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業務アプリの伸びしろ(受注システム)


今回は前回に引き続き業務アプリケーションの伸びしろについて語ってみたい。今回対象とするアプリは受注システムである。当然ながら業種によってその詳細は様々ではあるが、出来る限り汎用性に心掛けることにして、その伸びしろを追求してみたい。前回同様にユースケース図を掲載したので適宜参照していただきたい。

時代は遡るが、古典的な受発注システムはバックオフィス業務としての色合いが濃く、アナログで受けた注文情報を当該システムに画面入力するところ(いわゆる受注入力)から始まり、在庫引き当てを行ない顧客へ向けた出荷につなぐものであった。しかし近年、そのスコープは上記の一次顧客を超えて二次顧客さらにはコンスーマも含むものへと広がってきた。業種によって、その具体的な商流は異なり、販社、代理店、特約店などの仲介は存在すれども、より消費者に近い所からの受注情報をシステムに取り込もうという点は共通の傾向である。もちろんこの背景には情報のスピード化に応えるICTの進化が作用している。これがまず最初の伸びしろである。

少し掘り下げてみたい。二次、三次顧客(BtoB)については当初はWEB画面からの手入力であるが、相手が企業なので、次第にお互いの受発注アプリケーションのシステム間連携、即ちEDIに進化する。そして、これが業界標準になればVANを形成する事になる。また近年、アリババのようなBtoBの巨大ECサイトに登録し、従来では考えられないビジネスパートナーとの出会い等も始まっているようだ。では消費者(BtoC)についてはどうであろうか。従来は店舗に商品を買いに行っていたものが、ICTの進化によりコマースサイトで調達が可能になってきた。読者の中でネット販売を利用した事のない人は稀有なのではないだろうか。今や交通事情や物流業者の就労問題に迄発展する勢いである。

このコマースサイトにも近年、ITのさらなる進化の影響が出始めている。Amazon Dash Button がその一例である。いわゆるIoTの活用の1つと思われるが、コモディティ商品の注文では、もはや”WEB画面”なんぞのややこしいものを使う事なく、ボタンを押せば注文情報が飛ぶ仕掛けだ。高齢化社会にはうってつけだ。一方で、コモディティではなく消費者の好みによってパーツの組み合わせが可能な商品については、相変わらず価格見積の画面が必要だったりする。こちらは逆に、従来以上のユーザビリティとリアリティーを要する高度なシステムが要求され、上記のボタン一発とは真逆である。

いずれにしてもこの伸びしろは、最終消費者に至る迄の取引にスピードアップと利便性をもたらすが、これで終わっては折角のICTの進化がもったいない。次なる伸びしろは、上記の如くコンスーマがシステムのスコープに参入したことを利用して、マーケティング情報を取得する事を考えたい。いわゆる”顧客情報”とはBtoBビジネスで言う取引先マスターの情報とは似てもにつかわない。受注出荷物流の為の画一的情報とはうって変わり、消費者の購買動機から商品・サービスに対する感想、もちろん顧客の年齢層や職業等のカテゴリーに至るあらゆる関連情報である。

ここで取得したBIGデータは、BtoCビジネスは当然ながら、従来、自らをBtoBビジネスと思っていた企業のマーケティングスタイルを大きく変える可能性がある。どんな商品も最終顧客に繋がるのだ。 つまり受注システムは顧客情報の取得という大きな副産物を得るものに進化する。これに伴い、個人情報やセキュリティというナイーブな課題もクリアーして行かなければならない。さらにBIGデータは、受注システムの結果として蓄えられた膨大な取引実績データを元に、商品毎、顧客毎のあらゆる情報分析を可能とする。また受注に至らない見積データ等も分析対象となり得たりする。そして、ここでの伸びしろには、最新のAIテクノロジーが活躍する。

また、このようなBIGデータ再利用が、従来のバックオフィスにおけるデータ分析と大きく異なるところが、分析情報のフィードバックの速さである。従来のデータ分析は次なる営業戦略に活用するというものが殆どであるのに対して、こちらは顧客若しくは顧客予備軍に対して次なる購買を促したり、継続的発注に繋げたりといった直接的販売プロモーション(バーチャル営業マン)の役割を果たすところが相違点である。

再びユースケース図を見ていただきたい。背景色をピンクにしたユースケースが、従来型の受注システムに対しての伸びしろである。基幹系システムの中でもSoRの代表選手のような受注処理は、新たなITの活用でこんなにもスコープが拡大する。はたして、このユースケースを元に人間の業務を設計するとどうであろうか。コンスーマのシステム参入で、営業をはじめとするフロントオフィスの仕事や、バックオフィスの事務作業は明らかに豹変する事が、想像できるだろう。考えてみれば当たり前で、ITの効能が自動化にあるのに変わりないのだから。

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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