前回の『新人向けOJT』に続いて、今回もOJTについてお届けします。
今回のテーマは『中堅以上の社員向けOJTについて』です。
若手(入社数年)と異なり、中堅(ここでは入社10年以上と想定)以上になると、経験も重ねており、初めてする仕事はそれほどないはずです。にも関わらず、上司の要求に対して応えられる人は意外に少なく、仕事はあるものの、結局できる人に集中してしまっているケースは多いのではないでしょうか。
■実施すべき業務と現在のスキルとのギャップ
システムの保守業務を長年続けてきたAさん。大規模な機能追加を行う企画が持ち上がり、現行システムに一番詳しいAさんが、プロジェクトのリーダーとして指名されました。早速、プロジェクト計画書を作り、WBSを準備してメンバーに作業を割当てなくてはなりませんが、しばらく経っても一向に進んでいないようです。
Aさんは、開発経験が豊富で、プロジェクトマネジメントの研修を受講したことがあり、WBSがどのようなものかも知っています。現行システムに詳しいので、改修すべき要件も当然理解しています。それなのに、何故作業が進まないのでしょうか?
話を聞いてみると、プロジェクトを進めていくにあたり、Aさんにはいくつかの経験が欠けていたことがわかりました。図にするとこんな感じです。
つまり、中堅社員としてリーダーの立場となったものの、リーダーとして実施すべき全体計画の策定やWBSを作って誰かに作業を指示するという経験がなく、どうして良いかわからずに悩んでいたのです。研修は受けていたものの、実際の現場でプロジェクトマネジメントの知識を活用できていませんでした。
このように、上司が「知識があるはずだからできる」と思っていることが、実際にはできないということは、よく起こりがちです。今回の例では、計画を立てる作業をしたことがないのが原因でしたが、もっと細かな部分でつまずいている場合もあります。中堅社員だからといって任せきりにせず、やるべき作業のステップを一緒に整理し、フォローしてあげることが必要です。
■経験がなくてもできるのは何故?
一方、Aさんの例と反対に、経験が無いはずなのに、初めての仕事ができる人もいます。
お恥ずかしながら、私自身は若手の頃、どんな仕事もいつも納期遅れ、品質も甚だ悪いダメダメ社員でした。それが、あるとき急に“仕事の進め方”がわかるようなり、以降、よっぽどのことがなければ、初めての仕事でもスムーズに進められるようになりました。仕事を進める上で、汎用的なやり方があると気づいたのです。
その内容とは、大きく分けると2つ、「全体イメージを掴むこと」と「手順の洗い出しをすること」でした。現在、コンサルタントとして様々な方に接していますが、仕事ができる方は大体このスキルをお持ちだと感じます。
■全体イメージを掴む
開発プロジェクトにおいて、ユーザー企業があり、ユーザー企業のIT子会社があり、プログラムを開発する協力会社があり、また、我々のようなコンサル会社が関わる場合もあります。それぞれに役割があって、何等かの作業をしている訳です。
自分が担当している仕事はプロジェクトの一部でしかありませんが、「全体の中でのどの部分で、どのような効果を発揮しているのか」を考え、逆に自分以外の人たちはどんな仕事をしているのかを考えてみることで、プロジェクトの全体イメージを掴み、ひいては経験していない業務も想像できるようになるのです。
また、全体イメージがわかれば、自分の仕事で起きている課題を解決するため、誰にどのように動いてもらうべきか考えることもでき、仕事を円滑に進めることに繋がります。
■ホワイトボードに図を書いてみる
全体イメージを掴むスキルを身に着けるのにお勧めなのは、イメージを図に描きだすことです。OJTとして、打合せの中で内容をホワイトボードに書いてもらうよう促したり、パワーポイントでちょっとした説明資料を作ってもらいます。理解していることを抽象化して図にあらわしたり、箇条書きでポイントをまとめることを訓練することで、不思議と計画も立てられるようになり、発生した問題の全体像を掴んで論理的に対処できるようになってきます。
■手順を洗い出してもらい、レビューする
Aさんの例のように、何かをしようとしてつまずく場合は、往々にして手順を理解していないことが多いものです。もちろん、作業の都度上司が内容確認のフォローに入っても結構ですが、OJTとしては、まず中堅社員自身に作業手順の全体像を洗い出してもらい、それを関連メンバーがレビュー形式で確認するのが良いと思います。ホワイトボードを使って、直接書きながら意見交換するのも良いでしょう。
手順を洗い出してみると、わかっていることと、わからないこと/曖昧なことがはっきりします。わからないことは周りに聞けば良いと思うのですが、それがなかなかできずに時間が経過し、作業の遅延に繋がっているケースもよく見かけます。わからないこと、曖昧なことを関連箇所と調整することも含めて、洗い出した手順をスケジュール化するようフォローしましょう。
■「プロ」であることに期待を示す
もともと知識のある中堅社員ですから、汎用的な仕事の進め方を掴んでもらえば、どんどん活躍してくれるはずなのですが、残念ながらそれまでには、予想以上に時間がかかります。途中で投げ出そうとする人もいるかもしれません。そんなことが無いように、マインド面の動機づけも忘れずに。
新人と違って中堅社員は「その道のプロ」であり、高いスキルを以て活躍してくれることを期待していることを伝えます。その際、真剣に伝えるというのがポイントです。一度で思いが伝わることは難しいかもしれませんが、何度も話あうことで、必ず良い方向に向かうはずです!
以上、今回は中堅以上の社員向けOJTをテーマにお伝えしました。
当社コンサルタントの響子さんによると、だいたい半年あれば変化が見られるとのこと。私の経験では1年はかかるような・・・。指導力の違いでしょうね。精進します(泣)。
次回は、その響子さんのブログです。乞うご期待!