成本正史さん
マイクロソフト株式会社 デベロッパーマーケティング本部 マネージャ
1988年 大阪大学基礎工学部卒業。同年横河電機株式会社に入社。主にファクトリーオートメーションの分野でソフト・ハードの開発を担当。99年マイクロソフトに入社。COMや.NETに関する開発コンサルティングに従事した後、現在はアーキテクチャに関する技術啓蒙、中央省庁関連の各種団体活動への参加、アーキテクトを対象とした講演や各種メディアへの寄稿を担当
日本人の得意分野を武器にする
成本
今、日本のIT業界はオフショアに喰われてシュリンクしていくんだという悲観論がありますが、それは違うと思うんです。むしろこれからの日本は、非常に効率的な生産ラインを組み上げるというところにどんどん進化する。そしてシュリンクするのとは逆に、そのナレッジ込みで世界にどんどん出ていく、まさにそういうオポチュニティだと思っているんです。こういうのは日本人の得意分野ですから。
林
カスタマイズは得意ですね。
成本
ただ、今まではまったく最初から、つまりプログラミングの段階でカスタマイズしていたのです、つまり手作りでやっていたわけです。ソフトウェア・ファクトリーはそうじゃなくて、要件に応じて製造装置をカスタマイズすればいいわけです。そこから先はほぼ簡単な作業になります。テストするための環境もテスト装置もパッケージされています。
私はもう、直感的に「これは日本でやるべきだ!」と思いましたね。弊社の本社にいる人間がソフトウェア・ファクトリーについての本を書いているんですが、最初に読んだ時「これは日本でやったほうがうまくいく」と思ったわけです。
林
日本人の特性に合っていますからね。あとはもう、やるだけだ、と(笑)。
成本
ええ、部品化をして部品の組み合わせによって、いろいろなニーズに対応していくのは日本人の得意分野だし、さらに、日本人がハードウェアづくりで脈々と築いてきた歴史、ノウハウがベースにあるわけですから、これは強いですよ。
日本で育て、世界に逆輸出を目指したい
林
成本さんは「手作り」とおっしゃったけど、今までソフトウェアづくりは、まさに家内制手工業みたいなものでしたよね。ところがどんどん状況が変わって、いわば大工の棟梁が家を建てる感覚そのままで、高層ビルを建てる羽目になってしまった。本来なら実務にあたる人たちもアーキテクトと工事をする人と分けなければいけないんだけれど。
成本
実際にはぐちゃぐちゃになっていますからね。
林
まず、人と役割をもう少しきちんと分けなければいけない。そこがちゃんとやれたら、あとはソフトウェア・ファクトリーの入り口に何をおけばいいのかが問題ですね。
成本
確かに、それは課題の一つです。
林
これはおそらく最後まで残る問題だと思います。入り口、つまり「何がほしいのか」というところは、日本人だけじゃなくて世界中の人々の発想になるわけです。その中で「何がほしいのか」と問われた場合、日本人は何を発想するのか。それが問われることになるでしょう。
成本
そうですね。弊社はアメリカに本社がある企業なので、非常に欧米的なイメージで見られるし、僕が「日本のIT産業を何とかしたい」と言っても、「お前は外資系じゃないか」と言われるんですけれども、そういう表面的なことで判断してほしくないんですよね。
せっかくソフトウェア・ファクトリーといういいものがあるんです。これを日本できちんと育て、今度は日本のものとして世界に広めていけばいいと思うんです。
林
まだ本格的には実装されていないから、実験を繰り返してこれを磨いていくのがわれわれの役割でしょうね。
成本
Visual Studioも弊社の商品なんですけれども、拡張できるようになっています。だから拡張を日本人がどんどんやっていく。原形が10%くらいで、残りの90%は拡張。そういう使い方を僕も考えています。いったん方向性が決まったら、日本人はそれをキャッチアップするのがものすごく早いですから。
林
決まったら早い。ただしそこまでが時間がかかる(笑)。
成本
まず地図を描ける人が少ない。それから引っ張っていく人が少ない。それで今、林さんを始め、業界の大御所の方々のお力を借りて、日本が何とか5年後には世界のトップになることを目指していこうと思っています。
