こんにちは。アイ・ティ・イノベーションの井﨑です。「IT部門の応援歌」第1回では、「未来のIT戦略を見据えるビジネスアーキテクチャ」をテーマにお届けします。
1. はじめに:未来志向のIT戦略とビジネスアーキテクチャの必要性
近年のビジネス環境は、DX、AI、サステナビリティといったキーワードに象徴されるように、かつてないスピードで変化しています。このような状況において、IT部門が経営と連携しながら未来志向のIT戦略を描くことは、企業の持続的成長にとって不可欠です。そのためには、戦略と業務とITの橋渡しとなる「ビジネスアーキテクチャ」が重要になります。
2. ビジネスアーキテクチャとは何か
ビジネスアーキテクチャとは、企業のビジネス構造を体系的に可視化し、再構成するための枠組みです。具体的には、ビジネス戦略、バリューチェーン、業務機能、組織、情報などの要素を関連付けて整理するものであり、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の中でも最上位に位置付けられます。(図1の赤枠)
3. ビジネスアーキテクチャが果たす役割
ビジネスアーキテクチャは、IT戦略やIT企画の出発点となり、ビジネス部門とIT部門の共通言語としても機能します。業務の目的や流れを整理し、今後のあるべき姿を示すことで、変革に向けた構想づくりを支える基盤となります。
4. よくある課題とその背景
実際の現場では、IT起点の構想がビジネスと乖離したり、業務要件が属人的で全体最適が難しかったりといった課題が散見されます。また、業務全体の構造が可視化されておらず、「何を変えるべきか」が見えにくいという問題もあります。
5. 未来志向のアプローチ:あるべき姿からの逆算
従来の「現状分析→課題解決型」のアプローチから脱却し、「未来のあるべき姿→ギャップ解消型」へと転換することが求められます。そのための手法として、バリューストリームマッピングやビジネスモデルキャンバスなどのツールが有効です。IT部門としても、構想力と可視化力を高めることが重要です。
6. 活用シナリオの一例
たとえば製造業では、全社横断の業務改革構想を進める際に、ビジネスアーキテクチャを用いてバリューチェーンを整理し、どの業務にIT投資を集中すべきかの判断に活用するケースがあります。特定部門の業務改善にとどまらず、全社最適を見据えた設計が可能になります。なお、当社では図2のように「ビジネスモデル概念図」という形でモノや情報の流れを可視化し、プロジェクト関係者間のコミュニケーションツールとして使用しています。
7. おわりに:IT部門が描く未来の企業像の一翼として
ビジネスアーキテクチャは決してビジネス部門だけでデザインするものではなく、情報の流れやITを組織横断的に見ることができるIT部門も積極的に参画すべきと私自身は思っています。また、昨今ではビジネスの拡大やDXの流れ、AIといったIT技術等により、組織や事業を横断して俯瞰的に物事を把握できるのは(今できるかどうかはともかく)IT部門しかいないようにも感じています。海外ではビジネスアーキテクトという専門職や専門組織が比較的整っていますが、日本においてはIPAのDX推進スキル標準でビジネスアーキテクトの役割を定義するなどの動きはあるものの、私の肌感覚としてはこれからという感じですね。今後ますますビジネスとITが一体となって改革・改善を進める必要があることは自明と思いますので、IT部門が「戦略を支える存在」から「戦略を共に描く存在」へと進化するための一歩として、ビジネスアーキテクチャデザインの実践をおすすめします。
次回は「企業を強化するデータアーキテクチャ」をテーマにお届けします。
ご一読いただきありがとうございました!
回 | タイトル (予定) |
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0 | まえがき:新連載はじめます ~ IT部門の応援歌 ~ |
1 (今回) | 未来のIT戦略を見据えるビジネスアーキテクチャ |
2 | 企業を強化するデータアーキテクチャ |
3 | 業務を革新するアプリケーションアーキテクチャ |
4 | 成功へ導くプロジェクトマネジメント |
5 | IT部門の価値を可視化するアプローチ |
6 | 新規システム導入の成功の鍵 |
7 | EOL対応をチャンスに変えるアーキテクトの視点 |
8 | IT投資の価値を経営層に伝える方法 |
9 | AIとの上手な向き合い方 |
10 | 次世代アーキテクチャで築くIT部門の未来 |