読者の皆様、あけましておめでとうございます。新年最初の話題は、亀甲文字を基盤に国内外で幅広く活動を続けている「龜甲会」を紹介したい。
正月明けの1月8日に妻の誘いもあり、東京駅前、丸の内のKITTEで開催されている「龜甲展」を訪れた。3年ほど前までは、毎年大変楽しみに参加していたのだが、ここ2年ほど海外出張と重なり参加出来なかったのだ。「龜甲会」を主宰されている加藤先生は(私と妻は人間としての加藤先生が大好きである)、いつも書について素人の私たちに親切且つ熱心に教えてくださる。先生直々の解説を聞きながら、書の勉強、人間の勉強ができ、久しぶりということもあって改めて深く感じ入った次第である。
そもそも、「龜甲会」とは加藤光峰 (かとう こうほう)先生が、48年前に始められた会である。先生は、漢字圏特有の芸術と言われてきた書を古代文字という漢字の起源に立ち返り、感性と思念で書表現の全く新しい地平を開拓されてきたのである。
龜甲会の理念は、文字の根源に根差した創造と新世紀の書活動の二面がある。
文字の根源に根差した創造とは、生命と心を表出した古代文字を通して、制作者内面の世界を独自の技法を駆使し、墨線で表現することとしている。それは、単に古代文字の字面を蘇生させているということではなく、原始的な古代文字を通して製作者自身の内面の表現を行う創造的な活動なのである。
また、書活動を通して、次の時代に人間が必要とする個々人の人生観・世界観・歴史観を示すことを目指している。
作者は、一人一人これらの視座にたち、自らの「生」を燃焼させ、新しい芸術活動と思索に取り組む。それを観る者は、作品を通して作者の人生観・世界観を共有する。
時代の先を読み精神文化の向上に貢献したいという加藤先生の芸術思想そのものが、まさに龜甲会に宿っている。
写真にある作品のテーマは、「文字玄中子乱舞」文字は、筆を表し、玄中子は、墨を表す。乱には、二つの意味があり、「おさめる」と「みだれる」、舞は、所謂、日本の舞の繊細でゆっくりとしたなめらかな動きを示す。
研ぎ澄まされた筆使い。黒い墨のみの世界。墨は激しくも乱れ、ゆったりと舞う。そうした微妙な動きはまるで、私たちが住んでいるこの世の中の様子を表しているようでもある。
白と黒で一度しか描けないからこそ、書の世界は厳しく奥も深い。
ITビジネスに求められる資質、思考、表現も、キャンバスや技巧こそ違うものの無縁ではない。人は、何かを通して何かを伝えようとするものである。