今回は、ITプロジェクトにおける「勘違い・ボタンの掛け違い」をテーマに書いてみたい。
ITに関する勘違い・ボタンの掛け違いが原因となり不幸になった数多くの事例を私は経験している。
第3回ブログで私が強調したのは「自律」である。しかし一見、自律しているかのような行動をしている組織でも、本質を考えなければ危ない状況になる場合がある。“はっきりとした考え”が個人・チームレベルで共有されている場合にのみ、組織が一体となり目標に向かって進んで行けるのだ。自律した組織では、個人・チーム・組織全体、どこで切り取っても以下のようなことが実現される。
・自ら決断や判断ができる
・周りに影響されず流されない
・責任感がある
しかしこれで安心というわけではない。自律には前提条件があるのだ。“はっきりとした考え”は利己的なものではなく、正しく機能するものでなくてはならない。特にITの世界では、極端な勘違いが生ずる場合がある。
それを防ぐためには、ITに関する組織のアプローチを間違わないことである。すでに始まってしまったプロジェクトは、往々にして後戻りができない状態になっている。プロジェクトは多くの場合、初動の段階で合意した方針や目的について、後続の段階でうまくいかなくなったとしても容易に軌道修正を行うことはできない。終盤で崩壊するプロジェクトの多くの原因は、「勘違い」や「ボタンの掛け違い」が必ず存在する。それでは、その例をいくつか列挙してみよう。
×自社の改革はコンサルティング会社に任せよう
⇒〇自社のことは自社で主体的に検討し、助言や専門的な見解をコンサルタントに求める
×自社の業務改革は得意なベンダーに任せよう
⇒〇業務改革は自社で方針・目標を検討し、見える化やモデル化は得意なベンダーに手伝ってもらう
×ITプロジェクトの推進責任はITベンダーが担う
⇒〇プロジェクトの推進・責任の主体は自社に置き、PM業務のボリュームゾーンは経験のあるベンダーと一体となり進める
×ITプロジェクトの分析・設計はITベンダーが、プロなのだから行うはず
⇒〇分析は自社で主体的に行い、設計はベンダー主体で良いが、分析結果のレビューや決定は自社の責任とする
×今回のプロジェクトの要件は稼働中の既存システムと同等機能とする
⇒〇既存機能と同等は要件決定にあらず。業務要件・システム要件の決定は自社で行う
×自社のDXはITベンダーに任せれば提供してくれる筈
⇒〇DX要件・目標・方針は自社の責任であり、後続の設計開発はベンダー主体でも良いが、受け入れ基準は自社の責任である
×そろそろ他社に負けないようマーケティング・オートメーションを導入したい
⇒〇マーケティング・オートメーション導入前に、自社のマーケティング戦略策定を自社の責任で行う。ソフトウェアはツールに過ぎない。
×他社に先を越されないようにAIを導入するため専門会社に相談しよう
⇒〇自社の事業戦略明確化は自社の責任、ベンダーにはその要件に関してAIをどのように活用できるかを検討してもらう
これらは、世の中で横行している典型的な勘違いやボタンの掛け違いであり、かなりの数が発生していると思われる。
仮にこれらの考えを自社で強く信じてプロジェクトを推進した場合には、取り返しのつかない事態になるだろう。
どの例もはっきりとした考えになり得るが、第一人称で語っているものではない。自社の主体性より他社への依存と責任逃れをする考えに過ぎない。
多くのプロジェクト責任者にとって新規性のある挑戦的なプロジェクトは、ITの専門性が必要になることから困難に映るだろう。特に技術的な経験や視野に乏しい責任者(このケースは、かなり多い)は、専門性のある他社を頼りにしたくなるし、することになる。
他社の立場からすると専門性に関する支援・助言・肉付けは可能であるが、何を目的に何を実現したいのか、また、実現することで何をどう変えるのかについて答えられるはずもなく困惑するだけである。
ITプロジェクトは、自社を変革するためのものであり、主体は自社であるという軸は変えられないものである。
何を目的に何を変えたいのか、そして、変えた結果「どう変化することを期待しているのか」について自らとことん考え、推進するのは、自社の使命である。プロジェクトの要件は最初から100%である必要な無い。はっきりさせる努力から始め、専門家のいるベンダー、コンサルタントの助言や支援を引き出すのだ。何度かやり取りするうちに、今まで見えていなかったものが見えてくるだろう。
プロジェクト推進の主体・責任の所在さえ明らかになっていれば、プロジェクトに参加する専門家が協力し、何をすべきかが明らかになる。
要は、本当の自律を自己都合ですり替えてはならないということだ。
今一度、IT組織の責任管理体制の点検を行って欲しい。
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