ふと世間をかえりみると、北朝鮮問題、解散総選挙、PMBOKガイド第6版のリリース、クールビス期間の終了など、さまざまな変化の時期を迎えているように感じます。
変化というのは、何か形があって、その形が変わっていくことを指すことと思いますが、私がこれまで長い間携わってきたPMOの形について、近頃いろいろと考えさせられることが多くなってきた気がします。。。
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当ブログの中で、PMOをテーマとしたのは、以下の2回です。
・【第83回】PMOとレンガ職人
・【第84回】PMOレボリューション
前者は主にプロジェクト内PMOについて、後者は主に組織内PMOについて考察したものです。その中で、私の考え方としては「PMOは何でも屋」であり、「PMOとして最も大切なことは、プロジェクトを成功させるという目的を見失わないこと!」と表明していました。
我々コンサルタントの立場として、お客様のプロジェクトなり、組織のご支援する際には、そういうあいまいな定義で、あとは柔軟に対応することが理にかなっていると思います。ただ、お客様ご自身がPMO組織を立ち上げる場合やプロジェクト運営のご支援を差し上げる場合を考えると、もう少しPMOというものを具体的に定義する必要があるのではないかと感じ始めました。
PMIの『戦略的PMO』をはじめとして、その辺の整理を試みようとしている動きは既にあるのですが、実際のシステム開発プロジェクトの現場にはその意図が浸透せずに、プロジェクトに携わる方々やPMOの仕事を実際に行っている方々それぞれの思いによって、PMOの定義や役割が千差万別にとらえられているように感じています。(※1)
こういうときは、まずはPMBOKガイド第6版によるPMOの定義を確認してみましょう。(※2)
2.4.4.3 プロジェクトマネジメント・オフィス
プロジェクトマネジメント・オフィス(PMO)は、プロジェクトに関連するガバナンス・プロセスを標準化し、資源、方法論、ツールおよび技法の共有を促進する組織構造である。PMOの責任は、プロジェクトマネジメントの支援機能を提供することから、ひとつ以上のプロジェクトを直接マネジメントすることまで広範囲にわたる。・・・
プロジェクトマネジメント・オフィスは、組織全体の責任を有することがある。また、戦略的提携を支援し、組織の価値を実現する役割を果たすことができる。PMOは、組織の戦略的プロジェクトからデータと情報を統合し、上位レベルの戦略目標がどのように達成されているかを評価する。PMOは、組織のポートフォリオ、プログラム、およびプロジェクトと組織の業績評価システム(例:バランスト・スコアカード)との間の橋渡し役である。・・・
PMOが支援したり管理したりする複数のプロジェクトは、同時にマネジメントされているということ以外に関係がないことがある。PMOの形態、機能、体制は、支援する組織のニーズによって決まる。・・・
PMOは、ビジネス目標との整合性を保持するために、個々のプロジェクトの全期間を通して、中心的なステークホルダーとして活動したり、重要な意思決定を行ったりする権限をもつことがある。・・・
PMOの最も重要な機能は、さまざまな方法でプロジェクト・マネージャーを支援することである。・・・
うーん。PMBOK第6版の記述をあらためて読んでみても、「プロジェクト・マネージャーの支援」、「プロジェクトを直接マネジメント」、「ビジネス目標との整合性保持」、「組織の業績評価システムとの間の橋渡し」など、PMOの目的や役割は実に幅が広く、さらに「PMOの形態、機能、体制は、支援する組織のニーズによって決まる」という柔軟性を持ち合わせる必要があるということのようですねえ。まさにPMOはプロジェクトに関する「よろず屋本舗」の位置づけと言っても良いかもしれません。
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また、PMOというキーワードをネットで検索してみると、「PMO支援」「PMOコンサル」などのサービス提供に関する記事や「PMO要員募集」といった記事がたくさんヒットします。もちろん、弊社アイ・ティ・イノベーションのコンサルティングメニューである「PMコンサルティング」の中にも、「PMO立ち上げ支援」や「PMO運営支援」といったサービスメニューがあります。(※3)
本来、PMOはプロジェクトを実行する組織の中にあって、プロジェクトに関するさまざまな支援を担う組織ですが、特にシステム開発を主たる事業としていない発注側の組織においては、プロジェクト運営に関する専門的なノウハウを持ち合わせていないことが多く、外部の専門家にその部分を委ねざるをえないことがあり、そこに「PMO支援サービス」というビジネスが生まれるということになります。
当ブログの 【第84回】PMOレボリューション では、PMOの組織上の位置づけにより、全社PMO、部門PMO、および、プログラム/プロジェクト内POの3つに分類されることを紹介しました。このうち、全社PMOと部門PMOは組織内PMOと呼ばれますが、この組織内PMOの立ち上げや運営をご支援する「PMO支援サービス」の位置づけは、図1に示すようなイメージになります。
一方、プログラム内/プロジェクト内POを組織外の専門家が支援する場合も、一般的に「PMO支援サービス」と呼ばれており、これを先ほどと同じような組織内の位置づけで示すと、図2の通りとなります。
図1と図2を比べてみればよくわかると思いますが、プログラム内/プロジェクト内POを支援する「PMO支援サービス」は、組織内PMOと同じような位置づけに見えます。しかし、実際は、組織内PMOに対しては、経営/マネジメント層によるガバナンスをきかせることができるのに対し、プログラム内/プロジェクト内POを支援する「PMO支援サービス」は、外部の専門家が直接個別のプログラムやプロジェクトを支援する形になるので、プロジェクトの現場任せとなって、経営/マネジメント層によるガバナンスをきかせることが難しくなるのです。
そして、プログラム内/プロジェクト内POを支援する「PMO支援サービス」の形態としては、外部の専門家がPMOのメンバー(当事者)として参画したり、場合によってはプロジェクト・マネージャーの立場として参画することもあります。後者はいわゆる「雇われPM」と呼ばれる支援形態です。
このようなPMOメンバーとして参画する「PMO支援サービス」の場合は、あまり専門性を持ち合わせておらず、単なる事務支援的な位置づけで参画するケースもあります。この場合は、かつての「SE派遣サービス」とほぼ同じような形態での「PMO派遣サービス」となります。実際には、このような「PMO派遣サービス」がかなり広がっており、その供給源として「PMO要員募集」の記事につながっているのです。
PMIの『戦略的PMO』では、明確に組織内PMOだけをPMOと呼び、プログラム内/プロジェクト内POの方はPMOではなくPOと呼び名を変えて、一線を画そうと試みています。しかし、「PMO支援サービス」や「PMO派遣サービス」というビジネスを展開するために便利なPMOという呼称が広く使われ続けているため、なかなかPMOに関するPMIの定義が定着化しない要因になっていると私は考えています。
「PMO支援サービスの展開という大人の事情が、PMOの定義をわかりづらくしている!」
まあ、そのような大人の事情は厳然たる事実として存在するので、我々「PMO支援サービス」を提供する側としては、プロジェクトを実行する組織やプロジェクトの現場が混乱しないように、組織力の向上やプロジェクトの成功率向上のご支援を行っていくとともに、PMOというものをもっとわかりやすく説明できるように努力していく必要があると再認識した次第です。
工藤武久
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※1 PMI日本支部編(2009)『戦略的PMO-新しいプロジェクトマネジメント経営-』オーム社
※2 Project Management Institute, Inc.(2017)『プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(PMBOK®ガイド)』(第6版)Project Management Institute, Inc.
※3 株式会社アイ・ティ・イノベーション > コンサルティング > PMコンサルティング