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【連載:IT哲学のススメ】その5 林が考えるIT哲学モデル 組織運営の考え方


今回は、IT哲学モデル・組織運営の考え方について具体的な解説をする。

企業の設立動機(夢や関心事)から、その企業の事業の方向性やシナリオが決まり、理念や行動指針が決定し、組織が創られる。そして企業のシナリオに沿って、組織が事業を実行し、同時に組織的学習がなされ、ノウハウが蓄積される。このようにして再現性のあるビジネスが生まれることが重要である。なぜ再現性が重要かといえば、強みの上に強みを築くことができるからだ。このような過程で漸進的に能力が向上した結果、理念や行動がしっかりとした哲学が根付く企業になる。

私は、IT哲学の実現は、こんなイメージであると前回までのブログで解説をしてきた。

創業時のビジネスに関する“夢や動機”から、ITビジネスのシナリオが複数生まれる。ビジネスシナリオは、その企業の創業の精神に基づくものでなければならないし、その企業の強み(得意分野、関心事と関係する)を生かすものでなければならない。

残念ながら日本のIT業界では、メジャーなIT事業者からの多重下請け構造が、長年に渡って続いたために、健全なIT企業の成長を妨げてきたといえる。
世界でも特殊なIT業界であるがゆえに、多くのIT企業の経営者は、夢やビジョンの実現よりも、大手の下請けになり、リスクを回避して、低価格で人材を派遣するビジネスを選択する傾向にある。ただ人を集めるだけで成り立ってしまう業界の構造が、変革や成長を妨げている。同時にIT企業の社員は、プロジェクト全体を俯瞰できる立場にはなく、長い期間にわたり部分的な仕事の範囲でしか実力を磨くことができなかった。

デジタルテクノロジーが、世の中にイノベーションや新たなビジネスの機会を生み出す道具だとするならば、我々は、根本的にIT産業の構造を見直し、改革をしなければならない。筆者は、この変革の推進者となると覚悟を決めているし、できる限りの行動をするつもりでいる。

図「ITビジネスモデル ― 組織運営の考え方 ―」を見てみよう。

創業者は、「関心・興味」からビジネスを出発させ、「企業理念」を定義する。そこから、大変な努力をして生み出されるのは、強みを生かした「ビジネスシナリオ」である。創業時の夢、関心・興味の延長線上にビジネスは、置かれるのである。

私は、今まで、多くの日本のIT企業とともに仕事をしてきた。この30年間に規模・売上を拡大させ、利益ともに大きくなった企業は多いが、創業時の“思い”や“哲学”を感じさせる企業は、非常に少ない。残念ながら、社員が生き生きとして、様々なアイデアに挑戦し続けるIT企業は少数派である。経営者自身の問題と業界構造に課題が大いにあると私は考えている。

IT企業にとって、「ビジネスシナリオ」は、重要要素の一つである。「ビジネスシナリオ」は、言い換えれば、その企業の事業を決定づける“戦略”そのものであり、このシナリオ作成が成功するかどうかが、企業浮沈のカギになるはずだが、“再現性があるシナリオ”に仕上がっている企業は、ほぼ無い。

わかりやすい例を、以下に示す。

・顧客変革とデジタルマーケティング
・製造業のIoTとアナリティクス導入
・ERP導入
・会計などの特定業務に特化したシステム開発導入

エンタプライズ・アーキテクチャのビジネス層、インフラ層に特化して、以下のようなシナリオもありだろう。

・基幹システム群を対象に次世代データモデル開発、移行設計
・マーケティング周りに絞ったクラウド環境の設計・導入
・ビッグデータ、AIを含む次世代のインフラ設計導入

どのIT企業でも、このシナリオの再現性に資源を集中すべきであるのに、本気で取り組んでいない。理由は、やり方を知らないのだ。

殆どの企業は、「ビジネスシナリオ」「ソリューション」「メソドロジー」の関係を明らかにし、ノウハウとして蓄積すべき内容を定義していない。

この3つの要素は、IT事業が成功するための重要要素であるが、ほとんどの企業は、保有するノウハウ、再利用できる要素をあいまいにしたままになっていて、“すごく、もったいない状況”である。
その企業の得意(強み)とするシナリオ、それを実現するためにメソドロジーをはっきりとさせ、それに関係した人材の役割を定義し、役割を実行するためのスキルを磨く。個人的にスキルアップすることも大切であるが、本当に大切なのは、組織としての能力(ケーパビリティと呼ぶ)の向上である。

企業が本当に“能力”を発揮できるように、経営者は、戦略を練り、行動しなければならない。

強みを生かした「ビジネスシナリオ」を作成し、ケーパビリティを持ち、再現性のあるビジネス構造を創り上げることこそが、経営者の仕事である。

ビジネスシナリオの再現力が増せば、品質・生産性が高まり、社員の待遇や企業の働く環境も改善できるようになる。再現力により成功確率が高まり、社員の自信も増す。熱意・やる気のある社員、活力のある社員も増えてくる。ビジネスシナリオのグッドサイクルが回り始める。

これが、私の描く、成功するIT企業のモデルである。

最後に、念を押そう。重要なキーワードは、ビジネスシナリオ、ソリューション、メソドロジー、ケーパビリティである。その中で、IT企業に最も欠けていて、最も重要なのが「メソドロジー(プロセスと言い換えてもよい)」であり、IT哲学の中心にある。

次回は、技術的な視点で、IT哲学モデル(その6)を、もう少し突っ込んで解説する。


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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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