セミナーレポート[3]
- セミナーレポート[1]
- セミナーレポート[2]
- セミナーレポート[3]
第3回AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』
2022年2月15日(火)に、第3回 AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入 失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』をWEBセミナー形式で開催しました。
本カンファレンスについて、3回に分けてご報告いたします。3回目はMI(マテリアルズ・インフォマティクス)に取り組んでいるお客様の事例講演と、パネルディスカッションのダイジェストをお届けします。
カンファレンス概要
開催日程
2021年2月15日(火)14:00~17:35 WEBセミナー(LIVE配信)
主催:株式会社アイ・ティ・イノベーション
共催:エスディーテック株式会社、Global Walkers株式会社、株式会社システム情報
参加対象
・ユーザー企業のDX推進部門の方、DX推進に関わるご担当の方、情報システム部門の方、研究部門の方・新規事業開発に携わる方
・SI事業者のDX推進に関連する部門の方
参加者数
87名
講演概要
お客様事例紹介
デジタル技術を活用した素材開発
旭化成株式会社
デジタル共創本部 インフォマティクス推進センター 先端情報技術部 部長 出羽 達也氏
MI(マテリアルズ・インフォマティクス)とは、AIや機械学習などの技術を材料開発やプロセス開発に活用することです。数多くの素材開発を手掛ける旭化成株式会社では、DXの一環としてMIに取り組んでいます。
本講演では、MIで素材開発プロセスを革新した事例と、MIを支えるデータ基盤の重要性、今後を見据えたMI人材育成の取り組みについてご紹介します。
MIを活用した新素材開発の事例と、得られた効果
新素材開発では、膨大な種類の原料から何を選び、どのように混ぜ合わせるかが重要です。従来は専門家が知見に基づいた仮説を立てて実験を行い、最適な組成を見つけていました。そこにMIによる予測を取り入れて、実験や計算の回数を減らし、素材開発のスピードアップを目指しました。結果として、従来の開発手法で発見したものとほぼ同じ組成をMIが発見することができました。MIを活用することで、当初の期待通りに素材開発の期間を短縮し、コスト削減も実現できました。今後は、属人化しているノウハウやスキルをMIによって共有し、技術の継承を進められると期待しています。さらに、より迅速に顧客からの要求に対応できるようになるので、ビジネス機会の確実な獲得にもつながると考えています。
MIを支えるデータ基盤の重要性
MIには社内の実験データを利用するので、データ整備は非常に重要な課題でした。過去の実験データは紙で保管されているものも多かったため、AI-OCRで紙資料の読み取りを自動化し、データ収集の効率を高めました。また、実験に使用する機器の測定結果を自動的にデータ基盤に連携できるようにしました。
こうして収集したデータの価値を最大限に引き出すために、前処理や辞書の整備にも力を入れています。さまざまなデジタル技術を組み合わせてデータを収集・蓄積し、ビジネスに活用できる仕組みを構築していこうとしています。
現場でMIを活用できる人材の育成
素材開発の現場でMIを活用するためには、研究開発メンバーにMIを理解してもらうことが欠かせません。そのため、計画的にMI人材の育成に取り組んでいます。
学習はプログラミングと機械学習の入門編から始めます。レベルが上がると、機械学習モデルを開発して現場で実践できるようになることを目指します。応用編では実際の現場での課題に沿ったオリジナル教材を使用し、学んだことをすぐに生かせるようにしているのが特徴です。
MIの普及を促進するために、社内クラウド上にMI実行環境を構築しました。自分で環境を構築する必要がなく、PCのスペックに左右されずに利用できる環境を整えたことで、スムーズな社内展開を実現できました。
【出羽 達也氏 プロフィール】
株式会社東芝研究開発センターにて、知識処理の研究開発に従事。2020年より現職。
パネルディスカッション
5社+ファシリテーターを加えてのパネルディスカッション
ファシリテーター 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 梅木 秀雄 氏
エスディーテック株式会社 鈴木 啓高 氏
株式会社システム情報 松島 弘毅 氏
Global Walkers株式会社 樋口 未来 氏
旭化成株式会社 出羽 達也 氏
株式会社アイ・ティ・イノベーション 伊藤 成顕
