さて、これまで「DX成功のための4つのポイントとDX推進を妨げる壁」について、ひとつずつ順に説明してきた。DX成功の第四番目が、DXに関わる組織と能力についてである。
図 「組織と能力 その1」で示したように、DX改革は、トップ、ミドル、現場の3つの層の人々が関わる。まず大切なのは、トップのDXに関わるコミットメントである。DXは、自社の経営戦略の問題である。経営戦略課題は、トップ主導で推進しなければ、そもそも機能しない。DXは、どこからか金で買ってくる話ではなく、自らが強い信念で生み出すべきものである。生み出す強い意志や原動力は、トップこそが発揮しなければ意味をなさない。
世の中がDXブームになって、トップは当然、自社のDXのことを意識することになり、多くの企業でDX組織だけが作られ、魂も、自社ならではの定義もなされないまま、部署だけ作って部下を放置するパターンに陥る。
理由は、単純だ。
・他社に遅れまいとDX部門を作ってしまうこと
そして、手っ取り早く我が社も成功した会社の真似をしたい。そして、他社の事例を探し回る。そんなことで、成功するはずもない。過去、ITでうまく行っていないのに、もっと難しいDXが早く、簡単になんてできるはずがない
・DXは、どこかから調達すれば良いという間違った考えに陥ること
DXは、モノではなくコトである。戦略であり、哲学でもある。極端なことを言えば、人であり、カルチャ創りなのだ。
このような組織では、当然のことながら成果は出ない。トップから下請けされたDX部門長も可哀そうだ。試行錯誤も実験もできず、人材もいない中、成功だけを求められ、当然孤立する。トップが失敗や試行錯誤を覚悟して、部下を励まし、困難な状況下では(当然、生みの苦しみを味わうことになるが)DXチームを励まし、我慢することが必要である。
まずは、自社の戦略課題として定義することこそが、初めの一歩である。
重要なことは、トップ主導で自社独自の戦略課題に焦点を当て、ミドルマネジメントと現場をアサインする戦略課題は、自社が成功すれば優位に立てるビジネス領域に絞り込むことである。
そして、戦略課題に必要な外部の専門家をアサインする。
逆に、欲張って総花的になり、何でもやろうとすると、兵站(できる人材の層)がいないのに、戦線を広げ過ぎて失敗し、過剰な投資で人材が疲れ切り、大失敗につながってしまう。
日本における課題は、人材にある。日本のIT部門は、長期間にわたって人材を外部(ITベンダー:メーカーやSI会社)に頼ってきたために、自社内に肝心のIT中核人材が極端に少ない。図(枠で囲った部分)に、示したように、IT人材の多くは、社外にいるのだ。このような状況下でも、現状を理解して外部人材を採用するか、プロジェクトに取り込む必要性がある。
前回のブログ(その7)でも説明しているように、DXの中核人材であるモード2人材は、そもそも不足している。この層の専門家を如何に調達するかが大きな課題である。
日本で見つからなければ、海外のIT人材活用も選択肢の一つである。インドをはじめとしてアジアでは、ITが比較的新しい技術環境で普及したために、モード2人材は、実際にアジアにも多く活動、活躍している。ゼロから人材を育成するには、時間がかかる。いっそのこと、プロジェクトに有能な人材を取り込み、プロジェクトを通して自社の人材を育成することが、現実的なアイデアである。
図 「組織と能力 その2」では、今までのまとめとして、組織として備えるべき能力を体系化してみた。
3つの観点がある。一つ目は、DXに関わる大きなトレンドの理解。二つ目は、ビジネス価値変化の理解。三つ目は、ITの包括的理解である。
これらすべてを完璧にできる組織もないし、人材も存在しない。だからこそ、創造的で、胆力のある複数の人で構成されるチームで臨むのだ。先にも説明した、自社の経営に資する独自のDX定義が、明確になっていれば、必ず成功できると信じることが大切である。
例えていえば、無いことを実現することに価値があるということである。もしそれが実現できれば、しばらくは破られにくい戦略の実現となり、経営的に大きな価値を生むに違いない。
一般的に、組織の保有する能力のことをケイパビリティと呼ぶ。ケイパビリティのもとは、人材である。人材がいくら揃っていても、実力を発揮できない組織もある。組織が力を発揮するかどうかは、組織のカルチャや風土が関係する。さらには、戦略的重要領域に関しての、トップのリーダーシップも不可欠な要素である。
日本は、この200年もの間に様々なモノ、コトを海外から取り入れ、変革に成功してきた。過去に見習おう。明治維新などの過去の成功要因は、材料が揃っていたからではなく、大きな目標、強い意志、熱意、リーダーシップを持ったリーダーが実現してきた。リーダーがチームを巻き込み、新しい成功に導くカルチャを産み出し、諦めず推進したから、素晴らしい成果を生んだのだ。
同様のことがDX推進に求められるのである。