100回まで残すところ2回となり、今回のブログも原点回帰してみたい。遡ること2014.1.14のバックナンバー「EA(Enterprise Architecture)の形」を読み返してみる。たしかに難解で読者に分かりづらいものであったとの反省から、ブログの改訂とはいささか奇異であるが、今回はこのV2を執筆したい。(正直、TOGAFのEnterprise Continuumのまんま受け売りが良くなかった)
最初に、”企業”という正体が目に見えない物の“かたち”について考えてみたい。この姿、形をどのように表現するかについては、長年、多くの学者や団体が研究を重ねてきた。結果、今日のZACHMAN(John Zachman、EAの生みの親)やTOGAF(The Open Group Architecture Framework)などのフレームワークが存在する。ここではこれらのフレームワークの説明は割愛し、私なりの“企業のかたち”とその目的効果について考えてみたい。
目に見えない“企業体”を無理やり物体に例え、その姿を絵に描くとどうなるだろうか?アメーバのようなグニャグニャした姿や、ゴツゴツと尖った多面体を想像する人など様々だ。しかしどのような形にせよ、企業という物体には様々な共通点が存在する。そこには、同一業種(製造業、商社、小売など)、同一業界(電気、自動車など取扱商品の分類)、同一業態(デパート、専門店、スーパーなど商品の売り方)、同一企業規模などの各種分類軸における類似性がある事に異論はないだろう。そして裏を返せば、このような類似性は企業という”物体”を表現する際に、再利用可能なアーキテクチャ部品(コンポーネント)になり得ると言える。
図1をご覧いただきたい。図の最下部から順にご説明する。“①ITインフラ”は、文字通りネットワーク、ハードウエアなどのインフラ基盤である。企業システムはもとより、コンシューマ領域なども含む社会全般のIT基盤である。“②企業システム共通“は、どんな企業にも必須の会計、人事、オフィスシステムなどのバックオフィス・アプリケーションを指す。”③業種共通”は、業種によって保有するプロセスの種類(例えば製造業の生産管理や、サービス業の保守業務など)で幾つかに分類される。“④業界共通”は、取扱う商品・サービスによる業界特有の商習慣や法規制などの分類である。そして最後の“⑤個社特有”は業界、業種の標準にはないその企業特有のオリジナリティを指している。
ITインフラ→企業システム共通→業種共通→業界共通へと昇って行くにつれて、企業活動・取り扱い情報の類似点は徐々に範囲が狭められるが、上位層は必ず下位層のシステムの特徴を継承している。そして、企業システムの設計に際しては、上記の流れを逆に辿り、より下位層に向けて汎化することでシステムの再利用性の範囲拡大を追求することになる。これにより想定される新規事業分野への進出などにも柔軟に対応が可能になる。このように企業の形は、世界中で同じ物は2つと存在しないが、その分類の仕方によって数多くの類似性を見出す事が出来、再利用可能なアーキテクチャ部品の集合体として表すことができる。
さて読者の企業におかれては、スクラッチ、ERP導入、パッケージ適用、いずれの開発形態を採用したにしろ、自社のビジネスをこのようにきちんと分析した後に、システム構築に入っていったであろうか。
「SWOT分析などの手法を用いて、自社企業の強みや業界における位置付けについて自ら分析しドキュメント化した上で実装ソリューションに至った」という企業はまずもって合格である。そうではなく「ベンダーの薦めるERPやパッケージ・ブランドを何となく選択し、構築段階で自社との違いをひたすらカスタマイズした」という企業も少なくないのではなかろうか?
或いは、既存レガシーシステムがパッケージの存在しない時代に開発されたものなので、はなからスクラッチ開発しか眼中になく、しかも自社ビジネスの特徴や類似性の十分な分析なしに、ひたすら腕力でモンスター級の再構築に挑んだりはしていないだろうか?
上記はいずれもエンタープライズアーキテクチャ(企業の構造)をないがしろにした、とても残念な例である。それでも、ERPやパッケージ適用のケースは、近年、SIベンダーも多くの経験を積んだ結果、FIT&GAPに入る以前に、業界、業種、業態、企業規模に関する事前調査を行うのが一般的となってきたので、大きな怪我は少なくなってきている(しかしフロンティア領域のパッケージでは炎上もある)。
もう一方のスクラッチ開発の方が未だに納期遅延や炎上のケースをよく耳にする。世の中に例のないオリジナルのシステムを開発するSoE領域ならばともかく、世の中に五万とあるSoR領域を全てスクラッチ開発することは、時間もお金も無駄である。
現時点では未だ、“企業システム“はお金を出せば簡単に手に入るコモディティではない。とは言え、個々の構成部品(例えば個々のハードウエアやミドルウエアなど)はコモディティ化されたものも少なくない。ビジネス、データ、アプリケーション、テクノロジーの4つ層に分けて、それぞれの視点において企業システムをコンポーネントの組合せで可視化すること、即ちEA(Enterprise Architecture)の取り組みは、企業システムを構築する際のセオリーである。そして、この取り組みの結果整理された再利用可能なアーキテクチャ部品は、最新のテクノロジーを介して次世代のシステムに実装されることになる。