最近、いろいろな哲学の本を手にしているが、以前からブッダには興味があるものの難しく感じる書籍を手に取る気になれなかった。国内出張の際、駅の書店に立ち寄ると赤く目立つ表紙の「ブッダの言葉」(小池龍之介著)という本が平積みになっていて目に入った。立ち読みでぱらぽらと捲るうちに目に留まったのが、今回のコラムのタイトルにした23番目の言葉、自分の中の「それ」に勝つである。この一節が気に入り早速購入した。
以下に本文を紹介する。
自分の中に潜む「それ」に勝つ
「怒らないこと」を武器にして、自分に潜む「怒り」に勝つ。
「ポジティブな心」を武器にして、自分の中に潜む「ネガティブな心」に勝つ。
「分け与えること」を武器にして、自分の中に潜む「ケチ」に勝つ。
「事実のみを言うこと」を武器にして、自分の中に潜む「嘘つき」に勝つ。
超訳 ブッダの言葉より
2500年前のブッダが、考えたことが、まさに現代に通用する。ブッダは、2550年前にシャカ国の王子として生まれた。できの良い子供で、後継者として育てられたが、人生に疑問を持ち、修行に出る。厳しい修行の末、35歳で悟りを開いた(解脱した)とされている。その後も80歳でなくなるまで多くの弟子に人について語っている。
ブッダの教えは、仏教伝来以降、日本の風土に馴染み、様々なものと融合して何百年もかけて根付いてきた。勿論、他の様々な教えが日本の中に入り込んできたことも事実であるが、風土も人種の地理的な条件も大きく異なるインドで、人はどう生きるべきかという命題ついての答えのひとつが、現代の日本人が持つ感覚に近い教えになっていることは、不思議である。自分を磨くということは、自分に勝つということである。
世の中にブッダの教えについて書かれたものは、数多くある。その多くは、原文の直訳に近く、用語も馴染みが無く難解のものが多いが、この本は、現代風に上手く訳しているので読みやすい。読み進んで驚いたのが、教えが、実に東洋的であることだ。日本から遥か遠いインドの地で、日本人の感覚に合う考え方が、どのように芽生え、どのような方法で日本に伝わってきたのか考えると不思議なことである。私は、2005年以降しばしばインドを訪問しているが、人々の考えは、日本人と共通なところを多く発見する。シャイの本当のことが言えないで困っているインド人、家族との関係を大切にするインド人、文化と自然を大事にするインド人、現地に行かないと分からない自分の目で確かめたインド人がいる。
誰も深く深く人や心について考えれば、同じような思想に行き着くことは理解できるが、日本とインドとの間には、説明できない共通の何かがあるような気がする。
あらためてブッダを楽しんでいる。