前回のブログでは普段の業務の課題解決を行うための関係者間の共通言語としてのマネジメントシステム(MS)とエンタープライズアーキテクチャ(EA)について紹介させていただきました。今回からMSの中でも代表的なISO9001を例に取りながら具体的な中身について書いていきます。
さて本題。今回はビジネスプロセスについてです。目次はこちら。
1. プロセスアプローチ
ISO9001を取得されている企業にお勤めの方はご存知かと思いますが、ISO9001では「プロセスアプローチ」が要求事項として記載されています。中身に入る前にまず用語の定義です。「プロセス」はISO9000では以下のように定義されています。
ポイントは「意図した結果」です。この意図した結果とは、アウトプットと呼ばれ、具体的には製品、サービスのことを言います。図にすると以下のような形です。
プロセスの中にある活動の連鎖は「業務フロー」と呼ばれます。たまにこの業務フローとプロセスが混同されるケースをお見掛けしますが、上図のとおり、フローはプロセスの一部となります。
続いてプロセスアプローチ。ISO9001 箇条4.4.1に以下のように記載されています。
上記の文字表現を分かりやすく表現したものが次に説明するタートルチャートです。
2. タートルチャート
百聞は一見に如かずということで実物を出します。
よく業務の中で「業務をまわす」、「プロセスをまわす」といった言葉を使うことがあると思いますが、タートルチャートはプロセスをまわすために必要な構成要素を端的に表したものになります。なお、タートルチャートの名前の由来は上記の図が亀の形に似ているからとのことです。
少し脱線しますが、上記のような構成図は形や中身は異なるものの、品質管理の4M (Man, Machine, Method, Material) やPMBOK(第6版)のITTO (Input, Technique & Tool, Output)、DMBOK(第2版)にも同じようなものが存在します。
個々の要素の解説は専門書にお任せしますが、ここで申し上げたいのはこれら必要な要素が揃っていなければ意図した結果(アウトプット)が得られない、もしくは得られたとしても再現可能な状態ではないということです。
コンサルティングの現場では現状の業務を理解するために手順書や用語集を拝見させていただくことがありますが、比較的記載が少ないと感じることが多いのは「人的資源」と「評価指標」の部分です。これらについては今後のブログの中で少し深堀りしたいと思います。
3. ビジネスアーキテクチャとの関係
ビジネスアーキテクチャ(BA)とは、端的に言うとビジネスを構成する戦略、モデル、プロセスなどの要素やそれらの関係性、構造のことを指します。今回はこのうちプロセスに着目します。
企業全体を1つのプロセスと見た場合、ISO9001は以下のように大きく3つのプロセスから構成されます。
この抽象的なプロセスを製造業を例にとって少し具体的なプロセスに落とすと以下のような感じになります。
この例はなんとなく理解できる方も多いと思いますが、実際にこのような形で企業全体のプロセスを俯瞰的に可視化できている企業は少ないのではないでしょうか。先ほども述べたようにプロセスアプローチはISO9001の要求事項なので、ISO9001を取得している企業や適用部署はこのような考え方でプロセスを把握する必要があります。また独自のMSで運用している企業もプロセスや業務フローといった概念はあると思うので、要求事項かどうかは別として必要な考え方であることは同じだと思います。
要するにBAというのはMSの一部であるということです。
EA自体が「ITシステム」の文脈で語られる?ことが多いような気もするのでBAもどちらかというとIT寄りな話に聞こえるかもしれませんが、MSの一部と考えると全社的な取組みとして捉える必要があるとお感じいただけるのではないでしょうか。
ただ実際にMSの再構築や全社的なプロセスの可視化を行うにあたっては「誰が音頭取るの?」というのが課題になってきますが、ここは経営者の英断が必要なところです。
私自身、前職でMS(ISO13485)の再構築プロジェクトを起こしたときも事前にいろいろ準備はしたものの、最後の最後は「殿!ご決断を!」といった感じでトップに意思決定を催促しました。やはり会社のトップが決断するとヒト・モノ・お金の動きが各段に違います、というかトップの意思決定がなければMSの再構築のようなプロジェクトを推進するのはムリです。だからといって「ご英断」を待つだけではなく、事前にできることは粛々と実行することも大切なことだと思います。私の場合、2~3年粛々と地味な活動を行う中でなかなか進まないときはやさぐれそうになりましたが、最後にトップが決断してくれたのが救いでしたね(笑)。
4. まとめ
今回の内容を3行でまとめると以下になります。
インターネット上にあるISO形骸化の記事および私の肌感覚からすると、正直、プロセス定義ができていない企業も多いと思われます。その結果、「属人化」「ブラックボックス化」「人材不足」「品質低下」などの起きて欲しくない事象が起きていると思われます。プロセスをタートルチャートのような形で整理することで、現状把握や現状分析を各要素ごとに行うことができ、論点を絞った改善活動ができるようになるので、まずは試しに自部署のプロセスをタートルチャートで表現してみてはいかがでしょうか。場合によっては不都合な真実が見えてくると思います(苦笑)。
前回に引き続きISO9001の解説が多くなってしまいましたが、今後のブログを書く上でプロセスアプローチは非常に大事な考え方なので書かせていただきました。
次回からはMSを運用する上で押さえるべきポイントを具体的に書いていこうと思いますので引き続きよろしくお願いします。
タイトル (予定) | 内容 (EAとの関係性の解説) | |
第1回 | MSとEAを共通言語にしよう! | MSとEAの関係性 |
第2回 (今回) |
ビジネスプロセスを見える化しよう! | ISO 9001 序文 プロセスアプローチ |
第3回 (次回) |
メタデータを整備しよう! | ISO 9001 3章 用語及び定義 |
第4回 | ビジネスニーズをまとめよう! | ISO 9001 4章 組織の状況 |
第5回 | ロードマップを整備しよう! | ISO 9001 6章 計画 |
第6回 | 人財を育てよう! | ISO 9001 7章 支援 |
第7回 | 積極的に運用しよう! | ISO 9001 8章 運用 |
第8回 | 改善ポイントを見つけよう! | ISO 9001 9章 パフォーマンス評価 |
第9回 | 少しずつ良くしよう! | ISO 9001 10章 改善 |
ご一読いただきありがとうございました!