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私ごとですが、来る2017年7月9日(日)「PMI日本フォーラム2017」にて、「なぜリスクマネジメントは形骸化してしまうのか?~ 実効性のあるリスクマネジメント定着化についての一考察 ~」というテーマで講演を行うことになりました。ご興味のある方は是非、会場にお越しいただけたらと思います。(※1)
ということで、今回は当講演テーマに関連して、リスクマネジメントが形骸化する原因について少し考察したいと思います。
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当ブログの 【第11回】超ハイリスク?甲子園への道・プロジェクト! から 【第18回】計画が先か?リスクが先か? において、集中的にリスクマネジメントをテーマにとりあげました。それ以降も、リスクマネジメントに関するブログを何度も書いてきました。(※2)
それだけ、私のリスクマネジメントに関する関心は強いものであり、結論的に言えば、
「プロジェクトマネジメントの本質は、リスクマネジメントである!」
という信念を持っているつもりです。(※3)
たとえば、プロジェクト目標でもある、Q(品質)、C(コスト)、D(進捗)の管理の目的を考えてみると、そのことは一目瞭然です。
1.品質モニタリングの目的は?
⇒ 本番リリースしたシステムが障害多発で、システム化の目的が達成できない
なんてことにならないように、開発途中の品質状況をモニタリングする
つまり、本番障害多発リスク顕在化の予防対策のひとつ
2.コストモニタリングの目的は?
⇒ 納期遵守、品質確保のためにがんばっているうちに、赤字プロジェクトに
陥らないように、売上・原価の見通しをモニタリングする
つまり、コスト超過リスク顕在化の予防対策のひとつ
3.進捗モニタリングの目的は?
⇒ いつの間にか、回復不可能な進捗遅延に陥らないようにモニタリングする
つまり、進捗遅延リスク顕在化の予防対策のひとつ
QCD状況などのプロジェクトモニタリングは、既に起きてしまった問題の早期発見と対策実施もさることながら、今後顕在化するかもしれないリスクの洗い出しと予防のために実施するものであり、「先手管理」の観点からは後者の方がより重要と考えられます。
私の理解では、QCDのマネジメントとリスクマネジメントは、それぞれ独立したものではなく、重なりあうものと考えています。QCDそれぞれのマネジメントから抜け落ちるものを拾うための受け皿として、リスクマネジメントがあると考えるのがわかりやすいと思います。
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当ブログの 【第12回】プロジェクト・リスクとは何か? では、PMBOKガイドのリスクの定義「リスク(Risk).もし発生すれば、プロジェクト目標にプラスあるいはマイナスの影響を及ぼす、不確実な事象あるいは状態。」をプロジェクト・モデルに当てはめて視覚的にわかりやすく表現しました。
このプロジェクト・モデルは、時間と成果物出来高の2軸で表現していることから進捗管理、つまり予定された納期までに成果物を全て完成させるというプロジェクト目標に対する不確実性=個別リスクについて表していることになります。
そして、当ブログの 【第13回】個別リスクとプロジェクト全体リスクという二つの視点 では、納期などのプロジェクト目標に対して影響を及ぼす個別リスクとは別に、プロジェクト全体の最終結果が成功か失敗かといった、もっと大きな視点での不確実性を示すプロジェクト全体リスクという考え方を示しました。
プロジェクト・リスクには、個別リスクとプロジェクト全体リスクがあり、それぞれの扱い方は異なるということを思い出してください。
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では、リスクマネジメントが形骸化する原因について、いくつかあげていきたいと思います。
1.リスクは失敗の卵という誤解
プロジェクトには独自性があることから、一定の不確実性が伴うものです。その不確実性のために、当初計画時には想定していなかった事態が発生(リスクの顕在化)することもあり、その場合は計画の変更を行う必要があるのは当然です。しかし、計画の変更は、プロジェクトマネジメントがちゃんとできていなかったり、計画そのものが間違っていたことが原因だったと安易に考えてしまう傾向が根強くあるものです。
計画の不備やマネジメントの失敗により、プロジェクトが計画通り進まないことがリスクの顕在化であるという考え方に立つと、逆に計画の不備やマネジメントの失敗さえ起こさなければプロジェクトはうまくいくはずだということになります。この考え方によれば、わざわざリスクをマネジメントするよりも、計画とプロジェクトコントロールをちゃんとやる方が先決ということになり、リスクマネジメントは形だけになってしまいます。
大規模プロジェクトや野心的なプロジェクトなど、不確実性が強く、リスクが高いプロジェクトにおいて、想定される個別リスクをたくさんあげると、そんなに計画やマネジメントに自信が無いのかとステークフォルダから突っ込まれたり、そう思われたくないというプロジェクトマネージャのプライドなどが邪魔をして、リスクマネジメントがおざなりになってしまうということも結構あるのではないでしょうか?
