株式会社キリンビジネスシステム様のご依頼により、PM(プロジェクトマネージャ)向け教育研修を実施いたしました。
株式会社キリンビジネスシステム様の社長とご担当者のお二人に、この案件のご依頼のきっかけや実際の取り組み内容を振り返りながら、今回の成果や今後の課題について率直なご意見・ご感想をいただきました。(一問一答はお二人のコメントを元に編集したものです)
この事例紹介は2006年に取材したものです。
社名、人物の肩書などは取材当時のものです
お客様の課題 | システム開発の品質を上げ、ユーザービジネスに貢献できるかが最大の課題であると共に、それを実行するPMが不足していた。 |
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当社支援内容 | 当社のPM教育のコースを実施させていただきました。 |
解決策 | 最初は、部長を中心としたマネジメント層を対象とし、その後、プロジェクトを実際に回していくリーダー層に、次に実際にプロジェクトを引っ張っていくリーダーの予備候補が受講した。 |
キリンビジネスシステムはキリンビール、キリンビバレッジのグループ企業である。88年に設立された後、キリンビールの情報システム部の機能が少しずつ移管され、現在は企画機能がキリンビールの情報企画部に残っている以外は、すべてキリンビジネスシステムに移行している。
従来、キリンビール情報システム部が担当していた企画、開発、保守、運用、ヘルプデスクをカバーし、現在は、キリンビバレッジを含めた、グループ全体の情報の仕事を担っている。同社の役割は、ユーザーの仕事、事業戦略、その目的と意味を理解し、情報化投資がグループのビジネスの成功につながるようにITの側面から支援することである。
従業員数は、250名弱。実際の開発に携わっているのは、その約半分程度である。システム開発の仕事を円滑に進めるためにIT系の教育を経営企画部が担っている。
キリンビールの情報システム部の時から、標準のシステム開発方法論はあったが、プロジェクトマネジメントに関しての体系化されたものはなかった。2000年に本格的に業務移管が進み、2001年には、大規模かつ複雑なシステム開発が増加した。そのため、システムの品質、納期、コストの面でユーザーの満足が得られるレベルにするために、プロジェクトマネジメントに関して従来の属人的な状況から脱却し、ルール化を行うことが必要と考えた。その流れの中で、プロジェクトマネジメントの標準を策定するために社内タスクフォースを立ち上げた。
プロジェクトマネジメントの勉強を進める中でPMBOKだけでは、中々理解されにくいので「プロジェクトマネジメント・ハンドブック」を自前で作成し、それを元にして説明会を実施してきた。しかし、ハンドブックの作成、説明だけでは定着、実践になかなか適用できないと考え、方策を模索していた。合わせて、2003年頃、世の中でITを経営に融合してどう活かしていくかが問われ始めたが、その中でどのようにシステム開発の品質を上げ、ユーザーのビジネスに寄与できるかが最大の課題であった。
2003年にアイ・ティ・イノベーションのセミナーに当社の社員が参加して感銘を受け、「人材の育成とプロジェクトをきちんと進めていくポイントについての話をぜひ聞いたほうがよい」と強く勧められて、2004年の1月に改めて、聞かせていただいたのがそもそもの出会いでした。
PMについての知識は、本を読めば書いてありますが、どういうお話をされるのか、また経験が十分おありかどうかで、同じ内容でも伝わり方が違うと思います。研修は、講師のお話に受講者が共感できるかどうか、自分もやってみようと思えるかどうかが肝心だと思い、林社長に講師を依頼しました。
ユーザにとってシステム開発は大変な投資ですが、IT技術を仕組みの中に組み込み、業務を効果的、効率的に遂行して初めて効果が出ます。そこに至るプロセスをきちんとマネジメントし、目的の実現を担保するためにはどういう仕組みを入れたらいいのだろうかという思いがベースにありました。ちょうど2004~2006年は中期計画の年度でもあり、この3ヵ年で「PMが足りない」という課題があり、それを解決するためにも、きちんとした体系の教育をするべきだと考えて計画しました。
