異文化コミュニケーションは、異なる文化を持った人間同士のコミュニケーションの事を指し、一般的には国や地域などの異なる言語間のコミュニケーションを対象とすることが多い。しかし最近では、文化を特定の集団が暗黙的に共有する行動様式や価値観というように捉えて、企業や世代といった集団文化間のコミュニケーションに適用されることも少なくない。
今日のプロジェクトは、異なる集団文化を持ったステークホルダーが共同するケースが当たり前となっている。したがってコミュニケーションをマネジメントする上では、プロジェクトマネジャは異文化コミュニケーションの知見を持つことが重要となっている。
異文化コミュニケーションで重要なのは、用いられる言語の理解と合わせて、そのそれぞれの文化の持つTPO(time、place、occasion)や、社会的心理的背景といったコンテキストの理解だといわれる。コンテキストは、その発言の前後や背景との関係によって決まってくる、明言化されないメッセージと言える。当たり前のことだが、人は同じ言葉を使っても、その状況によって意図する意味を変えて相手にメッセージを伝えている。メッセージを氷山に例えれば、言葉の意味するところは水面上の一角で、コンテキストは水面下の部分というようなものである。したがってコミュニケーションにおいては、このコンテキストの理解が非常に重要となる。
このコンテキストの共有度合いが非常に高い集団文化を高コンテキスト文化と言い、日本社会は昔から高コンテキスト文化の社会と言われてきた。これに対して低コンテキスト文化の代表は多民族が集まった米国と言われる。高コンテキスト文化の社会では、言葉で全て説明しなくても、コンテキストを理解していればコミュニケーションの行き違いを防げるので、仕事上はマニュアルやルールを事細かに定めなくても問題なくことが進めることができる。しかし低コンテキスト文化の社会では、マニュアルやルールを細かく定義して、仕事の手順や担当者の役割に抜けがないようにしなければ、仕事は進められない。
コンテキストの共有には、お互いが同じような体験や経験を共有することが必要である。しかし、最近では日本でも核家族化やコミュニティの崩壊で、このコンテキストの共有が必ずしも容易ではない状況となっている。言わば世代や育ってきた環境の違いで価値観や行動様式が大きく異なる異文化化が進んでいるとも言える。このような中でプロジェクトを円滑に進めるためには、一方でマニュアル、ルールなどを明文化して明確にする一方、相手の価値観の違いを理解するためのトレーニングや場作りを積極的にするアプローチが重要になってくる。