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ビジネスプロセスを見える化しよう! ~ BAとMSの関係 ~


 前回のブログでは普段の業務の課題解決を行うための関係者間の共通言語としてのマネジメントシステム(MS)とエンタープライズアーキテクチャ(EA)について紹介させていただきました。今回からMSの中でも代表的なISO9001を例に取りながら具体的な中身について書いていきます。

 さて本題。今回はビジネスプロセスについてです。目次はこちら。

1. プロセスアプローチ

 ISO9001を取得されている企業にお勤めの方はご存知かと思いますが、ISO9001では「プロセスアプローチ」が要求事項として記載されています。中身に入る前にまず用語の定義です。「プロセス」はISO9000では以下のように定義されています。

インプットを使用して意図した結果を生み出す,相互に関連する又は相互に作用する一連の活動 (ISO 9000:2015, 3.4.1 プロセス)

 

 ポイントは「意図した結果」です。この意図した結果とは、アウトプットと呼ばれ、具体的には製品、サービスのことを言います。図にすると以下のような形です。


プロセス
図1 プロセス (クリックして拡大)

 
 プロセスの中にある活動の連鎖は「業務フロー」と呼ばれます。たまにこの業務フローとプロセスが混同されるケースをお見掛けしますが、上図のとおり、フローはプロセスの一部となります。

 続いてプロセスアプローチ。ISO9001 箇条4.4.1に以下のように記載されています。

  1. 組織は、この規格の要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、かつ、継続的に改善しなければならない。
  2. 組織は、品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。
    1. これらのプロセスに必要なインプット、及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
    2. これらのプロセスの順序及び相互作用を明確にする。
    3. これらのプロセスの効果的な運用及び管理を確実にするために必要な判断基準及び方法(監視,測定及び関連するパフォーマンス指標を含む。)を決定し、適用する。
    4. これらのプロセスに必要な資源を明確にし、及びそれが利用できることを確実にする。
    5. これらのプロセスに関する責任及び権限を割り当てる。
    6. 6.1の要求事項に従って決定したとおりにリスク及び機会に取り組む。
    7. これらのプロセスを評価し、これらのプロセスの意図した結果の達成を確実にするために必要な変更を実施する。
    8. これらのプロセス及び品質マネジメントシステムを改善する。

 

 上記の文字表現を分かりやすく表現したものが次に説明するタートルチャートです。

2. タートルチャート

 百聞は一見に如かずということで実物を出します。



図2 タートルチャート (クリックして拡大)

 よく業務の中で「業務をまわす」、「プロセスをまわす」といった言葉を使うことがあると思いますが、タートルチャートはプロセスをまわすために必要な構成要素を端的に表したものになります。なお、タートルチャートの名前の由来は上記の図が亀の形に似ているからとのことです。

 少し脱線しますが、上記のような構成図は形や中身は異なるものの、品質管理の4M (Man, Machine, Method, Material) やPMBOK(第6版)のITTO (Input, Technique & Tool, Output)DMBOK(第2版)にも同じようなものが存在します。

 個々の要素の解説は専門書にお任せしますが、ここで申し上げたいのはこれら必要な要素が揃っていなければ意図した結果(アウトプット)が得られない、もしくは得られたとしても再現可能な状態ではないということです。

 コンサルティングの現場では現状の業務を理解するために手順書や用語集を拝見させていただくことがありますが、比較的記載が少ないと感じることが多いのは「人的資源」と「評価指標」の部分です。これらについては今後のブログの中で少し深堀りしたいと思います。

3. ビジネスアーキテクチャとの関係

 ビジネスアーキテクチャ(BA)とは、端的に言うとビジネスを構成する戦略、モデル、プロセスなどの要素やそれらの関係性、構造のことを指します。今回はこのうちプロセスに着目します。



図3 EA概念図 (クリックして拡大)

 

 企業全体を1つのプロセスと見た場合、ISO9001は以下のように大きく3つのプロセスから構成されます。



図4 品質マネジメントシステム (QMS) のプロセスマップの例 (クリックして拡大)

 
 この抽象的なプロセスを製造業を例にとって少し具体的なプロセスに落とすと以下のような感じになります。



図5 製造業のおけるプロセスマップの例 (クリックして拡大)

