間違いだらけのAI導入 失敗から生まれる目からウロコのAI活用
~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~
主 催:株式会社アイ・ティ・イノベーション
共 催:エスディーテック株式会社、Global Walkers株式会社、株式会社システム情報、東芝デジタルソリューションズ株式会社
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第2回AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』
2021年8月27日(金)に、第2回 AI / Analytics カンファレンス『間違いだらけのAI導入失敗から生まれる目からウロコのAI活用~AIの使い方次第で、DXの妄想スパイラルから抜け出せる~』をWEBセミナー形式で開催し、120名の方にご参加いただきました。
本カンファレンスについて、3回に分けてご報告いたします。3回目は共催者のAI-OCR開発・活用事例講演と、パネルディスカッションのダイジェストをお届けします。
事例紹介
なぜAI-OCR導入はうまくいかないのか
東芝デジタルソリューションズ株式会社
ソフトウェアシステム技術開発センター コアテクノロジー開発部
知識・メディア処理技術開発担当 エキスパート 古畑 彰夫 氏
AI-OCRには「手書きの文字も読み取れる」、「多様なデザインの帳票を簡単に扱える」といったメリットがあり、従来のOCRでは扱えなかった領域にも利用が拡大しつつあります。しかし、従来のOCRより読取精度が高まっているのに、「導入してもあまり役に立たなかった」という声も聞かれます。
本講演ではAI-OCRの導入で起こりがちな失敗を考察し、業務で役立てるために注意すべきポイントをご紹介します。
AI-OCRが「役に立たない」と言われる理由と解決策
読取精度が99%でも、1%の誤りがあればユーザーにとって重大な問題です。読取誤りがあることを前提として、人間による修正も考慮した提案が必要です。AI-OCRは業務の「自動化」ではなく「効率化」だということを念頭に置きましょう。読取誤りを早く確実に検出できて、訂正しやすいシステムを構築することが重要です。
AI-OCRを導入する際に注意すべきポイント
開発者とユーザーで一緒に考えるべき点が2つあります。1つは、OCR以外の手段(バーコードやQRコード)も検討した上で、目的に対して最適な手段を選ぶことです。
もう1つは、事前テストで使用するデータの準備です。テストの失敗例として、読み取りが難しそうなデータだけを使って評価したため、簡単そうなデータを間違えることに気づかなかったケースがありました。また、存在しない住所や珍しい氏名をテストに使用したため、文字は正しく読み取れていたのにデータベースと一致せず、誤った補正をして間違いが多くなってしまったケースもありました。読取精度を正しく評価するためには、実際に運用する時と同じデータをなるべく多く用意する必要があります。
AI-OCRを開発する際に求められるポイント
開発者に求められているのは読取精度の向上だけではないことを理解しましょう。人間の直感に寄り添うことも大切です。例えば、文字の一部を重複して読み取ったり、文字の一部を読み飛ばしたりする誤りは、ユーザーにとっては理解不能です。こうした誤りがあるとユーザーがAI-OCRの効果に疑問を持つため、導入や活用がストップすることも少なくありません。
業務で使えるAI-OCRを開発するためには、システム全体で何が重要かを考える必要があります。システム全体にとって重要な機能のひとつに、読み取りが難しいデータは「わかりません」と返し、人間が確認できるようにすることがあります。また、人間が確認・修正しやすいように、読取結果と画像を対応させて正確に見比べられるようにするのも重要です。
【古畑 彰夫 氏 プロフィール】
2001年株式会社東芝に入社、主に帳票や一般文書向け文字認識製品を対象とした画像処理・認識技術の研究開発に従事。現在は東芝デジタルソリューションズ株式会社ソフトウェアシステム技術開発センターにてAI OCR文字認識サービスなどの要素技術開発を行う。
5社でのパネルディスカッション
株式会社アイ・ティ・イノベーション 藪 彰文
Global Walkers株式会社 樋口 未来 氏
株式会社システム情報 足立 雅春 氏
エスディーテック株式会社 鈴木 啓高 氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社 望月 進一郎 氏
東芝デジタルソリューションズ株式会社 古畑 彰夫 氏
ファシリテーター 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 梅木 秀雄 氏
講演者6名に加えて、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の梅木秀雄氏をファシリテーターとしてお迎えし、パネルディスカッションを行いました。参加者からオンラインで寄せられた質問への回答も行われました。主要なトピックについてご紹介します。
AI開発におけるギャップにはどのようなものがあるか?その解決策は?
