ブライアンより一言
今回の一言は「成功は自然発火の結果ではない。あなたが自分に火をつけなければならない」です。詳しい説明は 前編 をご覧ください。
林衛よりコメント
前回に引き続き、「成功の4E」と文化の違いとの関わりについての話をしましょう。
日本と欧米では、失敗のパターンにも、成功のパターンにもかなりの違いがあります。
たとえば、大きな変化に直面し、変革の必要に迫られたときはどうでしょう。日本の場合は、なかなか自分がエッジ=崖っぷちにいることを認めない傾向があります。「まだ大丈夫だろう」「誰かがやってくれるだろう」と思い込みたがるのです。でもそれは自分の都合であり、客観的事実ではありません。そして情による「巻き込み」が、ともすれば「みんなで渡れば怖くない」「突出を認めない」方に働く、いわゆる「握っていく」となる傾向があります。その結果、変化についていけず内部崩壊してしまう。「しようがないね」と言いながらみんなでずぶずぶと崩壊し、泥舟が徐々に溶けて沈んでしまうような形をとります。ちなみにこういうときに使う独特の感情がこもった「しようがない」に対応する英語はありません。一方、ブライアンに聞いたところによれば、欧米の場合は、変革の際に利害の異なる人の間で争いが起こったり、情報を共有せずに独占して有利な立場を得ようとする利己的行動のために組織が機能しなくなることがあるといいます。「物事がうまく行かないパターン」も実は日本と欧米では大きく違うのです。
このように深く文化のDNAに根ざした行動パターンは容易には変えられません。ブライアンの言う「成功には4つのEが必要」というのは文化の違いを超えた共通項として正しいのですが、農耕民族のDNAから逃れられないわれわれは、文化の違いに意識的になりながら、欧米のよいところを取り入れつつも日本型の4Eを運営していくしかないのです。
プロジェクト活動は、最も行動パターンの違いと文化に即した4E活用の必要性を反映します。プロジェクト活動は先が見えないし、きつい条件の中で目標を達成しなくてはなりませんから、まさにエッジにいるわけです。
欧米型のプロジェクトはトップダウンで、有能な人が的確な指示を出すというのがプロジェクト成功のパターンですが、日本ではそれがやや弱いのです。しかしプロジェクトの中に改善行為が組み込まれていて、最後には何とかなるというのが日本型のプロジェクト成功のパターンです。ひとつずつの改善の力は小さくても、それを全部合わせると大きな力を持ちます。しかもプロジェクトが終わってからも改善は続きます。プロジェクトが終わったらそこですべて終了と考える欧米人よりも日本人のほうがプロジェクトを通して学ぶ力は強いと思います。
要するに、プロジェクトの構成要素はすべて同じだけれども、勝ちパターンが違うのです。だから欧米の受け売りだけのPMはトップダウンでやろうとして周囲に嫌われて失敗します。狩猟民族の欧米と違い、農耕民族でしかも島国である日本の文化は突出することを嫌うからです。知識だけではなく、人間や文化を学ばないとプロジェクト、つまり人を巻き込んだ仕事を成功させることはできません。
変化に対応しようとするときにも、欧米的な対応ではうまくいきません。日本人は良くも悪くも、始めたことをやめてはいけないと思っていますし、一人が変わるのではなくみんなと一緒に変わることを良しとします。時間はかかりますが、いったん変わることができて成功するモデルに移行すると長続きします。ただし、また次の変化に対応するにも時間がかかります。日本人はロジカルだけで割り切りませんから、感情面を含めて納得するのに時間がかかるのです。
日本でもグローバルに成功している企業があります。日本を代表する数社は日本の文化を内包しながら業績を伸ばし続けており、学ぶべきところは多いでしょう。しかし、このような成功企業にも弱点があります。それ以外のことはすべて成功の条件を満たしていますが、会社によっては働いている人があまり楽しくなさそうなのです。楽しいだけでは成功しませんが、楽しいというのも成功にとって、そして何より成長にとっての重要な要素です。
ですからブライアンの4Eに加えて、5番目のE:Enjoy(楽しんでますか)?を入れて5Eにすることにしましょう。
以上、成功のための5Eをお勧めします。ただし日本的文化の特性を捉えて上手に活用することをくれぐれもお忘れなく。
<第11回につづく>