私は、ドラッカリアン(ドラッカー理論の信奉者で実行者)で、常々、変革について考えている。携わってきたのは主にIT分野であるが、社会構造の変化や社会における構造的ギャップをビジネスチャンスと捉え事業を行ってきた。国の人口動態や社会構造の特徴、行動、大衆の認識、意見などは、ビジネスを進めるうえで大いに参考にしている。
今、日本の将来を考えるにあたって第一に注目すべきことは、女性の社会進出だ。日本は、経済力のある成熟国であるのに、女性の就業機会は、きわめて少ない。文化や慣習に起因する点は、否定できないが、このままでは、日本は食っていけなくなる。記憶にあるところでは、日本、韓国、インド、中東諸国などの国では、女性の社会進出がかなり遅れているのに対して、欧米や中国などの国は、比較的進んでいるということだ。
社会のギャップに着目し変革を行うことを今どきの言い方をすると「ソーシアル・イノベーション(社会改革)」という。
今、女性の社会進出をはじめ、シルバーの雇用、グローバル化にともなう外国人の雇用問題など、ギャップが存在するあらゆる領域が、社会改革の対象分野であると思う。私は、この社会改革に関連した事業を創ろうと考えている。
まずは、アイ・ティ・イノベーションが長い間貢献してきたIT領域で、女性の活躍する場づくりを考えている。働き方に制約がある女性に対して、成長とビジネスに参加できる機会を提供したい。そのためには、雇用の柔軟性、雇用のための託児施設などの支援、新たなプロフェッショナル教育システム、働くプロフェッショナルの現場のバックアップなど、様々な準備が必要になる。働く女性のイノベーションを新たな事業としてチャレンジしていく。多くの女性に成長とチャンスを提供できれば、幸せだ。
一方、お客様側の視点で見ると、ITの様々な専門分野に女性の適性を生かした仕事が多くあるにも関わらず、現実には質量ともに満たされていない。それもギャップだ。世の中では、それこそ様々なITコンサルタントが活躍しているが、男性中心で、スキルは千差万別、人次第である。現実には、男性コンサルタントにおいても体系的スキルのトレーニング機会が多いわけではない上、構造的には女性の進出が遅れている分、能力面、価格面で一種のインフレ的な要素を抱えている面があるのではないか。
私は、PM(プロジェクト・マネジメント)、ビジネス分析とビジネスアーキテクチャ設計、品質とテストなどの分野については、ある程度の実務経験と素質がある人を効果的に訓練すれば活躍可能であると思っている。教育・訓練を通じて標準的なスキルを身に着け、現場にあってはコンサルタントがバックアップすることで、これらの領域におけるスペシャリストとして、お客様の納得できる価格でサービスを提供できるのではないか。私は、これからの10年は、この分野を開拓・発展させようと思う。有能でありながら社会進出の機会が少ない女性に活躍してもらうことで付加価値の高いサービスを確立したいのだ。
なぜ、このビジネスの成功を確信するようになったのかは、妻との歴史とその反省による。
その理由を説明しよう。
私の妻はご多分に漏れず子育てと好きな領域でのアルバイトを併行して行い20年以上かけて子育てを終えた。妻は、2人の子供を立派に社会人に育て世に送り出した。真剣に子育てをした私の妻を褒めたいと思う。子育てを仕事として捉えるのであれば、かなり質の高い仕事をしてきたといえるし、乳飲み子を社会に出すという大きな成果を残した。この仕事により身についた実力やノウハウは、男性が社会で働いて身に付けるレベルを超えているかもしれない。妻と限らずわが社で働いてもらっている女性をみると、我慢強く子を育み自らも成長してきた女性ならではの視点や鋭さがあり、意見の多様性に大いに貢献してくれている。
しかし、社会からみると所謂子育てという仕事は高く評価される機会は少ない。私の場合は、子育てや、妻が仕事をすることにも無関心だった。結果的に妻が子育てと家庭を守る仕事をすることになり、役割分担が必然的にできあがり進んできた。当時の私の考えは、男は仕事、女は家庭と決めつけており、妻の社会進出に全く関心もなかった。むしろ否定的な考えであった。私のような考えの中年男性は、日本には多いはずだ。いつの間にか、日本社会は、女性という潜在力、女性の可能性を見いだせずに何十年も経ってしまった。社会的損失と考えてよいだろう。男女を問わずどんな人でも、立派な成果をあげる可能性があり、困難な仕事が上手く行ったときの達成感を味わう、そんな機会が誰にでも公平に与えられなくてはならない、と考えるようになったのも最近のことだ。私は、いわば定型的な視野で長い間仕事をしてきたことを大変情けなく思うし、妻に対しても申し訳なく思っている。
このような経験から、女性の社会進出という課題は、すぐれて自分自身の課題であるが、この課題はグローバルな課題であり、日本の社会や組織の課題でもある。私は、妻との歴史については認識をあらためたが、歴史そのものをやり直すことはできない。だから、将来がある人たちを対象に、未来に向かって、教育や成長、自己実現の機会を提供していくこの仕事を成功させることで、妻に償いたい。同時に、それは大いなる社会貢献になるのではないか、そう思っている。