成本正史さん
マイクロソフト株式会社 デベロッパーマーケティング本部 マネージャ
1988年 大阪大学基礎工学部卒業。同年横河電機株式会社に入社。主にファクトリーオートメーションの分野でソフト・ハードの開発を担当。99年マイクロソフトに入社。COMや.NETに関する開発コンサルティングに従事した後、現在はアーキテクチャに関する技術啓蒙、中央省庁関連の各種団体活動への参加、アーキテクトを対象とした講演や各種メディアへの寄稿を担当
会社を移り、エバンジェリストとなる
林
今の会社に移られたのは、何歳の時ですか。
成本
33歳の時で、6年前です。
林
ちょうどいい頃合いですね。
成本
そうですね、俗に言う、油の乗っている時期といいますか。開発の仕事はもう一通りやって、それなりに見えてきている状態で移ったわけです。それまでに、まあマイクロソフトのテクノロジーは使っているし、VBAも全部やってきましたので。
林
そうですね。使いこなしていますね。
成本
で、最初はコンサルタントみたいなかたちで入ったんです。各企業さんの開発プロジェクトのコンサルティングをやってきて、そのあと、今のマーケティング部に移りました。現在は「アーキテクト・エバンジェリスト」ということで、個別企業がお客さまというよりは、もう本当に、マーケット全体に対する技術啓蒙をやっています。
林
エバンジェリストという言葉は、割と早い段階でマイクロソフトが使い始めていましたね。私は、その中で、エバンジェリストっていう言葉の意味が変わってきたと考えているんですが、成本さんの考えているエバンジェリストというのは、何がミッションで、どういうことをする人なんですか。
成本
僕が考えているエバンジェリストは、今後2年、3年先の技術の方向性をきちんとマーケットに伝えて、皆さんを正しい方向に誘導する存在です。
林
出エジプト記のモーゼですね。
成本
僕はそれがエバンジェリストだと思っています。
林
対象物が何であれ。
成本
ええ、何であれ。「○○エバンジェリスト」という人はそういうことをやっているべきで、やってなかったらエバンジェリストではないんじゃないでしょうか。
林
で、成本さんが今取り組んでいるテーマが、御社のピア製品の伝道ですが、これが新しい概念、新しい思想、新しい文化、新しい製品とも噛んでいる、全く新しい方式のものである。まさに成本さんの「とっておき」というか。
成本
そうですね。本当にソフトウェアの道では面白い時代に生きているなと思います。
ソフトウェア業界は大変革の時代に入った
林
これから3年後、ソフトウェアの世界は大きく変わるんですね。
成本
2,3年、遅くとも5年以内に、ガラッと変わります。それは間違いありません。
林
私もその兆候はわかっていますけど、成本さんはもっと肌で感じるでしょ。ここだ、ここだ、ここだと。
成本
はい、いくつかの特徴的な方向性があるんですね。まず、どんどん仮想化していくというひとつの可能性があります。今インフラストラクチャの仮想化ということが行われています。
まあ、本当にWindowsだろうが何だろうが、全てのアプリケーションが一緒にひとつインフラになるのが仮想化度100だとしたら、100まで行くかどうかはわからないですけど、ただ、どのアプリケーションがどこで動いているということはあまり意識しなくても、勝手にインフラの方で最適なリソースをアサインしてくるような時代が来ます。
これに関しては、グリッド・コンピューティングというようなことも言われていますけども、グリッド・コンピューティングという言葉自体、またいろいろな意味を持っているので、あえて僕はグリッドという言葉は使いたくないんです。つまりは仮想化ですね。
林
まずそれが一つの方向性ですね。
成本
もうひとつの流れとして、標準化があります。これはWebサービスが代表的な例なんですけども、要は、現在Webサービスで何をやっているかと言うと、いろんなシステム同士の連携をとろうということですが、そういう部分は、あまり付加価値はないんですよね。そもそも繋がって当たり前なんですよ。繋がっていないことは課題なわけであって、それを解決するのは価値じゃない。やって当たり前なんです。今はそこにものすごい労力を使っているわけなんです。そういうところは全部標準化ということで解決されていきます。
オブジェクト指向の次に来るもの
