~ 東京工業大学でグローバル人材にエンタープライズ・アーキテクチャ原論を講義 ~
私は一昨年から、社会人講師として、東工大の大学院生にEA(Enterprise Architecture)原論を教えている。生徒の半数以上が、アジア、ヨーロッパなどからの留学生であることから、昨年から、講義はすべて英語になった。英語での講義は、私は初めてなので、私にとっても大きなチャレンジになっている。2年目になると生徒がどのように反応するかが、少しずつみえてきているので、時々、冗談を交えながら講義を進めることがある。また今年からは、YouTubeなどネットから入手した動画、画像などの生きた教材をできるだけ使い、EAに興味を持った生徒が、受講後も自習できるようにしている。大学院生に講義している内容は、EAの概念を教えた後に、ビジネスアーキテクチャ、データアーキテクチャにかかわるケーススタディ、プレゼンテーション、講師からの評価、質疑応答を行っている。
① Overview of Enterprise Architecture
② Fundamental Principles in EA and Cases
③ Design of Business Architecture
④ Design of Data Architecture
私のような経験重視世代は、20代前半の社会人経験のない学生に、EAの概念や企業のモデル化、また、企業のIT活用度などの成熟度などがわかるかどうか疑問を持つ。そもそも、この段階で教えるべきことかどうか迷うこともある。一般的に企業内で検討する教育は、経験に応じてステップアップさせる研修が多い。これも一つの方法であるが、医師や建築家の養成のように、最初からプロフェッショナルとしてITアーキテクトなどの専門職を育成する方法は、あると考えている。
実際に、昨年からの講義に参加する生徒は皆、素直で、彼らなりに良く物事を考え、課題に取り組んでくれる。私にとってこのことがとても励みになっている。
やる気のある優秀な生徒を教えることこそが、講師への最高のプレゼントであり、その甲斐あって講師の能力も向上するのだ。
今年の講義は先週から始まったのだが、早めに講義室に到着したので、私が担当する講義の前の講義である、IT組織の成熟度評価手法を特定の企業に適用したワークショップの生徒たちの発表を聞くことができた。生徒たちは、社会人経験不足にも拘らず素晴らしい分析結果の発表をしてくれた。そもそも経験をカバーできるのが、学問である所以である。社会での経験が長くなると、我々はこの原理を忘れがちになり、しばしば経験の少ない若い人たちにネガティブな反応をしてしまう。このこと自体が大きな問題である。講師は、誠心誠意、教える態度を見直し、姿勢を変え、先入観などを捨て去るべきである。生徒たちの素晴らしい成果とプレゼンテーションを見て、私の教える気持ちに火が付いた。
若者の特権は、分からないことに躊躇せず取り組めること、難しい課題にあれこれ考えずチャレンジできることではないだろうか。そうであるなら我々教える側はどうすべきかといえば、チャレンジする人に敬意を表し、勇気づけ(エンカレッジ)、力を与える(エンパワー)ことが本分だろう。
私が講義の成果を通して実現したいことは、従来の伝統、因習の殻を大胆に捨て、本物のITプロフェッショナルの育成手法を確立させることだ。そう本気で考えている。