私は、小さな会社ではあるがCEOという立場で、常に変革のことを考えている。また、ここ数年、ピーター・F・ドラッカーに関係した講演や講義を多く行っている。私がドラッカーに関する講義を行う最大の理由は、私自身が日々経営と向き合い、変革に悩んだときには心の中でドラッカーと対話しながら、それを経営に活かしているからである。読むだけで試さないのであれば、教養の一部にはなるが、講演を続けることも、皆さんに伝えたい変革の糧になることもないだろう。
ドラッカーは彼が1990年代に書いた「明日を支配するもの」(ダイヤモンド社)の中で、チェンジ・リーダーの重要性について様々なことを述べている。私は、役員、管理職、あるいはどんな分野であれ責任者と名のつく人はすべて一旦役職を忘れてもらい、「チェンジ・リーダー」になるべきだと考えている。どの組織でも、役職や権限は組織運営上大切な要素ではあるが、どのようなマインドで、どのような思考で仕事をするかが最も重要だと私は考える。管理職ともなれば、少なくともある領域の責任を担っている筈だ。問題は、リーダーとしてその領域の仕事をどの様に成長・発展・変化させられるかである。その際に重要なのが、チェンジ・リーダーとして「本当の」仕事を行うことなのである。
ドラッカーはあなたがリーダーであるならば、まずイノベーション(変革)を仕事としてとらえるべきだと言っている。日々のやらなければいけない仕事として淡々と行うこと、カリスマのものではなく一般のごく普通のリーダーが変革という仕事を本気で行うこと、それが大切だと言っている。しっかりとした観点で実行を続けたチェンジ・リーダーとしての仕事の延長線上に、本物のイノベーションが実現される。凡人が非凡な仕事を成し遂げることにつながるのである。
私は、チェンジ・リーダーがイノベーションを実現する日々の「仕事」のポイントは以下の3つだと考えている。
ITの世界でいえばどのような活動がこれに当たるのだろうか。考えてみよう。
体系的破棄とは、従来から行っている仕事の将来を見直し、必要であれば、計画的に廃棄することをいう。一度確立された仕事を段取り良く積極的に廃棄することは、簡単ではない。敢えて厳しく「当たり前」の仕事の本質を見つめることが必要になる。チェンジ・リーダーの仕事の中では、この体系的廃棄が一番難しい。なぜならば、周りの一般の人やその仕事に慣れている人が、ネガティブな反応をするからだ。
二つ目のカイゼンは、良い組織であれば、実施されていることもあるが、リーダーが仕事としてカイゼンを行うこと、「当たり前」に行うことが大切だと思う。
三つ目の成功の追求には、あくなき努力が必要になる。成功をあきらめず追及し続ける強靭性が、偶然にも見えるかもしれないイノベーションを生み出す。イノベーションに偶然はありえない。しっかりと成功を追求した結果としてイノベーションに到達するのだ。
リーダーは、孤独であるがやりがいのある仕事である。「当たり前」を疑い、実行するには勇気が必要になる。