IT投資とは、一般に企業などの組織が、情報化または効果的な情報技術の利活用のためにかけるマネーのことを言う。近年IT投資に対する投資対効果をいかに測定するかという問題は、経営においても大きな関心事となっている。その背景には企業経営において、ITの利活用の優劣やセキュリティ面での情報管理の重要性が、経営課題として大きな比重を占めるようになってきたことがある。
投資対効果は一般的には、その投資に対して利益がどれだけ得られたかを比較することで測定する。その方法として代表的なものに、ROI(Return On Investment)法やDCF法(Discount Cash Flow)法がある。ROIの基本的な計算式は(利益/投資額×100)であるが、会計的に計算するときには、分子の利益には営業利益や純利益などを用い、分母の投資額としては単純な投資額だけではなく有利子負債などを含めたりする。またDCF法では、投資効果をより現実的に把握するために将来得られるだろう利益に割引率を掛け、現在価値に置き換えてその投資判断をする。
一般的にIT投資は投資対効果の判断が難しい。まず投資に関しては、IT投資の場合は単純に初期投資(費用)のみを対象とするのではなく、維持のための運用コストなどを含んで考えなければならない。また運用コストも単なるメンテナンス料などの見える費用だけではなく、見えないコストとして、管理コストや社内ヘルプデスクなどの人的支援コストなども含めて考えなければ意味を持たない。したがってIT投資を厳密に把握するにはTCO(total cost of ownership)などの標準化されたコスト指標を事前に確立して評価できる仕組みを作っておくなどの必要がある。
次に効果を表す部分であるが、従来のIT投資では効率化による経費削減効果を中心に捉えてきたが、近年のIT投資では、インターネットによる受注など利益を直接増大させるための投資や、ホームページのような広報PR的効果、イントラネットのように社内の情報共有の高度化などの投資も含まれる。利益に直接結びつくようなものや、人員削減などは金額換算もしやすいが、目に見えない効果は当然ながら効果を単純に利益換算しにくい部分が大きい。したがって、ここでも予め何らかの評価指標を設定しておくことが必要となる。そしてその方法として最近ではベンチマークやバランストスコアドカード(BSC)などの評価指標が注目されている。
ITという、活用範囲が広く、また汎用的な技術の場合は、投資対効果を簡単に判断することは難しい。したがってその組織にとって重要な判断基準は何なのかといった議論にまで立ち返って、組織全体で合意できるような評価指標などの基礎的な仕組みを整備して、一歩々々投資判断の精度を上げていくような努力が必要になる。