ブライアンより一言
私が某国際企業のアジア統括マネジャだったころ、仕事の一環として社員の強みと弱みをリストアップし業績評価を行っていました。そして社員は業績レビューの際、自分の長所を伸ばすことにはあまり注意を払わず、弱点を克服することに多くの時間を割いていたのです。人間はどうも、ポジティブな面よりネガティブな面に気を取られがちな生き物のようです。
しかしここ数年、ワークショップやコーチングで何千人もの人にお会いした結果、人間のパワーを最もひきだすのは、まず強みや長所を伸ばし、それによって弱みの部分をうまくカバーすることだと気がつきました。
自分の弱みよりも強みに注意を向け、強みをさらに伸ばすことに注力した人のほうが、良い結果を生み業績も向上しています。
あなたの強みのトップ5はなんですか? 紙に書き出して見ましよう。そしてその強みをどんどん使い、うまくできないことについてくよくよするのはやめましょう。
実は私は車の修理が苦手です。でも世の中はよくしたもので、車の修理が何より好きなプロがひしめいているではありませんか。車の調子が悪くなったら修理のプロに任せればよいのであって、私が今から修理の達人になるべく修業する必要はないですよね。
言い換えれば、わざわざ苦手なことをするより「あなたが本当にしたいことをしよう」ということなのです。
林衛よりコメント
人間は、というよりも会社やチームなど多くの組織は、どうしても自分たちの悪い面に気を取られがちです。しかも、そのことがなかなか改善につながらないのです。ある一定の知的レベル以上の人なら、自分の悪い点、弱点を知っていることが多いでしょう。しかし、それを指摘されたときに、まず気持ちがネガティブになってしまい改善に向かわないことがよくあります。組織は人で構成されていますから、組織も同様の傾向を持っています。しかし、ほんとうに強い組織は、弱点をネガティブに捉えることではなく、長所を発見してさらに伸ばすことで、弱点の影響を小さくする術を知っているのです。
組織には必ずなんらかの「強み」があり、強みに比べて弱い部分がある。しかし優秀な企業では「弱み」といっても、他の企業で見ればそこそこの水準に達しています。そしてまだ十分に力をつけていない組織においては、強みといっても実は大したことがない場合もあるのです。強み・弱みはあくまでも相対的だということを忘れてはいけません。もう一つ、エラーと弱みは違います。エラーはすぐ正す必要があります。間違いを正すことは大事ですから混同しないようにしましょう。
強い組織になるべく、強みを伸ばし弱点の影響を小さくする作業は、意識的に行わなければできませんし、しかもエンドレスです。エンドレスに改善をしていくということが、結果として何年か後に大革新につながるのです。
組織ではなく個人としても、ブライアンの言うように、自分のやりたいこと、つまり得意分野を伸ばしていけば成功につながるといえるでしょう。ただし、人間はかなり経験を積むまで「本当にやりたいこと」が見つからないのが普通です。だから若い人たちは迷うし悩むのです。目標を決めて努力して、できなかったことができるようになって自信がつき、人からもほめられてさらにそれが好きになってゆく。そのようにいろいろなことをやってみてはじめて、「本当にやりたいこと」が見つかるのですから。
本当にやりたいことにかける時間やエネルギーは苦になりません。他人から見たらたいへんな「努力」に見えても、当人にとっては自分自身を望む方向に変えていくために必要な、あたり前の行動に過ぎないのです。
問題は時間が有限であること、大地震や大津波のように個人の力では避けられない運命があるということです。来年、あなたも私もこの世にいられるとは限らない。しかし、孫悟空がお釈迦様の手の上から出られなかったように、われわれも運命から逃れられない身の上であるからこそ、自分が正しいと思ったことをやろうという決断はしやすいのではないでしょうか。ブライアンの最後の言葉は、人間がどうにもできない運命の中に生きているからこそ、自分が本当にやりたいことを、信念をもって誠心誠意やりましょう、というきわめてあたり前の真実を言っているのだと思います。