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私の異文化体験(その1)


私は、これまで、自分の考え方に大きな影響を与えたさまざまな異文化の体験をしてきた。振り返ってみたい。

ひとつは、初めて一人でアメリカのイリノイに行ったとき

二つ目は、社会人になってから初めて、ナショナルコンピュータ・コンファレンスに出席を含むアメリカ横断IT視察ツアーに参加したとき

三つ目は、メソドロジー導入のために英国のBIS社に派遣されたとき

最後が、インドのムンバイ、プネにトレーニング事業視察に行った今年である。

これまでに数十回ほどの海外出張を体験しているが、強く影響を受けたのは、この4つの異文化体験である。

私は、名古屋で生まれ名古屋で育ち、大学を卒業する直前まで、一度も名古屋以外の土地に住んだこともなく、親元から離れたこともなかった。両親からも名古屋が一番いいところと教えられてきたし、そのとおりだと思っていた。(変だね!)
大学を卒業できなくなった(早い話が留年)ことがきっかけで、父親の妹が住むシカゴ郊外の田舎に半年間あまり行くことになった。留年してもまったく落ち込むこともなく、さばさばとしていた。アメリカへ行くまでは、すべて成り行きで友達がどうするかを見て進路を決めていた。応用物理を選んだのもなんとなくかっこいいと思ったからだ。強い動機がないので、勉強には身が入らなかったし、たいしてやりたいこともなかった。名古屋という枠組みの中でしか物事が、考えられないということだ。いっそのこともっと田舎で生まれ育っていれば、外への関心が生まれたかもしれないが、名古屋というところは、一通りなんでもそろっていて豊かな場所なので、このことがかえって不幸なのかもしれない。今では、そう考えている。せいぜい大学時代に一貫してやれたことは、塾の主任講師を5年続けたこととマージャン、酒を覚えたことぐらいだ。ところが急転直下、アメリカ行きになった。生まれて初めて、行きたいとたしかに思った。目的ははっきりしなかったが、自分の明確な意志で決めたのだ。
知ってみたい見てみたいという気持ちが大きくなったことをはっきりと覚えている。
二流航空会社の格安の一年間のオープンチケットで、ロサンゼルス経由で、シカゴまで一人旅だ。最初のトラブルは、ロサンゼルスの空港からホリデーイン(ホテル)まで、言葉が通じなくてたどり着けないのだ。暗くなった後2時間、3時間、彷徨って複数あるホリデーインのうち目的のホテルに漸く辿り着いた。普通に日本でできることができないのだ。情けなくなった。翌日、何とかシカゴのオヘヤ空港にたどり着き、伯父(ドイツ系アメリカ人)と叔母が出迎えてくれてシカゴの西、200キロにあるティスコアという人口3000人の町に到着した。その後、半年間イリノイに、特別何もしないで留まり、最後の一ヶ月間は、バスでアメリカ、カナダを放浪した後に帰国した。そろそろ働くし、何かしなければという思いが強くなった。
今から27年前の話である。
アメリカには、夢があった。素朴で、まじめで、宗教心の強いアメリカ人と知り合いになった。イリノイはいわば、アメリカの中の名古屋だ。コンバットや名犬ラッシー、ギャング映画に出てくるアメリカとは違ったが、私の中に「私のアメリカ」ができた。
素朴なアメリカ、かっこいいアメリカ、正直な人が多いアメリカ、自然が豊かなアメリカである。イリノイの田舎の春と夏はすばらしい。見渡す限り「フィールド・オブ・ドリームス(ケビン・コスナー主演)」の世界だ。また、「マジソン郡の橋(クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ主演)」に出てくる橋(実際の橋は、アイオワ州)があるし、風景、建物はそのものだ。

アメリカでの生活は、叔父、叔母、いとことその友達にいろいろな点で助けられ、精神的にも豊かで充実した体験をさせていただいた。普通のアメリカ人は、何を望み、どのように考えるのかが、理解できた。私の中では、もっとも大切な経験をした時期と考えている。
また、英語に関しては、満足にコミュニケーションを取れないレベルであることが、どんな困ったことになるのかを思い知った。トラブルからちゃんとしなければならないという動機付けが、働いたと思っている。名古屋からいきなり準備なくアメリカである。

この決意がなければ、今の自分はないだろう。

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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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