システム開発では、QCDの面でユーザーの評価と満足が求められることは当然です。稼働後は、安定的にかつ運用コストをあまりかけずに、ユーザーがうまく活用し続けて効果を出している状態が求められます。PMには、プロジェクトをどのようにマネジメントし、どうやって納期を守りながらいかに品質を確保していくかというノウハウをきちんと身に着けてほしいと思いました。
2004年は2回、2005年1回、2006年に1回の計4回で、76名が受講しています。実際に受講してみると、受講者に先生の熱意あるお話がよく染み込んでいる感じがしました。
最初は、部長を中心としたマネジメント層を対象にし、その後プロジェクトを実際に回していくリーダー層に、次に今後プロジェクトを引っ張っていってもらいたいリーダー候補者に受講させました。
システムがホストコンピュータの時代からオープン系にどんどん移ってからPMの仕事は、非常に難しくなっています。オープン系は、組み合わせですから、どれかひとつがよくても何かがだめなら性能が出ないので、漏れのないように段取りをして、実行することが必要です。それについてメリハリをつけて教えていただいたのが非常によかったと思います。
研修については、特に問題になった点はありません。アンケートを毎回とっていますが、総じて「非常によかった」という回答です。「次の回の研修は、ぜひ受けていない人に受けさせたい」という反応が多かったです。体系化した話しだけでなく、豊富な実務経験を踏まえた、人間系の話も多く、受講生が共感できるところも多かったようです。「今後似たような場面に出会ったら自分も同じようにやってみよう」という意識の出る研修だったと思います。
実は、最初に受けた部長クラス数名から「これはとてもできない」という本音の声を聞きました。ただ、そのように反応したのは、開発経験のない部長で、最初にあの膨大な内容を見て気が引けてしまったようです。この研修は、やはり開発を実際にやってみてこそ、内容が身に染みてよく理解できるものなのだと感じました。
やはり先生の熱意が受講者の共感を呼んでいる様子ですね。また研修の中で「プロジェクト活動の本質は、それが実現したらすばらしいだろうと思えることを自らコミットしてチャレンジすることだ」という説明がありましたが、それは非常に大事なことだと思います。プロジェクトに限ったことではなくて経営にも言えることですが、手が届くことだけをやっていればいいわけではなく「それが実現したらすばらしい」という目標をまずやると決める。そして組織の内外にコミットしてチャレンジしていくということが企業の原動力だと思います。そのお話が非常に印象的でした。
研修の際に先生のおっしゃったことを忠実に守り、最初のプロジェクトのスコープが大きく外れなければ、基本的にプロジェクトは上手くいくということがわかりました。研修によって開発の品質は、上がってきていると思います。
また、研修と同時に、2004年の春にPMOの組織をつくり、プロジェクトが立ち上がった段階で関係者を集めて、一定のフォーマットに整理したプロジェクト計画の内容を審議するという方法をとっています。「PMO組織でチェックすることは、プロジェクトを成功に導くための知恵であり、回り道のように見えても結局は、そのほうが早いのだ」という位置づけにしました。このように考えられるようになったのは、やはり林社長のお話の影響が非常に大きかったと思います。
PMスキルのひとつとして大切なコミュニケーションという部分については、毎回林社長を含めて講師の方々に「受講生のコミュニケーション能力が非常に高い」とお褒めの言葉をいただいています。
実際の話として最近、キリンビール、キリンビバレッジと、社外の人が利用するワークフローシステムを開発しました。このプロジェクトのマネジメントとコミュニケーションのとり方は、関係者が多かったので難易度が高かったのですが、担当のPMは、すでに研修を受けており、よく気が付く人間でした。プロジェクトを進める過程できちんと話しをして、ユーザの理解を得ること、より深く踏み込んで、ユーザーにとっての本当の効果はどうしたら出るのかというところに気がついて提案することを実行した結果、そのプロジェクトは非常に評価されて、何の問題もなく展開しています。
まだPM研修を受けさせたい社員がいますので継続的に受講させていただきたいと思います。また、研修を受けて理屈は飲み込めて、その後実際に現場で復習しながら勉強しているのですが、そのフォロー研修をお願いできればと思っています。 今後は、PM研修とその後のフォロー研修を含めて計画的な人材育成にもより力を入れていきたいと思います。