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厳しいプロジェクトの最終段階で大切なこと - 顧客との対話から -


 今年も多くのITプロジェクトが実施され、その多くは年度末が迫ってくるタイミングで佳境に入る。特に業務系のプロジェクトは、年度末や多くの人が休みを取るゴールデンウイーク、正月連休、またはお盆を挟んだ夏休みを利用して新システムへの切り替えを実施する。公共、金融、サービス業などのシステムの責任者や担当者の場合、正月や夏休みを何年もまともに取ったことが無いという方が多いのではないだろうか。本当にご苦労様と申し上げたい。
 
 私は長年に亘り、トラブルを抱えながらも何とか完遂しなければならないITプロジェクトの責任者やマネジャーと対話し、対応策を共に考えてきた。以前には「プロジェクトの条理と不条理」と題してプロジェクト活動の本質について検討し、世の中に問うたこともある。(『プロジェクト・マネジャーが、知るべき97のこと』P.218-219掲載 発行:オライリー・ジャパン、販売:オーム社)

 稼働まで数か月を迎えたプロジェクトの終盤で何が一番大切であるのか、明らかにしてみよう。

 プロジェクトの責任者は、納期(スケジュール)、成果物の品質、予算を中心に貫徹しようとする。
こういったマネジメント方法は、常識的に自然な処置である。しかし、まじめに取り組めば取り組むほど、意外に見落しがちな要素は、以下の点にある。

①プロジェクトでリーダーシップを発揮すべき自分自身の健康管理(こころ、からだ)が十分であるかどうか?

②アサインされている人の面から、詳細スケジュールと設計整合性を相互チェックし、抜け・漏れがあるかどうか?

③キーマンを軸に人的リソースのリスク評価を行い、事前対策、不測の事態発生時の対策ができているか?  

 上記を考慮しつつ、人を中心に実際の行動をフレッシュな目で点検する。この方法をマネジメントに織り込んでいき、最終段階での更なる対処を考える。そこでは、決して、「できている筈」と信じてはならない。冷静にプロジェクトの終盤が進行し、完了できるかどうかを見定めるのだ。「やるしかない」と責任者は、自分自身を納得させがちなのだが、まさにそこにプロジェクトの落とし穴がある。プロジェクトは、所詮、生身の不完全な人間が動かしているのだ。プロジェクトとは、不条理なもので、それを含んでプロジェクトであるという理解が必要だ。頭で理解するのではなく、体で理解するのだ。体でプロジェクトを理解している人は、良い仕事をする。プロジェクト活動は、論理で成り立っているのではなく、プロジェクトという「人で構成された生き物である」と理解できた時、打つべき策が、よりハッキリしてくる。

 誰でも組織に貢献しようとする「気持ち」があることは否定しない。しかし、問題は、佳境の状況で、生産性や品質を決定付けるのは、人の「集中力」である。どんな優秀な人でも疲労が重なってくると集中できなくなるし、ミスも多くなる。私は、人に焦点を当てて、この「集中力」を阻害する要因を取り除いていくこともまた重要なことだと考えている。最後に効いてくるのは「持続力と冷静さ」であり、これには「集中力」が必要であり、「集中力」を維持していくには、上記の3点に留意してマネジメントしていくことが肝要なのだ。

 これまでプロジェクトの暗い面ばかり書いたが、プロジェクトには、プロジェクトを成功させれば、苦労しても「人が育つ」というメカニズムが内蔵されている、という明るい面がある。私は、プロジェクトを通して、人が一皮向け大きく成長する姿を見てきた。このことも皆さんにお伝えしたい。

 年末にかけて、休みが取れないIT関連の方へ、「プロジェクトの一員であること自体が価値なんだよ!」という労いの言葉を最後に送りたい。

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林衛
IT戦略とプロジェクトマネジメントを中核にITビジネスのコンサルティングを行うアイ・ティ・イノベーションのファウンダーであり社長を務める。◆コンサルの実践を積みながら英米のIT企業とかかわる中で先端的な方法論と技術を学び、コンサルティング力に磨きをかけてきた。技術にも人間にも精通するPM界のグランドマスター的存在。◆Modusアカデミー講師。ドラッカー学会会員、名古屋工業大学・東京工業大学などの大学の講師を勤める。

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