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私の異文化体験(その2)


私が、社会人になって初めて海外出張をしたのは、1984年である。
IT産業が、高度成長していた時代であり、ビジネスシステムの開発を支援するソフトハウスや様々なサービス、製品を提供する会社が、数多く立ち上がり、どの会社も急成長した時期である。

私は、当時、一通りシステムエンジニアの実務経験を積みライン部門から企画部門へ異動したばかりであった。
そして、新規事業を立ち上げるため様々な技術の勉強をし始めた。
CAD、AI、開発ツールなど好きなものを何でもやってよかったし、自由に何でもさせてもらっていた。企画部門の業務は、定まっていなかったので、企画の仕事を勝手に定義し、なんでもありであった。今の時代では考えられないことだが、本当に、自由で、好きなことをしてよかったのだ。

この自由な企画部門の業務の一環として、世界を見てくるのが、私の使命だ。
20日程度の旅程で、全米のサテライトビジネス、ソフトウェア受託会社、LANの会社などアメリカの最先端を行く5,6社を見て歩いた。
壇上で企業の技術や方針を自らアピールするトップの姿を見てかっこいい、すばらしいと思った。これが夢に向かっている活力のある企業の姿だと素直に感じられた。
また、アメリカでは、当時、大規模なコンピュータコンファレンスであるNCC(National Computer Conference)がラスベガスで開催されていた。現在は、巨大な企業になっているオラクル社、DBMSのイングレス社、インフォミックス社などの会社が、まだ小さなブースしかなく懸命に説明をしていた。
今から約20年前であるが、すでに、将来のネットワーク社会やDBMSの普及を想像させてくれた。社会人になって初めて見たアメリカには、夢があったし、今とは違う活力が感じられた。このころの「私のアメリカ」には、憧れ、尊敬、力、豊かさがあり何とか努力して、この国の人たちとビジネスをして行きたいと素直に考えていた。

この視察ツアーに参加した際に、ニューヨークにあった自社の事務所や友人宅を訪問できたし、最初にアメリカで住んだイリノイの叔母の家にも立ち寄った。学生の時から数年以上経っていたが、そこには、ふところの深いアメリカがあった。叔父と伯母が、家を引っ越していた。理由を聞くと5ベッドルーム4バスルームの家は、夫婦2人と2、3匹の犬、猫には、広すぎるので2ベッドルームのこの家に引越したというのだ。叔父は、農園や牧草も栽培するので土地は、広いのにしたと私に説明した。敷地の大きさは、幅が、0.6マイル、奥行きは、2.5マイルあり、ボートを敷地に横付けできるので、その気になれば、メキシコ湾まで出られるというのだ。また、敷地内の牧草地は、飛行場としても使用できる。冬場、不便なのは、敷地内の家から郵便物を取りに行くためポストまで4WDの車で、500メートルほど走らなければならないことだ。冬は、マイナス20度以下になることがしばしばある。しかし、春や夏の緑は、本当に美しいところだ。従姉弟は、二人いるが、仲がよかったのは、ポールだ。ポールは、日本の小学校ぐらいの大きさの敷地のある家を購入していた。
自慢は、5種類のりんごの木があることだ。最先端企業の訪問からは、想像できない、また、日本のサラリーマンがアメリカに転勤してもわからない本当の素朴で、豊かなアメリカが、そこには有った。

私は、このツアーの後、再び、新規事業の模索をすることになる。事業検討といえば聞こえはいいが、今思うとたいしたことはできていなかった。せいぜい興味のあるものの調査の一部を行った程度だ。
むしろ、企画時代に勉強になったのは、火消しのプロジェクトだ。誰もが、あきらめかけたプロジェクトを立て直すのだ。
火消しは、技術ではない。むしろ、人間学、社会科学、心理学だと思う。アメリカへの憧れと現実のトラブルプロジェクトの仕事、この2つが、私には、大きな経験・財産になった。現実の世界で新しい技術を導入することの困難さ、人間は、苦しいときにどのようなことを考えどのような行動をするかを見た。
また、様々な人に会い、いろいろな場所を実際に訪問したことで考え方・見方に少し余裕や冷静さができたのかもしれない。
仕事上のトラブルには、あまり、動じない性格が形成されたのもこのころだと思う。

84年のアメリカ出張から約一年後に、私は、ある経緯からシステム開発のメソドロジーと出会うことになる。
これに、出会ってしまったことで、人生は変わってしまった。

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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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