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企業システムのスコープ拡大


今回のブログは、これからの企業システムのスコープがどのように拡大して行くかについてお話したい。業種としては主として製造業に適用できる話であるが、必ずしもメーカーでなくとも同様のことが言える業種もあるのではないかと思われる。最近、企業システムのIT戦略を立案する際に、「ビジネスモデルがあまり代わり映えしないので、IT戦略の目玉となる新機軸がどうも思い浮かばない」とお嘆きのユーザ企業の皆さんは参考になるのではないかと思われる。また、エンプラはどうも面白みに欠けるとおっしゃるIT技術者の皆さんにとっても、新たなIT-SEEDSを有効活用する際のヒントになれば幸いである。

さて、企業のIT戦略立案の初期段階の成果物にBSC(バランスド・スコアカード)戦略マップがある。バックナンバー2014.4.7「ROIへの貢献とは?」にも示されている通り、IT戦略の結果は事業の収益や企業価値向上に繋がってなんぼのものである。そこでポイントとなるのが“顧客の視点”である。B to B to Cの根元にある企業の社内システムにとって、従来は“顧客”の意味するところは一次顧客主体であった。例えば、メーカーの販売先は販社や商社であったりするように。もちろん、その先の二次顧客を管理するシステムが皆無ではないがSCMとしての扱いは薄かった。

企業システムのScope拡大近年、メーカー直販やWeb通販のような販売形態も登場してきたものの、ビジネスモデルとしては相変わらずパートナー経由の販路が主軸となっているケースが多い。しかし、システムに目を向けるとどうであろうか。サプライチェーンそのものは大きく変わらずとも、少しずつ変化が起こっている。従来、別会社のシステムとして存在した販社の受発注システムと親会社の受発注システムの統合や、B to B to B to C型で販社の先にある代理店(3番目のB)への受発注システムの“提供“などが発生している。つまり、会社、法人を越えてアプリケーションを共有し情報品質の精度向上や業務効率化を図るという動きである。言うまでもなく、1システムの範囲拡大は単位面積当たりのコスト効果も大きい。(ことさら枝葉が多くならなければ)

さらに、対象となる相手はBだけではなくC(最終消費者)までその範囲が及ぶことも最近では多く見受けられる。直接WEB販売をせずとも、商品・サービスの良さやCSR活動をWEBサイトで最終顧客に訴求すること等、最早、当たり前となりつつある。余談であるが、前職でヨーロッパにある製薬会社を訪問した際に、製品を服用している患者どうしのコミュニティ・サイトを、製薬企業が運営している事例を紹介された事を思い出した。(日本ではちょっと考えにくい)

これらのことはいったい何を意味するのであろうか。BSCにおける“顧客の視点”を、一次顧客だけでなく、二次、三次、さらには最終顧客、そして商品・サービスを直接購入しない“全てのステークホルダー“までその範囲を広げて解釈することであり、そこに向けて商品・サービスさらには企業価値を訴求する為に、ITを用いて業務プロセスをどう変えたら良いか?を考える事に他ならない。つまり、この”顧客”の捉え方の変化によるシステムスコープの拡大が、ビジネスのROI貢献の糸口になるということである。

さて、このようにスコープが拡大される段階において、企業の情報システムのアーキテクチャにも当然ながらある変革が必要となる。最初に考えなければならない事が、システムが一企業法人を越えることから必要となる“マルチカンパニーモデル化”である。従来のシステムの主人公は“自社”が暗黙知であったものを、“複数会社”で利用可能な構造にすることである。このことは、既に連結会計が義務付けられた際の単体会計システムの一本化や、グループシェアードサービス化を実施された企業では既に経験した事である。また、SaaS等のサービスベンダーのモデルとしては当たり前かもしれない。しかし初めてこれに直面するユーザ企業にとって、SCMシステムにDA的観点から全エンティティのKEY項目に会社コードを加える変更はそう簡単ではない(やり方はここでは省略)。

さらに、このスコープの拡大で考慮しなければならない点に、情報セキュリティやプライバシー保護がある。商流をまたがって異なる利害関係者が同一のシステムを利用する事になるので、データのアクセス権に関して、利用企業・組織に応じたきめ細かい設定が必要となる。また、商流の下流に近づくにつれより最終顧客に近づくことから、今までB to Bで不慣れであった個人情報の取り扱いが発生してくる。これらの対応はきちんとしておきたいところだ。

そしてスコープの拡大において、IT新機軸の有効活用が“攻めの戦略”における重要なポイントとなる。B to Bのみの時代には、“社内システムゆえに「目的を理解し操作マニュアルを読んでルールを守って。。。」と、ユーザ教育の前提の上に成り立っていたものが、他社からのデータエントリーや、コンスーマからのシステム利用となれば、新しいIT技術をふんだんにとり入れた高いユーザビリティが必要となる。そして人手を介さない究極のインターフェースとして”IoT“の活用が待ち望まれる。

このようにシステムのスコープ拡大は少なからずビジネスのROI向上をもたらすが、同時に企業システムのアーキテクチャを変えてゆくことも必要となる。最近、情報システム部不要論やSI崩壊といったマスコミの記事を目にするが、彼らが企業活動の発展の為にやるべき事は山ほどある。ユーザ企業情シスもSIerも目先の問題解決に奔走する日々から早く脱して明日のITを議論したいものである。

 

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中山 嘉之
1982年より協和発酵工業(現、協和発酵キリン)にて、社内システムの構築に携わる。メインフレーム~オープンへとITが変遷する中、DBモデラー兼PMを担い、2013年にエンタープライズ・データHubを中核とする疎結合アーキテクチャの完成に至る。2013年1月よりアイ・ティ・イノベーションにてコンサルタントを務める。【著書】「システム構築の大前提 ― ITアーキテクチャのセオリー」(リックテレコム)

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