近年、多くの企業が予測AIモデルを導入し、業務効率化やビジネスの最適化を進めています。しかし、「導入したものの、期待したほどの精度が出ない」「どのようにモデルを改善すればよいかわからない」という悩みを抱える方も少なくありません。
そこで、本記事では、予測AIモデルの精度を向上させるための具体的な手法や、改善プロセスの見直しポイントについて解説します。
1. AIモデルの予測精度が低い原因を探る
まずは、なぜAIモデルの予測精度が低くなるのか、主な原因を整理します。
1.1 AIモデルの予測精度が低い原因を探る
AIモデルの予測精度は、入力される「データの質と量」に大きく依存します。不適切なデータや偏りのあるデータが使用されると、モデルの学習が不十分となり、精度が向上しにくくなります。
- データ量が不足:
特定の条件下でのデータが少ないと、モデルが適切に学習できず、過学習(オーバーフィッティング)や未学習(アンダーフィッティング)の問題が発生しやすくなります。
- データのノイズが多い:
欠損値や外れ値が多いと、モデルが誤ったパターンを学習し、精度の低下につながります。
- データの偏り:
例えば、特定の顧客層や製品カテゴリにデータが偏っていると、モデルの予測結果が偏ったものになり、汎用性が低くなります。
- データの時間的変化:
過去のデータを元に学習したモデルが、最新の市場動向やユーザー行動の変化に対応できていない可能性があります。
1.2 モデルの過学習と未学習
AIモデルの学習が適切でない場合、以下の2つの問題が発生します。
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過学習(オーバーフィッティング):
トレーニングデータに対しては高精度でも、新しいデータに対しては精度が大きく低下する。この判別方法としては、「訓練誤差とテスト誤差の差を確認する」、「決定係数(R²スコア)を確認する」などが挙げられます。例えば、訓練データの精度が高く、テストデータの精度が低い場合、過学習の可能性が高いと考えられます。
- 未学習(アンダーフィッティング):
モデルが適切な特徴を学習できておらず、予測能力が低い。この判別方法として、「訓練誤差とテスト誤差の両方が高いかを確認する」、「モデルが単純すぎないかを確認する」などが挙げられます。例えば、決定木モデルなら深さを深くして、精度向上するかを確認する必要などが挙げられます。
1.3 特徴量の選択ミス
予測精度を上げるためには、適切な特徴量(データの属性)を選択することが重要です。
- 不要な特徴量が含まれている:
予測対象と関連(相関)のない変数が多いと、モデルが本質的なパターンを学習しにくくなります。
- 重要な特徴量が欠落している:
ビジネス上の重要な要因がデータに反映されていないと、モデルの予測力が低下します。
2. 効果的なデータ収集と特徴量エンジニアリングの検討
モデル精度を向上させるには、データの品質を高めることが不可欠です。
2.1 AIの精度を向上させるデータ収集の検討
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業務フローとデータの紐づけ:
既存業務において、どのタイミングでどのようなデータをどのような目的で見ているのか、ヒアリングや整理を行い、入力データの有無を確認する
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データ量のバランス:
偏ったデータではなく、多様なケースを含むデータを収集することで、予測の汎用性が高まります。
- 外部データの活用:天気データ、経済指標、ソーシャルメディアのトレンドなどを追加することで、予測の精度が向上する場合があります。
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最新データの統合:
静的な過去データだけでなく、最新データを取り入れることで、精度向上が期待できます。
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データクレンジングのチェック:
最終的にデータを1つに統合して、AIにインプットさせる必要があります。その際に、データの整合性や一貫性を担保しておく必要があります。例えば、複数システムで異なるIDが付与されている場合の「名寄せ」、重複している同一内容のレコードを削除する「重複データの除去」、データの表記・形式を揃える「データの正規表現」、データ内に存在する不用意なスペースを削除する「データトリミング」、外れ値などデータの基本統計量に大きな影響を及ぼすレコードを削除する「異常値除去」などが挙げられます。
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データ収集プロセス・データ加工プロセスの自動化:
ETLツールなどを導入し、データの更新頻度を高めるとともに、手作業の介入を減らすことで、より一貫性のあるデータが得られます。
2.2 特徴量エンジニアリングの検討
- 新しい特徴量の作成:
例えば、平均、中央値、分散、最大値・最小値などの統計量を算出し、特徴量として追加することや、移動平均・周期性を特徴量化することや、比率などの組み合わせ特徴量の生成などが挙げられます。
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特徴量のスケーリング:
データのスケールを統一することで、モデルの学習が安定する。例えば、データの分布が歪んでいる場合に対数変換する処理や、標準化(平均0、分散1への変換等)、正規化(Min-Max Scaling等)などが挙げられます。
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カテゴリ変数のエンコーディング:カテゴリデータを0/1のバイナリ変数に変換するOne-Hotエンコーディング(例:地域 = [東京, 大阪, 名古屋] → [1, 0, 0])や、カテゴリを整数値に変換するラベルエンコーディング(例:東京=0, 大阪=1, 名古屋=2)を活用し、適切な形式に変換する手法があります。
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特徴量選択:
相関が高すぎる特徴量(多重共線性があるもの)を削除する相関分析や、特徴量のランダム化を行いモデルに影響を与える重要度を評価するシャドウ特徴量の手法などが挙げられます。
3. モデルの評価と改善のための手法
モデルの精度向上には、適切な評価とチューニングが必要です。
3.1 クロスバリデーションによるモデル評価
データをトレーニング用とテスト用に分割することで、モデルの汎用性を評価できます。特に「k分割交差検証(k-fold cross-validation)」を活用すると、モデルの性能をより正確に評価可能です。
3.2 ハイパーパラメータの最適化
モデルの学習パラメータ(例 :学習率、決定木の深さなど)を最適化することで、精度が向上します。
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グリッドサーチ:
すべての組み合わせを試す方法。
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ベイズ最適化:
効率的に最適なパラメータを探索する手法。
3.3 アンサンブル学習の活用
複数のモデルを組み合わせることで、単一のモデルよりも精度の高い予測が可能になります。
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ランダムフォレスト:
複数の決定木を統合したモデル。
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勾配ブースティング:
XGBoostやLightGBMなど、精度向上に特化した手法。
4. 再検討時に考慮すべきポイント
モデルの精度が達成されない場合、単にアルゴリズムを変更するのではなく、ビジネス目標との整合性も再評価する必要があります。
4.1 ビジネス目標との整合性確認
- KPIの見直し:
モデルの予測がビジネスにどのように貢献しているかを再評価します。
- 活用シナリオの整理:
どの業務プロセスで何を予測するAIが最適かを検討します。
4.2 モデルの解釈性と透明性の確保
- 重要度やSHAP値の活用:
どの変数が予測に影響しているかを可視化します。
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説明可能なAI(XAI)の活用:
モデルの判断基準が明確化されることで、ビジネスユーザーの理解しやすさも考慮出来るようになります。
5. まとめ:データ品質とAIモデルの継続的改善がDX成功の鍵
AI予測モデルの精度を向上させるには、データの品質向上、適切なモデル評価、継続的な改善が不可欠です。アイ・ティ・イノベーションでは、上記以外にも様々な方法でお客様のAIモデルの継続的改善を伴走してサポートしております。
本記事で紹介した手法を活用することで、AIの導入効果を最大化し、アイ・ティ・イノベーションとともにDX推進を加速させましょう!!
(参考)AutoMLの活用
AutoML(自動機械学習)で、データサイエンティストのような専門的知識がなくても、最適なモデル選定が可能になります。企業のAI導入をサポートするAutoML機能の活用例をご参照下さい。