2.リスクは漠然とした不安であるという誤解
リスクはまだ顕在化していないことから、あまり具体的に考えても仕方が無いと深掘りをあきらめてしまうケースです。漠然とした不安をリスクとして列挙しても、具体的なリスク予防策や発生時対策を定義することはできず、結局はリスク一覧にあげているだけで具体的なアクションに何も結びつきません。
リスク予防策や発生時対策をプロジェクト計画に組み込むことができなければ、リスク一覧を定期的にメンテしていてもまったく役に立たず、典型的な形骸化のパターンに陥ります。
3.リスクは漏れなく洗い出すべきという誤解
プロジェクト終結の段階までに、全てのリスクが顕在化しなければプロジェクトは失敗しないはずです。ということは、プロジェクト開始時点で想定される全てのリスクを漏れなく洗い出して、それらのリスクへの対策が漏れなく計画に盛り込まれ、その計画に基づくマネジメントがしっかりできていればプロジェクトは失敗するはずは無いと考えられます。
確かにその考え方は論理的には正しいのですが、プロジェクトには独自性があるので、プロジェクト開始時に全てのリスクを漏れなく洗い出すのは、ほぼ不可能なことです。それが出来るのなら、プロジェクト実行段階でのリスクマネジメントは不要になるはずです。しかし、プロジェクトは進行とともにこれまで見えていなかった部分が見え始めて、その結果、当初想定されたリスクも解消されることもある反面、逆に新たなリスクが見えてくることもあるなど、状況は刻々と変化していくのです。
リスクは漏れなく洗い出すべきという考え方に取りつかれてしまうと、とにかくどんなことでもいいからプロジェクトにマイナスの影響を与えるかもしれない事象や状態を列挙し続けることになり、一度あげたリスクは取り下げる勇気も出せず、山のようなリスク一覧が出来るだけで、結局はプロジェクト実行段階で誰も見向きもしないことになってしまうのです。
4.リスクの対象に対する共通認識の欠如
当ブログの 【第13回】個別リスクとプロジェクト全体リスクという二つの視点 で示す通り、プロジェクト・リスクには個別リスクとプロジェクト全体リスクがあります。それぞれのリスクへの対応は異なるものであるにもかかわらず、この二つの考え方を混同して使っていることが多く、実は話がかみ合っていないケースを良く見受けます。
また、当ブログの 【第85回】何が違う?コンティンジェンシープランとリスク発生時対策 で示したように、リスクの対象がプロジェクト目標達成なのか、事業継続なのかによっても、リスク予防策や発生時対策やリスクモニタリングの方法が変わってくることになります。
同じリスクといっても、その対象が何かによって対応が異なるということについての理解が足りないことで、リスクマネジメントが何を目指しているのか共有認識が出来ず、結局は効果的なリスクマネジメントが定着しない一因になっているのではないかと考えています。
今回は、リスクマネジメントが形骸化してしまう原因をいくつかあげてみました。いずれもわかっているようで奥が深いリスクというものに対しての誤解が根底にあるのではないかと私は考えています。
それに、QCDのマネジメントとリスクマネジメントの関係性についても、実は誤解している方が多いのでは無いかと感じています。もしそうなら、いくらPMBOKをはじめとしたプロジェクトマネジメントの知識体系、手法、ノウハウ等が普及したとしても、その目的や意義が正しく理解できていないままなので、プロジェクトの成功率はそれほど高まらないのではないでしょうか?
ということで、これからも、もっともっと、たくさんの方に当ブログ 「新感覚!プロジェクトマネジメント」 を読んで頂き、プロジェクトマネジメントに関する誤解を無くして行けるよう頑張っていきたいと考えています!
それでは次回もお楽しみに! < 前回 | 目次 | 次回 >
工藤武久
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※1 PMI日本フォーラム2017公式サイト
https://www.pmi-japanforum.org/pmij2/forum-2017/track_f.html#F-6
※2 当ブログのリスクに関する記事は、以下参照。
ホーム > ブログ > 新感覚プロジェクトマネジメント > リスク
https://www.it-innovation.co.jp/tag/リスク/?c=cat_blog03
※3 当ブログの 【第2回】プロジェクトマネジメントは問題解決だ! では、プロジェクトにおける問題が全て解消すればプロジェクトは成功するという論調でしたが、さらに問題を未然に防止するためのリスクマネジメントの方が本質的には重要だということになります。