前回はプロジェクトの完了時にどのように「振り返り」を行うのか、というお話でした。
具体的には、プロジェクトの予実を評価して、得られた教訓とともに報告書をまとめ「プロジェクト完了報告会」を実施するという手順ですが、これはプロジェクトの母体となっている組織や関係者に最終的な成果を報告し、教訓を共有するという意味合いで行うものでした。
しかし、ここで作成されたプロジェクト完了報告書、実はさらに別の目的のために利用することができるのです。
実績データを次の見積もりに利用する
プロジェクトのために必要な人数や期間、コストなどをどのように見積もれば良いのか。プロジェクトは新たな挑戦であるために、なかなか制度の高い見積もりをはじき出すことは難しいものです。
もちろん、プロジェクトがある程度進めばその後の見積はかなり正確に出すことができます。例えば、おでん屋台の設計が終わった時には組み立て作業の手順や必要な材料が明らかになるため、それらを個々に見積もって合算すれば「二人でやればあと1ヶ月、45万円位で完成できるな!」との予測が立ちます。
しかし、通常はプロジェクトの開始前に見積もりを行ない、必要なリソースをプロジェクトに投入するか否かの判断を下す必要があり、その場合このやり方では見積もることができないケースがあります。
そんな時、もし過去に実施されたプロジェクトの実績データを確認できたとすれば、どうでしょうか。
まったく同じ内容のプロジェクトではないにしても、今回に近しい特性を持ったプロジェクトの実績値があればかなり参考になるはずです。
例えば、「以前に焼き鳥の屋台を作ったプロジェクトでは、二人がかりで製作期間2ヶ月、50万円掛かった」という実績データがあれば、それを根拠としたおでん屋台の見積もりを行うことができそうですね。
そのためには、プロジェクト完了報告書に記載された実績値をデータベース化して蓄積し、別のプロジェクトの見積もり時に参照できるようにしておくことが非常に有効なのです。
もっとデータが蓄積されると・・・
そして、さらに豊富なデータが蓄積されていけば、見積もりに影響する要因やそのパターンを掴むことが可能となり、最終的にはこんな方程式に当てはめるだけで見積もりができるようにもなってきます。
【屋台の概算制作コスト】
・屋根なしの場合: コンロ数×5万円+15万円
・屋根ありの場合: コンロ数×7万円+20万円
このような方程式がわかっていれば、顧客に「屋根の有無」と「必要なコンロ数」だけ確認すれば見積もりを行うことができます。
もちろん、過去の実績を平均化して使っており、またコンロ数以外の要因は無視することになるため「ピタリ!」とはいきませんが、何も目安がない状態で見積もるより、はるかに自信を持って見積もりができるはずです(少なくとも、見積もりの根拠は説明しやすくなります)。
ただ、この方程式を作るのは結構面倒臭いです。
「どの要因がどのくらい実績値に影響しているか」がわかっている必要があり(上の例だとコンロ数がコストに大きく影響しているということ)、例えば回帰分析により変数間の相関関係を調べるといった少し面倒なことをしなければなりませんし、実績データの母集団には「火事で焼けて屋台を作りなおしたプロジェクト」なども含まれるため、例外的データを除去するといった統計的作業が必要な場合があります。
ちょっと大変なので他の方法もあります
「うーん、そりゃ難しいかも・・・」という方には、公開されている外部の実績データの分析結果を利用する、という手もあります。
もちろん自分たちの組織のデータとは異なりますし、様々な組織の実績値を集めているためデータに多少バラツキがありますが、やはり相当数のデータを集めて分析した結果には説得力があります。
ちなみに、私のいる情報システム業界で良く利用されている調査資料には以下のようなものがありますので、ここでご紹介しておきます。
・「ソフトウェア・メトリックス調査」
社団法人 日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)
参考サイト: http://www.juas.or.jp/product/index.asp?cat=1
・「ソフトウェア開発データ白書」
独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)
参考サイト: http://sec.ipa.go.jp/publish/index.html
いかがでしたでしょうか。
いましばらく続きます。次回もお付き合いの程を!