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【AI / Analytics カンファレンス4】開催レポート3:AIでリアルタイムに事故を検知するサービスの開発事例


セミナーレポート[3]

第4回AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』

2022年7月27日(水)に、第4回 AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入 失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』をWEBセミナー形式で開催し、AIの活用に関心のある多くのお客様にご参加いただきました。
本カンファレンスについて、3回に分けてご報告いたします。3回目は自動車の事故検知サービスを開発したお客様の事例講演と、パネルディスカッションのダイジェストをお届けします。

事例紹介

SCSKにおけるAIソリューションの構築、及び本番サービス導入に向けた取組みについて

SCSK株式会社
モビリティ事業グループ モビリティサービス事業開発センター 事業開発部 部長​ 畑 宏和 氏

SCSK株式会社は、In-Car領域の知見と、AI・クラウド・IoTなどのIT技術を生かして、Out-Car領域における新しいビジネス創出・構築・展開に取り組んでいます。取り組みの一つとして、損害保険会社と連携し、AIを活用した事故検知サービスを開発しました。

本講演では、AI技術者を育成するためのソリューション構築、事故検知サービス開発事例のポイント、AIプロジェクトをPoCで終わらせないために考慮すべき点についてご紹介します。

AI技術者育成のために独自でAIソリューションを構築

AIを活用したサービスを開発するためにまず取り組んだのが、AI(Deep Learning)技術者の育成でした。
AI技術者にとって、顧客ニーズに合わせたモデルを構築する技術の習得は不可欠です。しかし、全ての技術者が複数の論文を解析してモデルを構築するのは、多大な労力がかかります。そこで、ニーズに適した技術を論文から複数選択し、独自のアルゴリズムでチューニングしたAI構築ツールキットを開発しました。それが「SNN(SCSK Neural Network toolkit)」です。
SNNによって、一定の技術を持っている技術者なら容易にモデルを作成できるようになり、品質の安定化と効率化が実現しました。

高度な事故対応サービスを支える事故検知サービスの開発事例

損害保険会社は、保険契約者に対してより高度な事故対応サービスの提供を目指しています。そのために必要な事故検知サービスを、損害保険会社と連携して確立しました。事故検知サービスは、衝撃時に車両から連携されるデータ(加速度の波形)をAIが分析し、リアルタイムで事故/非事故を判定する仕組みです。事故を検知した場合のみ損害保険会社のオペレーターに通知されるので、ドライバーへの対応を的確に行えます。

開発に当たり、損害保険会社から提供された加速度のデータを確認したところ、事故発生時は衝撃の瞬間だけでなく、その前後の波形にも事故の特徴があるのではないかと考えました。そこで、衝撃前、衝撃中心、衝撃後の波形の変化をSNNでAIモデルに学習・分析させました。

AIモデル構築で苦労した点は、加速度データを学習させるだけでは精度が向上しなかったことです。原因は、車載器によって検知される加速度データの特徴が異なっているためでした。特殊な加工(※特許取得)を行うことでデータ仕様の差異を吸収する方法を開発し、複数の車載器に対応可能な事故検知サービスを実現しました。

AI開発をPoCで終わらせずに事業化するためのポイント

AI開発プロジェクトは、PoC(実証実験)まで進めることができても、本番化に至らないケースが多いのが現状です。本番化に結びつけるためには、以下の3つのポイントを意識して、お客様と目線を合わせながら進めていきましょう。

・Purpose:目指す姿を共有する
・Outcome:目標値に到達すれば本番化することをPoC開始前に合意形成する
・Solution:Outcomeを実現するための人材育成やソリューション構築を行う

【畑 宏和 氏 プロフィール】

1998年CSK(現SCSK)に入社。製造業向けの業務システムの開発を担当後、2010年頃より金融部門に異動し、生損保業界を中心としたアカウントビジネスの推進を担う。​2021年よりモビリティ事業領域に異動し現組織を立ち上げ、モビリティの新サービスの創出の検討/構築を担当。​業務システムの構築からサーバ運用、スマホアプリケーション開発、AIを活用したソリューションの構築等、多岐にわたりITサービスの構築を行っている。​​

パネルディスカッション

5社+ファシリテーターを加えてのパネルディスカッション

ファシリテーター 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 梅木 秀雄 氏
Global Walkers株式会社 髙﨑 裕喜 氏、樋口 未来 氏
株式会社システム情報 足立 雅春 氏
エスディーテック株式会社 鈴木 啓高 氏
SCSK株式会社 畑 宏和 氏
株式会社アイ・ティ・イノベーション 藪 彰文​​​​​

講演者6名に加えて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の梅木秀雄氏をファシリテーターとしてお迎えし、「地域、自治体、住民が関わるサービスへのAI社会実装」というテーマでパネルディスカッションを行いました。

AI社会実装における課題について、以下の3つの観点に基づいて議論が交わされました。
・実現可能性 構築における課題、データの課題、推論・予測精度の課題
・利用可能性 ユーザー視点での課題、説明可能性、安心安全の確保
・持続可能性 コスト、運営主体、エコシステム、バリューチェーン

