敗確率は99.28%と非常に高い」という事実をあげました。
ここで着目してほしいのは次の2点です。
<着目点1> 「プロジェクト・ゴール」そのものを対象としている
<着目点2> 成功や失敗の「確率」について言っている
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普通「プロジェクト・リスク」というと、たとえば「仕様変更多発リスク」や「品質リスク(障害多発等)」などを思い浮かべますよね。前回とりあげた「甲子園への道・プロジェクト」における「怪我リスク」や「緊張感リスク」の具体例も、確かに発生したら「プロジェクト・ゴール」の達成に影響はしますが、「プロジェクト・ゴール」そのものが達成できるかどうかということを対象としているわけではありませんでした。これら「怪我リスク」や「緊張感リスク」のように「プロジェクト・ゴール」の達成に影響を与えるかもしれない特定の「事象」や「状態」のことを「個別リスク」と呼びます。
それに対して「甲子園出場を達成することは非常に難しい」などの「プロジェクト・ゴール」そのものを対象とした不確実性のことを「プロジェクト全体リスク」と呼びます。(※2)
この呼び方はPMBOKの発行元であるPMIから出されている「プロジェクト・リスクマネジメント実務標準」に定義されています。また、プロジェクトマネジメントの権威であるトム・デマルコ氏も明確に、「リスクには全体リスクと部分リスクがあり、それぞれ扱い方が異なる。」と説明しています。
「プロジェクト・リスクマネジメント実務標準」によると、「個別リスク」への対応戦略として「回避」「転嫁」「軽減」「受容」などがあり、「プロジェクト全体リスク」の対応戦略として「プロジェクト中止」「再計画」などがあります。(※3)
「プロジェクト・リスクには、『個別リスク』と『プロジェクト全体リスク』があり、それぞれの扱い方は異なる!」
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前述の通り「甲子園への道・プロジェクト」が超ハイリスクであることの根拠として、プロジェクトの成功確率が0.72%と超低い数字であることをあげました。リスクは不確実なものであり、その発生確率は0%と100%の間にあります。そのため、リスクの度合いを表現する際には、その発生確率を%で示すのが最も簡単に感じます。
しかし、プロジェクト管理の権威であるトム・デマルコ氏は、「リスクについて数字で考える習慣を捨て、視覚的に考える」ことを推奨しています。具体的には次のような「リスク図」を用いて、「プロジェクト・ゴール」を達成することの不確実性を表現すべきということです。(※4)
確かに「プロジェクトの成功確率は0.72%です。」と言われるより、「プロジェクトの結果はこの図のように予測できます。」と言われた方が、プロジェクトの先行きを見通すことができますよね。
このような「リスク図」は、たとえば昨年までの戦績などの過去のデータを元にして作成することができます。システム開発プロジェクトのリスクを分析する際には、モンテカルロ・シミュレーションという技法が使われます。(※5)
トム・デマルコ氏によるリスクの再定義「考えうる結果と、それによる影響をあらわす加重パターン」は、このような「リスク図」のことを示していたのです。
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「プロジェクト全体リスク」をもう少し私流にわかりやすく説明するため、前回登場した「プロジェクト・モデル」上で表現してみます。
さあ「プロジェクト・リスク」に関するもう一つの視点「プロジェクト全体リスク」がどんなものか理解できたでしょうか?図2ではプロジェクトに内在する不確実性の影響で、「プロジェクト・ゴール」に対して「プロジェクト最終結果」が振り子のように振れることを示しています。この「プロジェクト最終結果」の振れ幅そのものを「プロジェクト全体リスク」ととらえてください。
まだまだ概念的な話ばかりで納得感は少ないかもしれませんね。果たして「プロジェクト全体リスク」をどのようにマネジメントして行けば良いのか?次回は「プロジェクト全体リスク」の具体的な扱い方についてご紹介します。
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 「プロジェクト・リスク」の定義とその参考文献については、当ブログの以下の回を参照
・「【第11回】超ハイリスク?甲子園への道・プロジェクト!」
※2 ここではあえて「プロジェクト目標」と「プロジェクト・ゴール」を使いわけています。一般的に「プロジェクト目標」には、「スコープ」「スケジュール」「コスト」「品質」などがありますが、「プロジェクト全体リスク」の対象が、個々の「プロジェクト目標」ではなく、プロジェクト全体であることを表現したかったためです。
また、「プロジェクト・ゴール」はプロジェクトの成功と失敗の判断基準であり、図2で登場する「プロジェクト最終結果」はプロジェクトがどう転ぶか(転んだか)の最終結果を示しています。
※3 「プロジェクト全体リスク」(または「全体リスク」)と「個別リスク」(または「原因リスク」「部分リスク」)の定義については、以下文献参照
・Project Management Institute, Inc.(2010)『プロジェクト・リスクマネジメント実務標準』PMI日本支部
・トム・デマルコ、伊豆原弓訳(2001)『ゆとりの法則 誰も書かなかったプロジェクト管理の誤解』日経BP社
※4 前掲『熊とワルツを~リスクを愉しむプロジェクト管理』を参照
※5 モンテカルロ・シミュレーションについては、前掲の『プロジェクト・リスクマネジメント実務標準』や『熊とワルツを~リスクを愉しむプロジェクト管理』に概要が紹介されています。モンテカルロ分析ツールもいくつか出回っていますので、興味のある方はWEBで検索してみてください。