さて、これからの数か月に亘り、“DX(デジタルトランスフォーメーション)超入門”として、DXの背景、本質、取り組み方法などについて、ITの専門知識を特別に必要としないDX入門の書下ろしに挑戦することにした。
DXとは、シンプルにいえば、ITの活用が世の中を豊かにするということである。この流れは、30年以上前から始まっている。そもそもITは、世の中のあらゆるものを発展させ、豊かにする可能性を持っている。DXの社会的な側面は、技術の発展、浸透による自然の流れである。
DXは、もともとITが社会を豊かにするという意味から始まっているが、昨今の報道では、組織にフォーカスして、組織のIT化による変革について語られることが多くなっている。
組織が社会的な調和を保ちつつ、その組織の経営理念を踏まえて、どのようにIT化を意図的に、戦略的に取り組んでいくかということである。企業内には、様々なIT関連の活動が存在するが、DXへの取り組みに関していえば、はっきりと経営トップの問題であると言い切れる。現実にはどうかといえば、トップ、ミドル、現場の戦略意識、ITリテラシー、改革のための文化は噛み合っておらず、リーダーシップ不在の状況が良く見かけられる。せめて危機感ぐらい持ってもらいたいものであるが、成功には程遠い。せいぜい他所で聞いてきたことを自社でも試してみようと思う経営者が、社内に適任者が見つからず困っている姿を頻繁に見かける。ここで、せめて危機感と表現したが、理想的には夢やポジティブな発想から取り組むべきものがDXである。
組織の生き残りのための“変化(変革と変身)”に関わるポジティブな戦略が、DXである。
昨今のDXブームでの課題は何であろうか考えてみよう。
組織のDXの課題の主なものは、4点に絞られる。
①新たなビジネス価値創出(AI、IoT、ビッグデータなど)
②既存システムのスラム化・ブラックボックス化(2025年の崖)
③スキル(人)とケーパビリティ(組織)の獲得
④マインドチェンジと改革する風土の醸成(人の認識)
これら4つの課題の内、人と強く関係するものは、人のスキル、組織のケーパビリティ、マインドチェンジと組織の風土改革に関わるものである。
まず私が皆さんに言いたいことは、4つの課題を個別のものとして、取り組んでもうまく行かないということである。4つの課題は、新聞雑誌、ネット上で取り上げられているので、取り組み課題としては、異論はないだろう。最重要なのは、4つを繋ぐ筋の通った強い力が必要である。
それは、トップ自らがDXに取り組むという宣言をするとともに経営理念、経営戦略と具体的な施策に落とし込むことが前提となる。
私は、単に文字上の戦略とDX課題とのクロスリファレンスを求めているのではない。私が重要視しているのは、経営理念から経営戦略、DX戦略のトップ、ミドル、現場の変革マインドの醸成であり、これを実行に移すためには、“方法論”を作り上げることにある。
私が、敢えて“方法論”といったのは、方法論 ≠ 方法(手順)である。方法論とは、一連の方法のセットであり、哲学や理念を伴う。生き残るための変化には、経営理念も変更する場合がありうるし、組織と運営体制も変革するだろう。昔流の言い方だと“筋を通す”ということになるだろう。
トップが主導して、現状の姿と実現後の姿を描き、DX成功のためのロードマップを作りあげる。私が強調したいのは、この作業そのものにより新しい理念とDXが結びつくことになり、ロードマップは新たな世界を創り上げるシナリオ(成功物語のストーリー)にあたるものである。この作業の共有により、DXマインドを醸成することになる。ロードマップには、スケジュールの要素は含まれるが、重要なことは、“物語”の部分である。物語は、感動を伴う。
私たちは今もコロナショックの最中にあり、頻繁におこる災害などで多大な犠牲は払っているが、以下の機会を得たと言える。
再考の機会
学習の機会
組織変革の機会
風土変革の機会
企業のDX推進の機会
中長期的には、さらなる以下の変化が、進行しつつある。しかも、元の状態には、戻ることはなく、新しい世界への移行が進行しているといえる。これを機会としてDXに取り組んで行こう。
“連載のはじめに“は、これで終わりである。次回の第1回以降は、個々の視点からDXに切り込んでみたい。
どうぞお楽しみに。