 
 この例はなんとなく理解できる方も多いと思いますが、実際にこのような形で企業全体のプロセスを俯瞰的に可視化できている企業は少ないのではないでしょうか。先ほども述べたようにプロセスアプローチはISO9001の要求事項なので、ISO9001を取得している企業や適用部署はこのような考え方でプロセスを把握する必要があります。また独自のMSで運用している企業もプロセスや業務フローといった概念はあると思うので、要求事項かどうかは別として必要な考え方であることは同じだと思います。

 要するにBAというのはMSの一部であるということです。

 EA自体が「ITシステム」の文脈で語られる?ことが多いような気もするのでBAもどちらかというとIT寄りな話に聞こえるかもしれませんが、MSの一部と考えると全社的な取組みとして捉える必要があるとお感じいただけるのではないでしょうか。

 ただ実際にMSの再構築や全社的なプロセスの可視化を行うにあたっては「誰が音頭取るの?」というのが課題になってきますが、ここは経営者の英断が必要なところです。

 私自身、前職でMS(ISO13485)の再構築プロジェクトを起こしたときも事前にいろいろ準備はしたものの、最後の最後は「殿!ご決断を!」といった感じでトップに意思決定を催促しました。やはり会社のトップが決断するとヒト・モノ・お金の動きが各段に違います、というかトップの意思決定がなければMSの再構築のようなプロジェクトを推進するのはムリです。だからといって「ご英断」を待つだけではなく、事前にできることは粛々と実行することも大切なことだと思います。私の場合、2~3年粛々と地味な活動を行う中でなかなか進まないときはやさぐれそうになりましたが、最後にトップが決断してくれたのが救いでしたね(笑)。

4. まとめ

 今回の内容を3行でまとめると以下になります。

  • プロセスの構成要素はタートルチャートで表現!
  • BAはMSの一部!
  • BAの推進には企業トップの英断が必要! (とはいえできるところは粛々と実行!)

 
 インターネット上にあるISO形骸化の記事および私の肌感覚からすると、正直、プロセス定義ができていない企業も多いと思われます。その結果、「属人化」「ブラックボックス化」「人材不足」「品質低下」などの起きて欲しくない事象が起きていると思われます。プロセスをタートルチャートのような形で整理することで、現状把握や現状分析を各要素ごとに行うことができ、論点を絞った改善活動ができるようになるので、まずは試しに自部署のプロセスをタートルチャートで表現してみてはいかがでしょうか。場合によっては不都合な真実が見えてくると思います(苦笑)。
 
 前回に引き続きISO9001の解説が多くなってしまいましたが、今後のブログを書く上でプロセスアプローチは非常に大事な考え方なので書かせていただきました。

 次回からはMSを運用する上で押さえるべきポイントを具体的に書いていこうと思いますので引き続きよろしくお願いします。

タイトル (予定) 内容 (EAとの関係性の解説)
第1回 MSとEAを共通言語にしよう! MSとEAの関係性
第2回
(今回)
ビジネスプロセスを見える化しよう! ISO 9001 序文 プロセスアプローチ
第3回
(次回)
メタデータを整備しよう! ISO 9001 3章 用語及び定義
第4回 ビジネスニーズをまとめよう! ISO 9001 4章 組織の状況
第5回 ロードマップを整備しよう! ISO 9001 6章 計画
第6回 人財を育てよう! ISO 9001 7章 支援
第7回 積極的に運用しよう! ISO 9001 8章 運用
第8回 改善ポイントを見つけよう! ISO 9001 9章 パフォーマンス評価
第9回 少しずつ良くしよう! ISO 9001 10章 改善

 ご一読いただきありがとうございました!

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Profileプロフィール

井﨑 学
分析・計測機器メーカーのIT部門にて18年間、BPR、システム企画、EA、マネジメントシステムの導入を推進。 その後、アイ・ティ・イノベーションにてデータ中心アプローチによる上流コンサルティングに従事。 Iasa日本支部会員、DAMA日本支部会員、PMI日本支部会員。 趣味はジョギングと読書。好きな飲み物はコーヒーとビール。

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