プロジェクトは定常的な活動とは異なり、まったく同じ活動が繰り返されることは少ない。しかし過去のプロジェクトの記録などから得られる、そこに携わったメンバーの知恵が新しいプロジェクトにとって有益であることは言うまでもない。したがって、プロジェクトの記録は、詳細に残されるべきである。一般的にそれらはテンプレートという形で新たなプロジェクトの計画や是正処置のための有効なたたき台を提供する。最近よく言われるナレッジ・マネジメントは、チームや個人が仕事を通して得ながら蓄積される知識の価値に着目して、それを積極的にマネジメントに生かそうとする手法である。
ナレッジ・マネジメントでは、経験豊富な個人やチームに蓄積された知識を暗黙知として捉える。暗黙知とはうまく言葉などで体系的に説明できない(教科書的に伝えられない)知識を、生のままに近い形でデータベースに蓄積して、チーム活動などを通して体系的な知識(形式知)に変換して、組織の共有財産として活用することを目指す。またそのように体系化された知識は、次の仕事に活用されながら新たな暗黙知を、個人の中に蓄積させる。そしてそれをまた体系化する、というスパイラルなアプローチによって組織の知識を深化させていく。
したがってナレッジ・マネジメントでは、マニュアルのような教科書的に編集された情報だけではなく、プロセスの中に埋め込まれた生の情報を重視する。プロジェクトで言えば、報告や是正、変更管理などで取り扱われるプロセス情報がこれに当たる。それらは、そのままでは他の情報に依存して中途半端な情報ではあるが、対象プロジェクトに精通した要員によっては、自分の中の知識と組み合わされることで有益な意味を持った知識に変換される。そのような事が繰り返されるなかで決まったパターンは、テンプレートとして体系化されて、組織全体の知識として定着していくと考えられる。
ナレッジ・マネジメントを試みる上で重要なのは、まずはそのような有益な情報を出し合い、組織で活用しようとするメンバーの知識共有意欲と、蓄積された情報を意味のある知識に編集するための努力である。そしてこのようなナレッジ・マネジメントの推進もプロジェクトマネジャにとっての重要な一つの仕事になりつつある。