前回はCRO及びCROのプロジェクトに関する説明と、簡単な問題点を記載しただけで終わってしまいました。今回は問題点の深掘と、我々(弊社です)が支援した内容についてのご説明です。
深掘の前にプロジェクトで何をするのか把握する
我々が支援するにあたり、まずはCROの用語とプロセスの把握に努めました。
IT業界であれば、どのような工程やプロセスがあるかはわかるのですが、治験のプロセスなんて全く分かりません。そして用語も・・・。これからPMO責任者やPMOメンバーとヒアリングや打ち合わせを重ねながら支援をしていくのですが、基本的な用語をおさえておかなければ、話をしてもかみ合いません。
「ぷっプロトコールの作成?TCP/IP??」
“プロトコール“とは治験実施計画書。治験を実施するにあたり製薬メーカーや医療機関が、遵守しなければならない要件事項を記載した実施計画書だそうです。
なるほどなるほど。
問題を把握し深掘する
前回、簡単に問題点を記載しましたが、もう少し細かく書きたいと思います。
先にざっくりとしたプロセスを把握したうえで、何が問題と思うかを、PMO責任者およびPMOメンバー(プロジェクトマネージャの方々)にヒアリングしました。
#以降プロジェクトマネージャをPMと記載します
PMO責任者からは、
PMOメンバーからは、
ここで見えてきたのは
(1) キャリアパスがない。
(2) PMの選定方法、評価基準がない。
(3) プロジェクトマネジメントプロセスを知らない。
これはちょっと前のIT業界と似ていますよね。この支援は5年ほど前でしたから、IT業界でもこのような組織はまだまだ多かったですね。
改善計画はこんな感じです
3つの問題に対して以下の改善計画を策定しました。
問題点(1):キャリアパスがない
改善策(1):組織でのキャリアパスの考え方(素案)の作成
既に認知されているモニタリング業務、データマネジメント業務、統計解析業務を実施する方々には、すでに明確な組織で明確なキャリアパスが設定されていました。スペシャリストの方々のキャリアパスはしっかりしているということです。(IT業界ではスペシャリストのキャリアパスが不明確という逆のパターンがありますよね。)
よって、PMO(PM)の方々についてもキャリアパスを明確にして、PMについてもキャリア開発ができるように素案を提示しました。
問題点(2):PMの選定方法がわからない
改善策(2):理想のPMの定義と、現PMのスキル診断
スキル診断は、職務で必要となる“知識や技能”と“能力や個人特性”で評価します。
“理想とするPM“と明確にいえる人が実在しない状況でしたので、PMO責任者と話し合いながら、どのような“知識や技能” 及び“能力や個人特性”が、どの程度必要かを定義し、これを”理想のPM“としました。
特に、PMの職務を遂行するために必要なレベルの”知識や技能“はそんなに高くはなく、ある程度の学習と経験により伸ばすことできるのですが、“能力や個人特性”は伸ばすことが難しいと判断し、“能力や個人特性”に重きを置きました。
その後、現PMに対してスキル診断です。
本人が実施する自己評価だけではなく、上司、同僚からも他者評価を実施してもらい、理想とのギャップと今後伸ばす必要がある部分を明確にしました。
今後の育成に有効ですよね。
そして、ここではっきり見えてきたのは、”PMに不向き”な“能力や個人特性”の人です。“理想とするPM”とかけ離れた診断結果の方については、このままPMとして業務をしていくよりも、別のキャリアに変更したほうが、組織や本人のために良いので、配置換えも視野に置きました。
問題点(3):プロジェクトマネジメントプロセスを知らない
改善策(3):プロジェクトマネジメントの明確化。特に弱い部分
プロジェクト資料を確認したところ、コスト管理、進捗管理についてはしっかりとしたものが導入されていましたので、改善が必要なリスクやコミュニケーション(エスカレーション)を中心に改善提案を提示しました。
IT業界と同じく、プロジェクト特性によりリスクを洗い出し、プロジェクト実施可否の判断をし、プロジェクト特性に合ったPMおよびメンバーを選定することが重要です。
またPMO責任者が必要な情報を収集でき、判断を誤らないよう、エスカレーションルールも定義しました。
それ以外に品質管理について、PMOメンバー(PM)からは「品質監査員がいるのに、PMとして何を管理すればよいのか」との質問もありましたので、品質向上のためにPMO責任者、PM、品質監査員はそれぞれ何に着眼して品質管理/監査を行えばよいか(管理と監査の違い、レビュー対象、確認ポイントは何か等)を明確にしました。
このPMOのすばらしいところ
上記のような改善の支援を行いましたが、非常によくできた組織でした。
第18回にも記載した通り、PMOはPMの集団であり、プロジェクト発足時にPMO責任者がPMOメンバーをプロジェクトにアサインします。
よってPMOメンバー(PM)の稼働はPMO責任者が管理していますし、PMO進捗会議で各プロジェクトの状況の報告を受け、PMO責任者に各プロジェクトの状況報告が集まるようになっているため、統制がとりやすい組織でした。
(さらなる向上をはかるため、本当に知りたい情報、正しい情報を収集する方法としてエスカレーションルールを定義する支援をしました。)
全プロジェクトの状況はQCD観点で一覧化し、予定とかい離しているプロジェクトは黄・赤で表示されるようになっていました。(プロジェクトダッシュボードです)
経営層(事業責任者)への報告も非常にスムーズですよね。
今ではIT系の組織でも実施していることは多いと思いますが、5年前にはまだ浸透しておらず、「IT系より統制が取れている」と感心したことを覚えています。
他業界の方も同じ悩みを抱えているかも・・
支援をする前には「他業種はどんな悩みを抱えているのかな?別業界の我々で支援ができるかな?」と心細く思っていましたが、結局「どの業界でも同じ悩みを持っていますねぇ」とお客様と共感したのを覚えています。
皆さんも異業種の方との交流もあるかと思いますが、仕事の話をしてみてください。「あるある」が見つかるかもしれませんよ。
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12月5日のITIフォーラムには沢山の方にお越しいただき、「かずみ先生読んでるよ」と温かいお言葉をいただきました。本当にありがとうございました。
「消えたPMOは面白かった。今の自分達を見られているのかと思った」(第14回:消えたPMO参照)と、実際にPMOから実プロジェクトに異動したご本人のお話をお聞きしました。そして、「次の世代を育てるために画策中です」とも。
大丈夫です。実プロジェクトで活動されながらも組織の育成について考えているということは、それは立派なPMOです。