林
成本さんはその「仕掛け人」ですね。
成本
同時に裏方でもあります。
林
たまには表舞台にも戻ったり(笑)。
成本
先日もちょっとみなさまの前で講演させていただきましたが、基本的には裏方です。
耐える「おしん体質」から脱却しよう
林
とにかく、SEやPL、PMの皆さんには、暗くて辛い道ではなくて、明るくて楽しい道もあるんだと知ってもらわないといけないですね。どうしても暗めの人が多いですから。
成本
僕からはどうしても、苦労を分かち合うという方向で共鳴しているように見えるんですが。
林
FAの世界も「おしん」が多いでしょう。男性版の「おしん」が。
成本
ほとんどそうだと言ってもいいかもしれません(笑)。
林
怖いのはそれがクセになっていて、辛い状況から抜け出せなくなることです。「いや~、また障害が出ちゃってね、徹夜しちゃったんだよ」と言っているのを聞くと、「自慢なのか辛いのか、どっちなんだよ?」と突っ込みたくなってしまう。もうちょっとポジティブな楽しみ方をしようよ、と言いたいですね。
成本
そうなんですよね。障害とかトラブルを解決する喜びというのは、それはそれでよくわかるんです。達成感がありますしね。でも人生は一度きりなんで、もっといろいろなことをやりたいじゃないですか。時代を動かす、時代を引っ張っていくようなことにも関わってほしい。大きな影響力を持つ日本人がどんどん世の中に出てきてほしいんです。
林
でも御社も本社はアメリカとはいえ、早い段階から日本のマーケットでやってきて、日本的な要素をうまく取り入れていますよね。そういう意味ではお互い咀嚼しあっている。ビル・ゲイツが偉大なのはそういうセンスがあることですね。
うちの顧問の岡本は日本のCOBOLを始めた7人衆の一人なんですが、彼が東芝の青梅工場長だったとき、ビル・ゲイツが自ら初期のPCのバグつぶしにやってきて、次の日までにやってくれたそうです。
日本のエンジニアで御社の製品とつきあいがないという人はいないでしょう。また成本さんと一緒に新しい時代を築くという流れを見ていると、自信が出ますよね。これは正直な話でヨイショは無しです。
「幕末」を迎えつつあるIT業界
林
今は車一つ取ってもCPUがたくさん組み込まれていて、そこにOSがあってネットワークともつながっている。今度はインターネットともつながる。全部複合的なシステムの方向に行っている。今までいろいろ新しい概念が出てきましたが、それよりももっと大きなテーマで取り組むべきだと思いますね。
成本
われわれもインターネット上にいろいろなWebサービスを構築して、例えばスケジュール管理とか、みなさんがどこからでも利用できるシステムを考えていますが、やはりこれからはWebサービスの時代が来ると思います。
インターネットがここまで普及したのに、大したサービスがのっていない状況ですよね。古い情報、いい加減な情報も混在しています。レベルを押し上げるのはWebサービスだと思います。もっと生活を豊かにするコンテンツがあるべきですよ。そういうことも日本の企業は早くやればいいと思うんです。
林
大企業の動きより、意識の高い人たちがチームになってやることの方が影響力を持ってくる。そろそろ「幕末」の感じになってきているんじゃないでしょうか。
とにかくITの世界を明るくしなきゃダメですよ。これからは「何がほしいか」を明確にし、創造性をもって価値を生み出す力が必要になってきます。
成本さんにも、エバンジェリストとして、日本の産業自体を引き連れて、明るい方向に向かってほしいですね。
成本
それくらいのインパクトは持てると思います。
林
その中では人間系の部分もたいへん重要なので、その部分は私たちがやっていきたいと思っています。でも、まずは「とにかくテクノロジーは楽しい!」ということを、ロートルが教えないとね。
成本
今、理工系離れが言われているので、危機感は持っています。僕としては、これもヨイショ無しで、幅広い造詣と経験をお持ちの林さんが目標ですが、やはり「エンジニアとしてこういう人になりたい」という具体的な人物モデルがあるとすごくいいと思うんです。もっとそういうことが学生たちにも伝わって、モチべーションになってくれるといいですね。