講演者5名に加えて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の梅木秀雄氏をファシリテーターとしてお迎えし、パネルディスカッションを行いました。主要なトピックについてご紹介します。
AI開発におけるデータ収集や整備で工夫している点、苦労している点
出羽氏:MI開発に当たり、あらゆる手を尽くして、役に立ちそうな実験データを集めました。実験データの記録形式が人によってバラバラだったので、機械学習に使える形にデータを整えるのには苦労しました。それでも過去データの収集に重点を置いたのは、他では手に入らない貴重なものだからです。新たに実験を行うより少ないコストで済むこともわかりました。
鈴木氏:「ユーザーの主観的な感じ方」をどうやってデータ化するかは答えが出ていないので、いつも試行錯誤しながら進めています。現状の課題は、個人情報に関する規制強化への対応です。AIと人間とのインタラクションを考察するためのデータには個人情報が含まれていることが多いため、厳密な対応が求められます。集めたデータを全て人力でチェックして個人情報を削除しなくてはならないので、多くの時間とコストがかかります。
松島氏:自然言語処理AIでは、大規模に集められた事前学習済みデータを利用しても、ある程度の精度は実現できるといわれています。しかし、そうした事前学習済みデータを実際に使えるかどうかは、タスクの種類や目的によって異なります。目的を達成するために必要なデータが不足している場合は、時間をかけてでも自社でデータを作成しなければなりません。
伊藤氏:AI開発を行う上で、必要なデータの種類を検討するには、AIで代替する人間の作業を分析しなければいけません。人間の作業は、定量的には求められない定性的な部分が多く、決まったフレームワークでの分析が非常に困難です。そこで、徹底的なヒアリングを通して、この辺りを深く考えていきます。さらに、必要なデータの種類を決めた上で、自社で取得すべきデータと、SNSなどから誰でも取得可能なデータに分類します。例えば、自社で取得すべきデータとしては、特定の業界でしか取得できないような、サンプル数の少ないデータなどが挙げられます。これらの見極めは、モデルと併せて考慮する必要があり、AI実用化をしていく上で注力すべきポイントであると考えられます。
樋口氏:データ収集を全て自社で行おうとするのではなく、すでに存在する大規模データを効果的に利用することが重要です。動画像認識のモデルでは、データが少ないと学習が進まないことがあります。その場合、汎用的な部分は大規模データを使って学習させておき、実用化に向けて必要なところに焦点を当てたデータを自社で作成・調整すればいいと考えています。
AIによる判断を現場での意思決定に活用するためのポイント
出羽氏:MIによる提案を素材開発の現場に伝えると、専門家としての知見と照らし合わせて検討されます。価値のある組成だと判断されたものは、実験へと進めてもらえました。MIに対して前向きに取り組んでくれる現場は多いです。素材開発の意思決定は重大な経営判断とは異なり、現場での判断が重視されるので、MIが受け入れられやすかったと考えています。
樋口氏:AIは完璧な解答を示すものというよりも、ユーザーの意思決定を手助けするものだと考えています。人間は無意識のうちに選択肢を狭めてしまうことがあるので、AIが可能性を提示すると選択肢が広がるのではないでしょうか。
伊藤氏:時系列予測AIを用いた意思決定における課題は、予測に注力しすぎて分析が不足してしまうことと、因果関係と相関関係を混同してしまいがちなことです。後者について、例えば「相関関係はあるけれど因果関係はない」という場合もあります。そのような疑似相関に注意しておかないと、意思決定で失敗する可能性があります。
松島氏:自然言語処理においては、ディープラーニングが何を根拠に結果を出力したのかが解明されれば、人間に判断材料を与えられると考えています。
鈴木氏:AIは手段であって目的ではありません。目的はユーザーの期待に応えること、あるいは期待を超えることなので、まずはユーザーの期待が何かをしっかり把握しておきましょう。その上で、AIを使い続けていくためにはユーザーの「納得感」が重要です。AI開発メンバーは精度向上だけを目指すのではなく、AIの判断をどうやってユーザーに伝えていくかを意識して取り組む必要があります。
【梅木 秀雄 氏プロフィール】
株式会社東芝 研究開発センターにて、ニューラルネットワーク、画像認識、知識処理の技術開発
研究開発センター 知識メディアラボラトリー室長 (2010-13)
東芝デジタルソリューションズ株式会社にて、AIソリューション製品の事業立案・事業化技師長(2017-)
2018年より現職