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【連載:DX超入門】その6 DXを成功させるためには、何が必要か


さて、これから「DX成功のための4つのポイントとDX推進を妨げる壁」について、ひとつずつ順を追って説明する。

DX成功のポイントの第一番目は、当該企業のDXに取り組むための定義・意義を明確にすることであった。DX超入門のその5で詳しく解説した。皆さんは、DXの始め方について理解ができているはずである。

DX成功のポイントの第二番目は、企業の事業視点でのDXビジネス対象ドメインを明確に定義することである。

企業が実施している事業を大まかに区別すると、顧客やマーケット寄りの比較的変化の激しい外部のドメインと組織を維持するために実行している社内の組織と、従業員の活動などに関連した内部のドメインのふたつに大別される。


図に示しているように、左側が、主に顧客やマーケットで起こっているイベントや関係するデータを集めて、外部のドメインと呼んでいる。一方、企業組織を維持発展させるための組織、従業員などに必要なイベント、関係するデータの集まりである内部のドメインがある。ここでいうドメインとは、企業が繰り返し行う活動やイベント、関係するデータの集合体を意味する。一般的に事業領域と言い換えても良い。ドメインの定義は、その企業が、持続的な成長を行っていくための自社が主体的に行うための領域であり、自社ならではの特徴を表現する。

第二のステップで重要なのは、当該企業のビジネス変革に必要な、特徴あるビジネス対象は何かを決めることである。

DXの対象になる領域を適切なサブドメインに分類し、顧客寄りのものと組織内部のものに分けて、マッピングしてみる。

対象企業の組織図や業務機能階層図を作成し、その中から対象となるサブドメインを漏れなくピックアップし、図 「ポイント2 企業視点でのDXビジネス対象ドメイン」上に、マッピングしてみる。

ここで重要なのは、細かい業務プロセスやデータを洗い出すことではない。目的は、対象とするビジネスドメインを決めることである。また、この段階でITでのソリューションを合わせて考えるべきではない。DXプロジェクトで、DX変革(経営戦略上のビジネス課題)の対象になるメインのドメインは何であるか、そして、戦略が実行され、そのドメインが、変化した場合に、関連して影響するドメインは何であるかを明らかにしておく。さらに、ビジネス変革上の戦略課題と、数年で変化を期待するKPIも仮決めする。

戦略課題と洗い出されたサブドメインのマトリックスを作成し、どの課題のKPIが、どのドメインに関係するかを明らかにする。このような検討を通して、ビジネスの対象範囲と変革が実現した時の変革の度合いの見当を付ける。(このようになったら理想に近いな、と判断できる仮のKPI)

この見当が無いまま、ITによるソリューションを検討しても、経営戦略とビジネスドメインとの連携やKPI(効果指標)が分からないので、戦略の有効性が明らかではない結果になる。

ITソリューションにだけ期待が高まり、出来たらいいね!ということしか判断材料がない結果に終わる。

戦略とドメインの関係が明らかになったら、ITによるソリューション案をマッピングされたドメイン上に仮置きしてみる。これにより、各ITソリューションが、どのビジネスドメインに関連しているかが明らかになるし、ある程度の対象範囲を絞り込むことが可能になる。

対象組織が多くあり、多くの部門をまたがっていることが分かると、問題解決の難易度も想定できるし、実現順序も見えてくる。ここまでが、ステップ2で実施すべき主な内容である。

重要なことは、DX変革の度合いとビジネス範囲、関連する組織、ステークホルダーを明らかにするということである。

通常の場合、変革は、顧客、マーケット、サプライチェーンなどの組織外の変化がトリガーになって起こる。外側の変化に耐えられるように、内部のドメインやビジネスプロセスも変化を強いられることになる。内部から自発的に発生する変革もありうるわけであるが、外部の変化の方が通常、インパクトが大きく、事業が生き残るためには、外部の変革視点がもっとも重要である。市場で早く改革の方向を感知し、変革の必要性に気が付き、変化をリードした企業が生き残ることになる。出遅れた企業は、成功確率の悪い奇策を実施するか、放置すれば競争力を失い、倒産するか、力の強い企業に吸収されることになるだろう。

今、DXと同時に、よく耳にする言葉にUXがある。UXは、ユーザー体験を意味するが、ネット社会になり、モバイルコンピューティングが進化したことで、顧客と製品・サービスの関係が一段深くなってきたためである。従来は、顧客に良い製品、良いサービスを提案できれば、言い換えれば、マッチングできれば、市場で勝ち組になれたが、今は違う。製品とサービスのソフト化が進み複雑に結びつき、顧客の購買決定は疑似体験により、買うか買わないかを判断する時代に入ってきている。


すべての製品、サービスがこの領域に入っているわけではないが、多くの製品には、重要なサービスがセットとなり結びついてきている。例えば、健康器具などは、説明と性能では、顧客は納得しない。顧客が求めているものは、その健康器具と共に生活し、結果としてダイエットに成功したり、使用したことにより、友人との関係が変化したり、それにより行動できるとことや体験できることが変化し、本人が今までには無い満足を得る。その健康器具を使うことの疑似体験で、顧客が今までとは異なる目標が達成できると確信したときに、購買行動が起こる。多くの製品では、製品開発と同時に、クラウド上での学習や体験を実感できるソフトウェア上のサポートの開発が同時に行なわれている。マンションを買うにせよ、車を購入するにせよ、レストランを選ぶ際にも、“疑似体験が”有効であることは想像できるだろう。ここでの説明は一例に過ぎないが、対象ドメインの中で、新たに何を達成できれば良いのか、今までとは違う何かを検討する必要がある。ITにおけるソリューションも複数、何ができるかを知っていてこそ、新たな顧客体験のドメインを検討できるのである。

この段階のDXプロジェクトは、まだまだ柔らかい段階であるが、トップや事業部の人がいくら頑張っても、ITソリューションを知らなければ検討できないため、ITの専門家の助言を入れられるようにITの専門家を入れることが望ましい。IoT、AI、AR、VRなど何が実現できるか、知っていることから発想することも方法論として重要である。

これから様々なDXプロジェクトが実施されると思うが、筆者は、常に、顧客側の変化、マーケットの変化に着眼点を置いて、自社独自のDX定義(【連載:DX超入門】その5参照のこと)を行うことを推奨している。

次回は、DXに関わる方法論・アプローチについて解説する。


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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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