藪氏:ユーザーのAIに対する期待と現実にギャップがある場合が多いです。そもそもAIで何ができるのかを理解せずに、要件が決まらないまま開発してしまうと、期待した効果が得られません。ツールありきではなく、実現したい目標を定めましょう。ツールについては、数多くの製品が登場しているので、使ってみるところから始めるのも解決策の1つです。
樋口氏:ユーザーと開発者のギャップは多岐にわたります。ユーザーがAI導入を意識しすぎると、それ以外に対する検討が不十分になってしまいがちです。AIを開発する前に、データの見直しなど、他の方法での効率化を検討すべきだと考えています。また、AIの開発を始めるとユーザーは精度向上に気を取られて、ビジネスとして成立するかという観点が抜けてしまうことがあります。ビジネス化を意識しながら開発を進める必要があります。
足立氏:ユーザーの期待と開発者の認識にギャップがある場合は、認識合わせをしながら具体的な解決手段に落とし込むようにしています。開発者の中でも、AI開発の経験が少ないメンバーは、AIで実現できることについて認識のギャップが生まれやすくなります。アプローチの方法や開発プロセスをしっかり定めて、開発チーム内でのギャップを埋めていくことが重要です。
鈴木氏:開発者がユーザーのために良いシステムを作ろうとしても、利用時品質が高くなければユーザーに満足してもらえません。ユーザーと開発者のギャップを埋めるためには、実際の環境で、実際に使うユーザーにテストしてもらいましょう。アジャイル型の開発手法を用い、テスト結果を迅速にシステムにフィードバックするサイクルを、数多く実行していく必要があります。
望月氏:データ基盤の必要性に関して、ユーザーと開発者の認識にギャップがあると感じています。ユーザーはAIには興味があっても、データ基盤は重要視していない場合も多いためです。データ基盤によってAIのメンテナンス性が上がっていくことをユーザーに理解していただく必要があります。また、データ基盤の活用を数年後までのスパンで考えているユーザーも多いですが、もっと長期的な課題として取り組んでいただけると良いと考えています。開発者は、小規模から始めて拡張していけるようなデータ基盤を提案していくべきです。
古畑氏:ユーザーの期待と現実にギャップが生じないように、開発者はOCRが最適な解決策なのか検討すべきです。実際に、OCRを導入したいと考えているユーザーに対して、バーコードを使う方法を提案したことがありました。自社のOCR技術を使っていただくことが必須ではなく、ユーザーの課題解決を目的とした提案を心掛けています。
これからAI開発に取り組もうとする企業へのアドバイス
古畑氏:開発者はユーザーが期待するシステムを作れるよう尽力するとともに、期待に応えられない部分がある場合は丁寧に説明しましょう。開発者とユーザーが密接にコミュニケーションをとってギャップを埋めていくことが重要です。
望月氏:ユーザーにとって有益なシステムを作るためには、企画段階からかじを取っていくことが重要です。さまざまな技術を持っている他社と協力することで、自社だけで開発・運用するのが難しい案件にも対応できます。
鈴木氏:開発者もユーザーとしての視点を持つことが重要です。どうやったら実現できるかという技術面を考えるよりも先に、ユーザーである自分にとって、どういう価値があるかという視点で判断していきましょう。
足立氏:ユーザーと開発者の間だけで完結するのではなく、外にも目を向けるべきです。今後は、自社にない技術は外部の会社と協力して取り入れるという考え方が必要になってくるでしょう。
樋口氏:AI技術が進歩すればするほど、「どこの会社でもできる技術」になってしまいます。既存の技術を利用するだけでなく、自社の強みとなるポイントを付け加えていくことが重要です。その際にはユーザーとしての視点を持ち、ユーザーが必要とするものを加えましょう。
藪氏:AI開発は、開発者もユーザーも、何が正解なのかわかっていない場合が多いです。失敗を恐れずに、全てのステークホルダーが一緒になって考える風土・文化を醸成していけると良いのではないでしょうか。
【梅木 秀雄 氏 プロフィール】
■株式会社東芝 研究開発センターにて、ニューラルネットワーク、画像認識、知識処理の技術開発
研究開発センター 知識メディアラボラトリー室長
■東芝デジタルソリューションズ株式会社にて、AIソリューション製品の事業立案・事業化推進 技師長
■2018年より現職
まとめ
AIやデータ基盤に関する技術は日々進歩しています。DXを実現できる環境が整いつつあるのに、日本ではデータ活用が進んでいないのが現実です。
AI導入プロジェクトには、業務部門、IT部門、経営層、AIベンダーなど多くのステークホルダーが登場します。AI技術を使って新しいビジネスモデルを創造していく上では、ステークホルダーの認識合わせや、プロジェクトの管理が大きな課題となるでしょう。今回は、こうした課題解決の手掛かりが多く含まれる有意義なカンファレンスとなりました。
ビジネスで今までにできなかったことを実現するのがDXです。そのために、過去の成功体験から脱却し、考え方を変革すべき時期に来ているといえます。AIを始めとした新しい技術を理解して、ビジネスモデルを再検討し、システム開発のプロセスを見直すことが重要です。
第3回のカンファレンスを年明けに予定しています。ぜひご視聴いただけますと幸いです。