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IT活用効果指標(IT-CMF)- IT組織が自らを評価し変身する方法 -


 ここ数十年の間にITは、社会に良かれ悪しかれ浸透した。役に立っているケースもあるし、IT導入に失敗し多大な損失を及ぼすケースもある。ITの基本技術は確実に進化し続けるが、果たして組織は、それに追いついていけるのだろうか?どのように自社の組織を改革していけばよいのだろうか?

 組織の改革方針が明確で、社員がその情報を共有している企業は、日本では極めて少ない。
まじめな企業は数多く存在するが、戦略的、計画的に改革を進めている企業は稀である。
また、企業の改革を助ける方法論、手法も無く、経験と勘で、より良くなることを願いつつ思いつきの策を進めているのが実情だろう。そのような場合は、どんな優秀な企業でも、ビジネス上の優先度に基づいて、ただ表面的な施策を無理やり実施するのが、せいぜいである。

 社会全体の労働生産性という尺度で日本を眺めると、米国に比べ日本はかなり低い傾向がある。何故だろうか?

 文化的な差異、社会の仕組みの違いなど、原因は多岐にわたっているかもしれない。IT活用度というテーマについて云えば、日本企業の売上高に対するIT予算の比率は、平均1%以下である。この1%以下という数字は、先進国の中では際立って低い。一例を挙げれば、米国の3分の1程度であることから、日本企業の生産性の低さの重要な要因のひとつとして、ITの活用度が関係していることは明らかである。

 さて、今回私がIT活用度を高めるという観点から注目し、活用を推奨する手法の一つに、IT-CMFがある。
IT-CMFとはITの Capability Maturity Framework の略称で、日本では、IT活用力成熟度フレームワークと呼んでいる。このフレームワークは、組織のIT活用度を5段階の成熟度に分類し、これに基づいて、組織のIT活用度を評価し、ITの活用をより高めて行く為の指針となるものだ。このフレームワークを開発したのは、米国のインテル社であり、アイルランド国立大学とインテルのヨーロッパ研究所が共同で設立したイノベーション・バリュー・インスチチュート(IVI)が中心になり、欧米を中心として普及活動を行っている。

 2年ほど前から日本での活動が開始された。IT-CMFの日本での活動は、インテル、東工大、当社(アイ・ティ・イノベーション)、さらには、宮崎大、久留米大、北陸先端大、などの大学、オージス総研、NTTデータ、日立、などの企業、itSMF Japanなどが中心に適用と普及組織を構成し活動している。

 これらの活動で得たノウハウは、ビジネスとITの融合時代に入った現代に必要な企業変革の指針となる。IT-CMFは、ビジネスの要求とITの導入に実際に貢献し、ITが持つポテンシャルを最大限に生かす役割を担う。欧米では、IT-CMFの活用企業が既に500社を上回る規模になっており、頻繁にセミナーや事例共有などの活動が行われているが、日本は、スタートラインに立ったに過ぎない。

 さて、実際のIT-CMFに含まれる35種類の重要活用力指標には、以下のものがある。

・ビジネスのようにITを管理する
・IT予算を管理する
・ITの活用力を管理する
・ビジネス価値志向でITを管理する 

といった4つの大きな軸を元に、ITリーダーシップとガバナンス、ビジネスプロセス・マネジメント、ビジネス計画、戦略計画、エンタープライズ・アーキテクチャ管理、人的資源管理、知識資産管理、ソリューション提供、総保有コスト、ベネフィット・アセスメントと見える化、ポートフォリオ管理など35の重要項目が、分類されている。(表1を参照)

マクロ・ケイパビリティにおけるCritical Capability1

表1 マクロ・ケイパビリティにおけるCritical Capability
出典 IT Capability Maturity FrameworkTM (IT-CMFTM)
   The Body of Knowledge Guideを基に日本語訳を作成

 これらの各項目をさらに5段階の成熟度で組織評価し、強み、弱み分析を行う。最重要項目の優先順位とアクションプランを明確にし、改革を実施する。私達が手に入れる目標とアクションは、裏づけがあり、依存関係も明確で、自信を持って実行に移すことができる。IT-CMFで組織の力を測ったうえで、改革を実際に取り組むことが重要である。
 IT-CMFで私たちが手にした目標は、企業のビジネス戦略の優先順位とも結び付けられなければならないし、同時にそれに基づいて人材の育成も行うべきなのである。真の人材育成は、トレーニング(狭義の)を示しているのではない。戦略の延長線上にあるビジネスプロジェクト、ITプロジェクトなどの実践を通じて、人を育てるのだ。個人の目標と仕事での実践の結びつき、つまり、計画・準備(トレーニングを含む)、実施、評価、アクションのPDCAのサイクルにより、組織力と個人の実力を高めることができる。

 IT-CMFはIT活用度を高めることで企業の生産性向上の一助となるであろう。生産性の向上は直接的には収益の向上をもたらし、結果として企業価値を向上させる。間接的には個人のワークライフバランスにも貢献するであろう。また、IT-CMFは上記のように真の人材育成にも貢献する。
まさに企業が社会に貢献し、個人が企業に貢献する。貢献の輪(三方よしの原理)が実現し、それこそが、改革の成功と言えるのである。

 IT活用度改革に注目し、日本の労働生産性と活動の質向上を後押しする活動をしよう。

 組織におけるIT活用度が、IT-CMFの視点とすれば、日本では、IPAが、中心となりUISS、ITSS、ETSSなどの個人のITスキルに関するスキル標準に関わる活動が10数年かけて普及、発展してきた。人のスキル向上を軸に組織を改革発展させるためには、個人と組織の両面で、改革目標の整合性を取る必要がある。今後の活動に、大いに期待している。

IPA:正式名称:独立行政法人情報処理推進機構
UISS: Users’ Information Systems Skill Standards (情報システムユーザースキル標準)
ITSS: IT skill standard (ITスキル標準)
ETSS: Embedded Technology Skill Standards (組込みスキル標準)

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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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