主要なトピックについてご紹介します。

AI社会実装において課題に感じていること

畑氏:自治体向けのサービス開発における課題は、日本の北から南までさまざまな地域があるため、地域によって状況や課題が異なっていることです。地域による差を一つのサービスに集約するのは難易度が高く、事業化できずにPoCで終わってしまったケースもありました。

鈴木氏:ユーザーにとって価値のあるAIを構築するには、実際のユーザーに使ってもらって結果を観察し、改善していくサイクルを数多く繰り返すことが重要です。ところが、自治体のプロジェクトでは1回作って評価したら終わりで、改善は来年度以降の予算という話になってしまうことが多いです。利用時品質を高めるために必要なプロセスが、自治体にはまだ浸透していないと感じています。

足立氏:日本はオープンデータ化が遅れていると実感しています。現状では、防災減災支援システムで利用しているデータはほとんどが有料です。オープンデータ化が進み、時系列や粒度の細かいデータが無償で利用できるようになると、今よりもっと住民のニーズに合わせたAIシステムを作れるようになるのではないかと考えています。

髙﨑氏:企業実装の場合はユーザーの現状を把握しやすいのですが、社会実装では把握しにくいという課題があります。「人間は思うように動かない」ことを前提に、心理学やコミュニケーションデザインの観点も取り入れて、ユーザーの心理を逆算してシステムを開発していくことが重要です。そのために、アジャイル開発で継続的にPDCAサイクルを回していくモデルを構築したいと考えているのですが、自治体のプロジェクトは4月から3月までの期間で終わってしまう点を課題に感じています。

樋口氏:現在は、AIを使ったシステムは細分化されている状態です。例えば、自治体が提供しているサービスを利用するにはそれぞれのアカウントを作成しなければいけないため、その煩わしさを上回るメリットがなければ普及しません。一つの企業だけで対応してもユーザーの利便性を向上させるのは難しいので、いかにして、複数の企業が横断的にAIシステム構築を進めていくかが大きな課題だと考えています。

藪氏:AI開発は、従来のIT開発の延長線上でできるものばかりではありません。アルゴリズムやデータに注目するだけではなく、業務上の用途をしっかり見定めてから開発を進めていくべきです。何をAIに任せるのか、AIとどのように共存していくのかを考えることが、今後の社会実装においては非常に重要だと捉えています。

AI社会実装に取り組む自治体や企業が今後強化すべきこと、実行すべきこと

藪氏:AIはブラックボックスでわかりにくいと言われることもありますが、可読性を高めすぎるとロジックを解析されてしまうので、セキュリティ面としては問題です。開発をスタートする際には、可読性をどのくらい担保するかについても決めておく必要があります。

髙﨑氏:社会実装されるAIとは、テクノロジーではなく社会概念だと考えています。エンドユーザーにどう寄り添って、社会概念であるAIを社会実装していくかという点が大きなキーワードになります。

樋口氏:日本国内だけでなく海外でもAIのビジネスを展開していくためには、共通で使えるデータセットの整備を推進していくべきだと考えています。

足立氏:自治体向けのサービスであれば、コストの高いAI人材だけに頼るのではなく、市民データサイエンティストの協力を得ることも重要です。教育機関との連携も検討すべきではないでしょうか。例えば、都内の中学校では課題探求型の授業として、データ分析プロセスや数理解析などを学習しています。今後は高度なデータリテラシーを持った人材がどんどん育ってくるでしょう。そうした若者を巻き込んでいく仕組み作りも必要になると考えています。

鈴木氏:AI開発のプロジェクトは、リリースした時点がスタート地点です。それを見越して予算を組まないと、本当に有用なAIを生み出すことはできないという感覚を持ちましょう。

畑氏:AIの社会実装とは、現状に課題があり、それを解決したいからこそ行うことです。外部から提案するよりも、自治体自身が「will(意志)」を持ち、現状の課題を見つけ出し、「あるべき姿」に向けてどうしたいかを考えることが重要です。

【梅木 秀雄 氏プロフィール】

■三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 テクノロジー・エバンジェリスト兼コンサルティング事業本部ココロミルラボ室長
■株式会社東芝 研究開発センターにて、ニューラルネットワーク、画像認識、知識処理の技術開発
■東芝デジタルソリューションズ株式会社 技師長(コミュニケーションAI領域)
■2018年より現職

まとめ

本カンファレンスは「人々の生活を支え、利便化する技術としてのAI」というテーマで開催しました。 AIを活用して社会のあり方を根本から変えていくためには、技術的な課題を解決するだけではなく、関係者の意識改革をどう進めていくかが課題となることを認識していただけたのではないでしょうか。

社会のスマート化が進むと、扱うデータ量が急増します。大量で多種多様なデータをどうやって処理するかを考える際に、解決策の一つとなるのがAIです。今回のカンファレンスには、社会全体のスマート化だけでなく、企業内でのAI活用においても参考になるポイントが多く含まれていました。ぜひご活用いただければ幸いです。

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