成本
なおかつ、今度は抽象化という概念があります。今はアプリケーションも個別の作り方、オブジェクトがどうで、コンポーネントがどうでという、細かなことを扱っている。ドット・ネットがいいのか、JAVAがいいのかということを言っていますが、これについてはどんどん抽象化レベルが上がっていきます。テクノロジーの進化というのは、必ずこの抽象化のレベルが上がっていく方向に進むんですけども、先ほど林さんもおっしゃったように、ここ20年間、つまりオブジェクト指向以来、あまり抽象度は上がっていないんですよ。
林
その流れが変わる何かが起こると。
成本
ええ。今後5年間で、サービス指向というものが主流になっていきますので、僕はこれでひとつ抽象化のブレイクスルーが起きると思っています。
サービス指向を単純にコストダウンと絡めて語ったりするような人もいますけども、僕が考えているのはそういうことじゃなくて、オブジェクト指向の次の新しい変革こそがサービス指向という風に考えています。で、もうひとつがモデル駆動です。今申し上げたような動きが、今同時に起きています。
今は段階的にですが、その動きはもうどんどん加速してきているんです。
ただ、あまりにも同時にいろいろなものが出てきているので、多分皆さん混乱されている状況だと思うんです。
変化は不可避、そこでどう振舞うかが問われている
林
今までは、それこそ田んぼの「あぜ道」のようなインフラだったところが、どこでもブロードバンド環境で、高速道路が引かれ始めたということが大きいですね。本格的なモータライゼーションの時代が来たら、それまでの考え方や生活が全部変わる。
成本
ええ、全くそういうことです。だから、車が変わったら運転手も生活も変わるように、Webサービスみたいなものが本当に世の中に出てきたら、全部が変わりますね。組織も変わるし、ライフスタイルが変わりますよ。
我々は「スポット」っていう、腕時計に端末があるウェアラブルコンピューティングみたいなこともやっていますけど、もっと気軽で簡単にインターネットから全部の情報が取れるようになってくるでしょう。まさにSFの世界になります。
林
これが一つ、大きな変化のパターンであることは過去に証明されていますよ。有史以来ずっと人類が発展してきたわけだけれど、腕時計が腕に実装されるところから、時間の概念が、全く刻みが変わってしまった。それはもう確実に違う。それまでは「夕方行くよ」って言っていたのが、「何時に伺います」になってしまった。時間が全部スライスされて、私自身もそれをコントロールできないんです。いったい誰が誰をコントロールしているんだろう、と時々思うんですけれど(笑)。
今起こりつつある変化も、サービス指向なのはたしかでしょう。サービスが接点で、イベントとしてアクセスするんだけど、私はそこに神の手を感じますね。
成本
そうですね。デジタル化は人の意識を大きく変えましたね。
林
だから今これから起こる変化も、何かもういろいろなものが、石ころや岩を削りながら流れていくようなものなのだと思います。それに逆らってしがみついたり、逆行しようとしても難しいでしょうね。
特にサービス指向は非常に「人間系」です。それと技術の接点のところでの発想でしょ。
だから技術が広がって、いろんな複雑なものを飲み込んだ時に、ある境界を越えると全然別の次元に行くというのは、歴史的に何度も繰り返されてきた。
だけど、それが鉄砲であったり時計であったり飛行機であったりすると、まあ、自動車でもそうですけれど、目に見えてわかりやすい。でも今、目に見えにくいソフトウェアの世界でも同じことが起きつつある。
成本
まさに起きようとしている。産業革命はソフトウェア・ファクトリーと呼んでいるものを大前提としてあるわけです。2005年から今後の5年間、本当に今私がいったようなことを実現できる環境が整っていくんです。試行錯誤してきた結果として。やっぱりこういうものを推進するにはものすごいエネルギーがいるし、ポジティブにやっていかないと前に進まないじゃないですか。そこをネガティブに反応したり、回りの状況を見て、なんてやっていると乗り遅れるわけですよ。そこで僕が日本のソフトウェアに関わる人に言いたいのは、せっかく自分がこういう世界に今いるわけだから、このムーブメントを加速させる方向に積極的に参加しましょうよ、ということなんです。